1.1
目を開けると、見知らぬ部屋にいた。
保健室ではない。
そもそも、現代の一般的な部屋でもない。
中世的な木で枠ぐまれた石の壁で作られた家だ。
自分の寝ているベッドもお世辞にも寝心地がいいとは言えない。
それどころか、少しジメジメとした空気は居心地が悪い。
とりあえずだれか人がいないか探さなくては。
ベットから起き上がる、
ふと、気分の悪さが大分、和らいでいることに気付く。
頭痛はするものの、保健室を訪れる前よりは大分楽になっている。
もしかして、何日も寝ていてここに運ばれたとかだろうか?
扉、木製のしっかりとした作りの扉を開ける。
今自分がいた空間よりは広い、居間だろうか?
そこで一人の人物を見つける。
白髪の人物、自分が扉を開けたことに気付いたのか、
こちらに振り向こうとする。
振り向いたのは老人、髪は白髪で髭は口元にだけ伸びている。
「え、えーと……」
何をしゃべればいいかがわからない。
自分があたふたしていると――
「まあまあ、落ち着きなさい。こちらに座って。
お茶でも出そう。さあ」
「あ、はい」
とても落ち着いた声だった。
自分が慌てているのが恥ずかしくなるような。
彼は席を立ち、どこかから湯呑を持ってくる。
自分は彼の示した席に座り老人と向かい合う。
「まあ、私のいえることは多くはない、私の名はサレム、もう昔のようには動けん老人だがね。君が村の端に倒れていたのを村の少年が見つけて、うちに連れてきたのだよ。半日くらいは寝てたかな、大丈夫そうだけど、これ以上起きないなら医者にでもつれてくとこだった」
「あ、狭山卓司といいます。あの? ここは?」
「サヤマタクジくんね、ここはアリストス地方のシーノス村だよ」
「? ? ?」
アリストス地方?外国?
いや、でも彼は日本語を使っているし。
「ん? ここら辺の出身じゃないのかな?
蒸気文明圏の方の出身かな?確かに君の服はここら辺では見ないようなものだね」
蒸気文明圏?
「あの、ここは日本ですよね?」
「ニホン? 聞いたことのない地名だけど、君はそこに行きたいのかい? 近頃は旅人も多いね」
その時、シュコー、シュコーと音が鳴った。
驚いて後ろを見る。
後ろの機械が鳴きながら蒸気を吹く。
「機関も珍しいのかね? 文明圏ではなく、山奥から来たのかい?」
老人の顔色は優しくこちらを気遣うものだったが、
徐々に老人の顔も困惑したものになっている。
自分も頭を抱えたい。
彼との会話がうまく成り立たない。
まるで根柢の常識が違うような。
自分が異世界にでも紛れ込んでしまった気分だ。
自分は頭を抱えたくなってきた。
もしかして、夢を見ているのだろうか、
そうだととても嬉しいのだが。