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2.5


 夜の街、自分のいた世界のように、夜でも街の街灯や24時間営業のコンビニエンスストアが暗闇を照らすことなんてない。

 わかるのは家の中から微かに漏れ出す光と、自分の頭上の儚げな月光のみ。

 その光が、ここが街であることを認識させてくれる。自分の足が地についていることを証明してくれる。


 夜に出歩く。一人でだ。

 ヴィオはもう寝てしまった。

 もう少しで港町シーランには着く、そこからウナムはすぐだ。


 そうすれば、自分とヴィオの旅は終わるのだろうか?

 それが目的のはずなのに、不安がある。

 たとえば、ウナムまで行っても、自分の世界に戻る方法がわからなかったとき。

 たとえば、ヴィオの記憶が戻らなかったら自分はどうするのだろうか。

 ――どうすればいいのだろうか。

 自分だけが旅をできるのか?無理だそんな度胸はない。

 彼女だけで旅ができるのか?無理だろうせめて誰かと一緒じゃないと。

 元から選択肢の少ない状況ではあった。

 でも、また選び直さなきゃいけないのだろうか……


 誰かと話したい――


 ふと、そう思った。

 誰と話すべきか?

 ヴィオ?

 まさか、彼女は寝てるし、不安にさせたくはない。

 やはり、ロメオだろうか。

 彼はこの世界について詳しいだろうし。

 世界を巡り、いろいろな人と会ってきたはずだ。

 彼なら、話し相手になってくれるだろうか。


 足を、ロメオのいる馬車の方に向ける。

 視界の先は暗闇、それでも記憶を頼りに歩き出す。

 静かな夜、耳に聞こえるのは、自分の足音だけ。


 奥、ロメオの馬車の明かりが見える。

 視界に光が差してくる、先に確かな明かりが見える。

 静かな夜、馬車群の中からかすかな雑音だけが聞こえる。

 だから、気付けたのだろうか。

 ロメオの馬車のあたりから走る人影。

 意識を向けよく見る。

 それは――


「あの!」


 声をかける。男はビクリとしながらこちらを見る。

 その顔は、

 

「あんた、なんかよう?」


 こわばった声色。

 その声は、


「昼に、うちに見に来てましたよね。なにか御用ですか」


 昼間、自分がロメオと接客を変わったときに何も買わないで帰った男。

 その男がなぜかここいいる。


「いいや、なんでもねえよ。じぁあな」


 男はこちらと目を合わせず。この場を立ち去る。

 あやしい、どう考えても。


 男が視界の先に消えるか、消えないかのところで、男を追いかける。

 足音を殺し、慎重に。

 この寂しい夜の下なら少しの足音でも気付かれてしまうかもしれない。


 男は夜の街の中を進んでいる。

 時に路地に入り、同じ道を引き返したり。

 足音は微かに聞こえる。

 だがこちらを向いたりして気にする様子はない。

 尾行は成功していると言ってもいいのではないだろうか。


 ――その瞬間、


 彼は急に走り出した。

 全力で路地を曲がり走る。

 こちらが油断した瞬間、一瞬こちらを見て、こちらを油断させ尾行を撒くためのブラフだったのだ。

 自分も走り出す。高速移動ではなく普通の走り。

 路地を曲がる。

 先にさらに路地を曲がる男の姿、自分も追いかける。

 そして、路地を曲がり前を見たとき、

 視界が揺らぐ、前を見ていた視線は、地面を向いている。

 足をかけられた。と思った時には、自分の体は、固い石造りの地面に叩きつけられていた。

 男が自分に覆いかぶさろうとする。

 その瞬間、足から全力で駆ける。

 こんどこそ高速移動、体勢の立て直しより男のレンジから離れるための移動。

 男は急に自分がいなくなったのを見て慌てる。

 目線が標的を探し絶え間なく移動する。

 自分は男の視界に入るより速く背後に移動する。

 男はこちらの気配に気づき振り返ろうとする、だが遅い、男の足を払う。

 男は地面にあおむけに倒れる。

 自分はその上に馬乗りになり男を押さえ込む。


 ハァ……ハァ……

 男も自分も息を切らしている。

 心臓は張り裂けそうなほど鳴り痛みさえも感じる。


「おまえ、なんなんだよ」


「あなたこそ、さっき何してたんですか」


 互いの視線が交わる。

 

