14 癒された後にはまた災難が
「おはようございます!」
女将さんに挨拶をして朝食をとる。
昨日散々フォルスさんに打ちのめされたけれど、最近痣や打ち身などは一晩寝るとすかっり治っている。レベルが上がったおかげで回復力が強化されているみたいだ。
さすがに骨折とかになるとそう簡単にはいかないんだろうけどこれはありがたい。
昨日は魔族の騒動に巻き込まれて、教会に行ったもののアンジェラさんや子供達とゆっくり話す暇もなかったから、今日は丸一日教会で過ごすつもりで早めに宿を出る。
こ、これは奉仕活動だから、決して下心があるわけではない!
教会に到着すると昨日の件で色々な人にお礼を言われた。子供達は俺の姿を見つけてすっ飛んできたよ。
彼らの間でも魔族の話で持ちきりだったそうで、俺は一躍ヒーロー扱いだ。
群がる子供たちに囲まれて、アンジェラさんやグレンと満足に話もできない。このままでは埒が明かないので、全員を勉強部屋に集めて昨日の話しを聞かせた。
みんな目を輝かせて聞いていたよ。
ようやく落ち着いて、子供達の勉強の時間が始まる。
俺はアンジェラさんに頼んで、厨房に連れて行ってもらうことにした。昨日のお土産を渡しそびれていたんだ。
二人で廊下を歩いているときにアンジェラさんが急に俺の手を取る。
「リョウタさん、あまり無茶なことをしてないでください。昨日はリョウタさんの姿を見るまで私一体どうすればいいのか本当に心配したんですよ」
アンジェラさん、目がウルウルして俺を見つめているよ。
でも、俺はもう魔族に狙われているんだよな。これから先も昨日のようなことが、度々あるだろう。
「できるだけ心配を掛けないようにします。アンジェラさん、ありがとうございます」
俺はそれだけしか言えなかった。今の俺では、魔族を相手に楽に勝てるほどの実力はない。
昨日はうまく行ったけど、次からやつらは俺がフラガラッハを持っていることを前提に襲ってくるだろう。だからこちらも昨日と同じようにのんびり構えているわけにはいかなかった。
それに簡単にやられるつもりはない! アンジェラさんが待ってくれているなら、必ず俺は彼女の元に帰ってみせる。
これを言葉にできたら格好いいんだけど、ヘタレな俺はアンジェラさんに告げることは出来なかった。
きっといつか、自分の言葉で気持ちを告げることが出来たらいいが、今は彼女を巻き込まないことが先決だ。
この場は何も告げずに手を放して、俺達は厨房に向かった。
いつものように調理担当の人にコトカリスの肉を渡すと大変喜んでくれた。子供たちにおいしい料理をお願いします。
勉強部屋に戻って、本を読んでいるグレンの頭に手を置いて『後でな』と声を掛けると、彼はそれだけで意味が分かったらしくて、『うん』と言ってニッコリする。
昼食後は果樹園の収穫やグレンの魔法の練習などをして過ごした。グレンは魔法を使った水撒きがすごく上達していて驚いた。
7歳で俺よりもたくさん水を出しているんだから、本当に天才だよ! まあ俺も必殺技を出せばグレンに負けないが、こんなことで張り合うのは大人気ないし、それに死に掛けるからやめておこう。
く、悔しくなんかないぞ!
こうして丸一日孤児院で過ごしたけど、魔族のことで重くなりがちな俺の心は癒された。最初はアンジェラさん目当てで通っていたけど、今では自分の実家みたいな大切な場所になっている。
次の日俺はギルドにいる。フォルスさんが『今日もかわいがってやろうか』と言ったけど、それは遠慮しておく。今日は依頼を受けるつもりで来ているんだ。
け、決して逃げているわけではないぞ!
受付で適当な依頼を見繕ってもらって、今俺は森の中にいる。今日もコトカリスを捕ってくる依頼だ。
森の中に分け入ってしばらくすると、前方で物音がしてきた。
幸いこちらに気がついていないようなので、音を立てずに慎重に近づいて様子を伺うと、黒いローブを着た何者かが地面を掘っているようだ。
様子がおかしいのでさらに観察を続けていると、フードの陰からその顔がちらりと見えた。
魔族だ! もうやつらを見るのは3回目、間違いようがない!!
俺は右手に剣を左手にロケット花火をスタンバイさせた。
そのまま一気に近づいて、魔法を打ち込む。
「やったか?!」
だが俺のロケット花火は、やつが展開していた障壁に阻まれた。
俺の存在に気がついた魔族が、魔力を集中する。
「早い!」
やつの方が魔法の発動が圧倒的に早い。この前の魔族は剣で俺に挑みかかってきたが、こいつは魔法中心で攻撃をするタイプのようだ。
やつの手から放たれた黒い塊を、飛びのいて避ける。
塊は後ろにあった大木に当たり、その幹を粉砕した。
(ヤバイ! あれが魔族が使う闇魔法ってやつか?! あの威力は一発食らっただけで死ぬぞ)
やつの手から繰り出される魔法を必死で避ける。発動が早すぎてこちらが魔法に集中する余裕がまったくない。
右に左に避けながら何とか隙を探すが、まったく付け入る隙がなかった。
「あっ!!」
闇魔法を避けようとして、バランスを崩して転倒する。幸い頭の上を黒い塊が飛び越えていったので直撃はしていないが、次の攻撃を避けるには体勢が悪すぎる。
俺は手近にあった石を投げつけた。やつがそれを避けている隙に、手の平一杯に木の葉を掬って上に向けて放り散らす。
何とかこれでやつの目を眩ませる事が出来た。その隙に大きな木の陰に身を隠す。
俺は左のこぶしを握り締めて、そこに魔力を集中した。やつの障壁を突き崩す強力な魔法で勝負を掛けるしかない。
「火よいでよ!」
俺の握りこぶしの中が次第に暖かくなっていく。
(ん? なんだ?? 火にしては随分と生温かいような気がするが・・・・・・)
木の陰から飛び出して発動した魔法をやつに向かって放った。
その瞬間、向こうからも黒い塊が飛んできて、あわてて身を隠す。
俺の魔法はどうなった? 何の音もしないぞ?!
それに向こうからの攻撃が途絶えている。様子を見るために慎重に木の陰から顔を出して、やつの方を見ると・・・・・・
やつは魔法を発動しようとしたままの姿で硬直していた。
おかしい? 何があった??
ゆっくりとやつに近づいていくと・・・・・・この異臭は!!
そうか・・・またやってしまった。
火魔法のはずが『屁』になってしまったようだ。
でもおかげで助かった。やつは相変わらず動く気配がない。脂汗を浮かべているのがはっきりと分かるので、まだ死んではいない。
俺は剣を握り締めて、息を止めたままやつに突進してそのまま首を刎ねた。
そしてそのまま可能な限りその場から離れようと走り続けた。
どうやら臭気は収まったようだ。
俺が元の場所に戻ると首を刎ねられて死んでいるやつの死体と、そこに転がっている黒い石があった。
これは確か魔石っていうやつだな。何に使うのかは分からないが、とりあえず持って帰ろう。
死体と魔石を回収して俺は街に戻っっていった。




