3.1
「あとどれくらいで港町につくのかな?」
「ロメオによると明後日には港町シーランに着くようだね」
そう自分たちはまだ隊商人たちと港町を目指している。まああと少しで着くようで、もうほとんど手伝いをすることもなくのんびりとヴィオと風景でも眺めながら馬車に揺られるだけである。
「うん! これでもうあの恰好をしなくていいと思うと気持ちが晴れやかになるわ」
あの恰好とはたぶんネコミミのことだろうか、そんなに嫌だったのだろうか。個人的にはとても愛らしいと思うのでこのまま続けてもらってもいいくらいなのだが。
「あの恰好も悪くなかったと思うよ」
「そ、そう! まあタクジが言うなら少しは信じてあげるけど」
うん、自分は純粋に真実を述べているだけである。決して変態とかプレイとかそういったことではないとだけ確認しておく。
彼女は足をパタパタとさせながら遠くの景色を見ている。自分にとってもこんな自然と隣り合わせな世界は珍しいことなのだがここ数か月で大分慣れてしまったと思う。
そんなことを思っていると急に馬車が止まった。
「何かあったのかしら?」
「まあ、すぐに動き出すでしょ」
そういってまた二人で会話に戻ったのだが20分くらいしても一向に馬車が動き出す気配はなかった。周りも若干騒々しく、流石になにか怪しくなってきた。
「見に行ってみましょ。何か困ってるかもしれないし」
「そうだね、もしかしたらヴィオが力になれるかもしれない」
「……ネコミミは嫌よ……」
そう言って自分とヴィオは馬車から降りる。そうして前方で御者をしているジョックさんに声かける。
「ねえ、何かあったの?」
「うーん、よくわかんねえんだが。前の馬車群が動く気配がなくてな。今ロメオとジュリーさんが話を聞きに行ってんだけどな」
「事故か何か?」
自分は尋ねるもジョックもよくわかんない様だ。
「俺見てくるよ。悪いけどヴィオを見ててくれないか?」
「おう頼むわ、いい加減長いしな」
「タクジ……」
ヴィオが自分を不安げに見つめる。
「大丈夫だよ、絶対に無事に帰ってくるから」
「うん、待ってるわ……」
いまだに不安そうに上目遣いで見上げてくる彼女の頭をなでる。すると少しくすぐったそうに顔を伏せた。
自分は歩き出す。前方には八台の馬車が止まっていた。なにか騒がしい様だが人影が見えない。ロメオやジュリーさんはどこに行ったのだろう、まずは二人を探すのが先決だろうか。
そう思いながら歩いて馬車に近づいていく。
「すいませーん、あのー」
声をかける、反応は無し、馬車の間を縫うように進む。ただくぐもったうめき声だけが聞こえるだけだ。うめき声……?
なんでこんなに多くのうめき声が聞こえるんだ?おかしい、やっとそのことに気付く。
とりあえず状況を把握しなくては。目の前の馬車を失礼ながら勝手に開けさせてもらう。そこには数人男性、貴族のような服を着て身なりは良さそうな人が拘束されて寝かされていた。うめき声はこの人たちの声だったのだ。
「今、外します!」
自分は馬車に入ろうとする。その時倒れこんでいる男性が自分の後ろを見てより一層大声を上げる。何事かと背後を見る、そこには、男性。そう男性が立っていたこん棒なようなものを自分に振り下ろそうとしてだが!
咄嗟の判断。高速移動で横に回る、そのまま相手を蹴とばす。男がこん棒を振り下ろすより先に地面を転がる。
だが次に自分は何をすべきなのか?この男を問いただすべきなのか、それとも拘束されている人を助けるべきなのか。
「ジョッーーーーク!」
とりあえず大声で叫ぶ。自分一人での解決は難しそうだと判断したからだ。これだけの大声で叫べばジョックが気付いてくれるはずだ。
「ちっ、またお前か!」
倒れこんだ男が起き上がる。この男、出会うのは四度目、夜に戦った相手、煙幕で逃げられた男、ルイジヴァンパの一人。
ということは、もしかしてこの馬車群は襲われているのか?
「おまえ、めんどくせえよ。ここで死んでおけ」
そういうと男はこん棒を振りかぶる。そうして――
「爆発しろ。熱をもって、時を超えて、ありうる形を変えよ――」
そういうと、男はズボンのポケットから何かを取り出す。そしてそれをこん棒を使い野球のようにこちらに打ち出してくる。そしてその何かが爆ぜる!