「さっき馬車の近くにいましたよね、何してたんですか」


「お前には、関係ないね」


「何かしていたことは認めるのですか」


「……」


 男は黙っている。すでに視線をそらし、こちらを見ようとしない。

 どうするべきか……

 このまま組み伏せていても埒が明かない。

 だが、自分ではこの男をロメオのところに連れていき、尋問するのは無理だろう。たぶん、たどり着くまでにまた逃げられてしまうだろう。


「俺はなぁ……」


 男が口を開く、自分の視線が彼に向く。

 とっさに男の口が動く。


「ペッ――」


 言葉を紡ぐためではない。

 口から、自分の顔に唾を吐きかけたのだ。

 顔にべちゃりとしたものが付着する。

 自分はつい顔をしかめ、目をつむってしまう。

 

 そして男は、自分を押しのける、攻撃が来るかと思い身構える。だが、それは来なかった。自分を倒すことより逃げることを優先したのだ。

 目を開ける、顔についた唾をぬぐう、すぐに走る。足音が微かに聞こえるがすでに彼の姿は見えなかった。路地をうまく使い逃げたのだ。

 走る。

 結局、先ほどまで歩いていた通りまで出てしまった。

 もう男の駆ける音はもう聞こえない。逃げられてしまった。




「なるほど、怪しい男ねぇ」


 ロメオと話す。

 そのあとロメオと話していた、自分の悩みではない。

 先ほどいた、怪しい男についてだ。


「なるほど、確認しに来たのかな。悪い予感的中かな」


「何を確認しにきたんですか」


「うん、実はね毒を盛られてたみたいなんだ」


「……へっ」


「いつかは分らないけど、僕毒を盛られてたみたいなんだよね」


 なにを言っているのかが分らない。


「どういうことですか?」


「うん、夕刻ごろに飲んだ薬あれ解毒剤なんだ。まさかとは思ったけど、そのあと気分は良くなったからね、どうも盛られたらしい」


「え、誰かに命を狙われているということですかっ、それヤバくないで――」


「まあまあ、落ち着いてどうしようか悩んでいたけど、僕もずっと狙われるのも嫌だしね。ちょっと釣ってみようか」


「釣るって、なにを?」


「とりあえず、ジョックを呼んできて」


 彼はそう言って、立つ。


「自分は餌の準備をしないと」


 そういって、彼はどこかに行ってしまった。

 自分もジョックさんを探す。

 すぐに見つかった。

 馬車群の先でたき火の周りで他の傭兵の人と話している。


「ジョックさん少しいいですか」


「おう、なんだボウズ」


「ロメオさんが呼んでます」


「なにかねぇ、面倒なことじゃないといいけど」 


 たぶん、面倒なことだろう。でも自分は顔には出さないようにする。毒のことなど、一言も口にしない。なぜなら、ロメオに毒を盛れる可能性のあるものなんて数少ない、つまり――

 ロメオの馬車につく、ロメオはすでに戻っていた。


「悪いね、タクジ」


「おい、ロメオなんの用だこの夜更けに」


「うん、まあ少し、釣りがしたくてね、その準備を」


「は? わけわからん」


「実はね、今命を狙われてるようでね」


 その言葉を聞いた瞬間、ジョットの顔が真面目になる。


「冗談じゃねぇよなぁ」


「もちろん、毒を盛られてしまった。解毒はしたけど誰かに狙われてるようでね。タクジが先ほど怪しい男をみてね。まあ付きまとわれるのも嫌だし、早めに釣って対処したほうがいいかなと」


「何を、するつもりなのですか」


 彼の言うことはわかる、つまりこのまま誰かに狙われるより。原因を取り除きたいのだ


「なに、さっきから何度もいっているだろう。釣をするんだよ、ただ人手がいるからね、自分が信頼できる君たちに手伝ってもらおうかなとね」


「俺たちだけでいいのか?」


「うん、しっかり、動いてもらえればそんなに人ではいらない。ジュリーやヴィオちゃんが知ったら、面倒なことになるから黙っておいてね」


「それで、どうやって釣るんですか?」


 彼は二本の薬瓶を掲げる。


「まずは、僕自身を餌に釣ってみようと思う」


 彼は、自信ありげな目でこちらを見た。


すいません、ミスで一度削除してしまいました。

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