12 地下室での戦い
第12話です。ブックマークしていただいた方、ありがとうございました。
俺はその男を睨み付けながら、手にしているフラガラッハの柄に手を掛ける。
「お前が副司祭か?」
自分で思っている以上に冷静な声をだしていることに気がつく。目の前にいるやつは只者ではないことが伝わってくるが、フォルスさん程の威圧感ではない。
あの人の出す闘気はこうして別の人間と比較すると本当に別格だよな。いったい何者なんだろう?
いかんいかん、相手に集中しなければ・・・
「そう、私は人間達からは現在そう呼ばれていますね」
一々癇に障る話し方をしやがる。まるで自分が人間ではないような事を言っているな。
さっきもグレンをここに連れ去ったことを隠そうともしなかったし・・・いったいこいつは何者だ?
俺の脳裏にあの草原で倒した変なやつの姿がよぎる。
「お前は魔族か?」
カマを掛けるつもりで聞いてみた。
「その通り。どうせこれから死んでいく身のあなたですからね、聞きたい事があれば今のうちにどうぞ」
俺を殺す気満々だなこいつ。
そうはいくか、こっちにも童貞を卒業するという大目標があるんだ! そう簡単にやられてたまるか!!
「なぜグレンをさらった?」
やつがそういう態度だったら、この際色々聞いておこう。
「あの子供には強い魔力を感じましたからねえ、魔力を持つ子供は魔王様復活の生贄として最適なのですよ」
平然と言いやがる、こいつはもう生かしておく理由がないな。
「魔王だと! 復活するのか?」
魔王なんて小説でしか聞いたことがないけど、情報は多いほうがいい。
「そう遠くないうちに魔王様は必ず復活を遂げます! その時が人間どもの最後の時です。おっと、話が過ぎたようですね。さあ、私の手に掛かって死んでください!」
やつは修道服の下に隠してあった剣を取り出し引き抜いた。
「死んでくださいと言われて、素直に従うやつがいると思っているのか?」
俺もフラガラッハを鞘から抜いた。
「そ、その剣は魔剣フラガラッハ! 貴様! いったいそれをどこで手に入れた!?」
今までまったく表情を変えなかったやつの顔色が変わる。
「これか、草原で前の持ち主の変なやつを倒して手に入れたものだ」
俺の答えに男の顔が歪む。
「貴様! よくも魔王様の御分体を・・・容赦しないぞ、この手で切り刻んでやる!」
冷静な振りをしていた化けの皮が剥がれたな。それにしてもやつが言っていた『魔王の分体』って何だ? もしかしてあの変なやつが魔王だったのか?
そんなことは後でいいや! 今は目の前の敵に集中だ。幸いやつは頭に血が上っていて、冷静さを欠いているようだしここはチャンスだな。もう少しおちょくってやるとするか。
「あれが魔王の分体だと! 俺の魔法一撃で簡単に死んだぞ! 魔王ってのは随分と弱いんだな」
効いてる効いてる、顔が真っ赤だよ。でも俺は嘘は言っていないぞ! 一撃で倒したのは事実だし、俺も死にかけたけど・・・
真っ赤な顔をしてやつは大振りで切り掛ってきた。だめだよ、ここは狭い物置なんだから。そんな大振りではどこかに当たって威力がなくなるでしょう。
最初の一振りを冷静に捌く。うん、フォルスさんよりも全然弱い。
俺に剣をかわされたやつが、体勢を崩している。ここはチャンスだ! フラガラッハから左手を離してロケット花火を発射!
やったね! 5発全部命中したよ。体のあちこちが燃え出して、やつはもがいている。
あっ! 水魔法で火を消しやがった! きったねー・・・その上回復魔法まで使っているよ。さっさと止めを刺しておけばよかった。
「ふっふっふ、油断したぞ。まさか無詠唱で魔法を使ってくるとは思わなかった。ここからが本当の勝負だ!」
あのー・・・その台詞は負けフラグではないかと思いますが。
まあいい、今度はこっちからいってやろう。
俺は剣を振り上げて、やつに切りかかる・・・と見せかけて一歩引いてから再び左手を構える。
オークキングのときと一緒だ、このフェイントは効果がある。やつはとっさに横に横に動いて俺の射線から逃げようとする。
もう一度フェイントをかけて、今度は本当に打ち出す。ロケット花火は壁にぶつかって大きな火を上げた。
ここはあまり燃えそうな物がないから火はすぐに消えたけど、やつは額に汗を浮かべている。
さあ、お次はこれだ!
もう一度左手でフェイントを入れてから、俺の必殺の剣戟を繰り出す。
「小手ーー!!」
フラガラッハはやつが剣を持っていた手首を簡単に切り落とした。この剣いつも使っているやつよりも長いんだよな。手首だけでなくて、胴体も結構な深さで切り裂いている。
やつは後ろに下がって回復魔法をかけようとして、目を見開く。
「回復魔法の効果がないだと! まさかこれは魔剣フラガラッハの効果か・・・」
はい! ザコのやられキャラが自分がやられた技を説明しながら死んでいくのは、お約束ですよね。
壁に寄りかかって、ようやく立っているやつの鳩尾に剣を突き立てると、口から血を吐いて事切れた。
やれやれ、終わったか! やつの死体はそのままにして、俺は階段を上がる。
一回の廊下に出るドアの鍵を外して、ガチャリとドアを開けると・・・・・・そこには祈るように手を組んで立っているアンジェラさんがいた。
「リョウタさん、ご無事だったんですね!!」
心配そうにうつむいていた顔が跳ね上がって、俺を見つめる。
「よかったです、本当に心配しました!」
そういって俺に抱きついて泣き出してしまった。
参ったなあ・・・泣いている女の子を慰めるなんて童貞の俺にはハードルが高すぎるよ!
「アンジェラさん、俺は簡単には死にませんよ。あなたが待っていてくれれば、必ず戻ってきます!」
ど、どうだ・・・この台詞は決まったか?
「リョウタさん・・・」
泣き顔のままポーっと俺を見つめるアンジェラさん。
そのままもう一度『リョウタさん』といって俺の胸に顔を埋めてくれた。どうやら合格点は取れたようだ。
彼女を抱きしめてやりたかったけど、両手が返り血で真っ赤だったので泣く泣く諦めた。
くそー! こんなチャンスはもうないかもしれないのに・・・・・・
ようやくアンジェラさんが落ち着いたので、祭司長さんを呼んできてもらうように頼む。
彼女は『ハイ』といって元気に駆け出していった。
しばらく待っていると、アンジェラさんに連れられて祭司長がやって来た。血まみれで立っている俺を見てギョッとしていたよ。
「祭司長さん、大変なことが起きています、俺と一緒に来てください。アンジェラさんはグレンのところにいてやってください」
彼女にはあの光景は見せたくないからな。俺は祭司長と一緒に地下の部屋まで行くと、そこには変身の魔法が解けて元の姿に戻っている魔族が横たわっていた。
「なんと! これは魔族ではありませんか!」
祭司長さんが驚いた声を出す。
「その通りです。こいつは副祭司長に成りすまして、子供をさらおうとしていました」
俺の言葉に『これは大変なことが起こった』とつぶやく祭司長。
「誰か人を遣って、騎士団と冒険者ギルドに連絡をしてください」
『わかりました』と言って部屋を後にする祭司長。
しばらく待っていると、大勢の足音が俺の耳に届いてきた。
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現在同時連載中の『異世界にいったら、能力を1000分の1にされました ~『破王』蹂躙の章~』(n2600dj)もぜひ読んでみてください。