自分は危険を感じ後退する。この男、魔術も使えるのだ。魔術使いとはいまだにたたったことはなく何ができるのかなじみの薄い自分にはよくわからない。だがだからこそ様子を見るべきだ、前回は一気にかたをつける判断をしたが今回は真逆の判断をした。
距離を取る、約15メートルほど。互いの視線が交差する。自分は男の魔術に気負付けなくてはいけないし、相手も自分の高速移動に注意を払っているようだ。
相手が動く。
遅い、遅い、
見える、男のがこん棒とても遅く、時計の針が動くように遅く。
動く、俺の体は男がこん棒を振るうより速く、一筋の雷電のように速く動くのだ。
「はやく倒れやがれ!」
男が叫びこん棒を振るう、振るう、振るう。
だが、すべては空気を切るだけ。
「ちっ! 風を纏い現れよ、嵐のように現れよ――
「おい! シモン! 退散だ! 早くしろ! もう十分すぎるほどの戦果は得た!」
何処かから声がする。男がこちらへの攻撃意志を無くす。
「逃がすと思うか?」
「お前程度には捕まらんさ」
男がそういった瞬間、横から馬車が突っ込んできた。男はそれに飛び乗る。逃がすわけにはいかない。自分は追いかけようとするだが。
風を切り飛んでくるものがある。矢だ。馬車の中から何人かの男がこちらに矢をつがえ放ってくる。幾本もの矢を避けるので精いっぱいでうまく追えない。そうしているうちに相手との距離は離れてしまった。
「おーい、タクジ。これはどういうことだ」
ちょうどその時、背後からジョックが近づいてくる。
「遅いぞ、ジョック逃げられちまった」
「悪い悪い、それより――」
「タクジ! 無事だった?」
慌てたような声、ヴィオがジョックの後ろから出てきた。
「無事? ケガはない?」
「大丈夫だよ、ヴィオ」
彼女は心配そうに近寄ってきながら自分に抱き着いてきたので頭をなでて落ち着かせてやる。ジョックは長くなりそうだと思ったのかこちらを一瞬向くと、どこかに歩いて行った。
「それならいいのよ。良かった」
彼女は安心したようにつぶやく。
「ところで、これは何が起こったのかしら」
「たぶん、ルイジヴァンパの一味に襲われたんだと思うけど……」
自分たちは歩き出す。先ほど拘束されている人たちを助けるため。ジョックは既に助けに行ったようだ。
馬車を覗き、縛られている人の縄を外す。すると――
「姫は? 姫は無事か!」
「姫? お姫様のこと?」
ヴィオが聞き返す、自分もわからない。だがその答えを聞くと男は走り出して行ってしまった。他の人を助けてもみな同じことを言う。何か慌てた様子で、その姫がよほど大事なんだろうか。
「タクジ、ヴィオ。 ジュリーを見なかったか」
ロメオが来て尋ねる。
「見てないが、いないのか」
「ああ、ここにきて捕らえられるまでは一緒だったんだが。彼女が見当たらない」
ロメオがかなり珍しく焦った声をしている。どこか落ち着きがなくそわそわと周りを見ながら答える。
「もしかしたら――」
「姫、姫はどこだ!」
その時、脇から男が自分たちに詰め寄る。
「知らないわ、その姫って誰なの?」
ヴィオが疑問に思ったことを尋ねる。すると――
「姫は姫だ。ウナムの主国王陛下の娘だ!」
そういうと男はまた周辺を捜しに行った。
「なあロメオこれは……」
「うん、事態は最悪に近いかもしれない」
「どういうこと?」
「つまり……」
ロメオの言葉が詰まる。現実として認めたくないのだろうか。
「ジュリーさんとその例の姫様が攫われたかもしれないってことだよ」
「っ――」
ヴィオが衝撃で目を丸くする。ロメオは悔しそうにうつむいている。いまだに馬車の周辺で男たちが姫を捜していた。
結局、ジュリーさんも姫様も見つからなった。自分たちの出した結論としては、二人はルイジヴァンパに攫われたのだ。
三章信用、存在しないものの始まりでです。
この章はつなぎ的な意味合いが強いのでまあ気軽に読んでください。




