2.3
「ロメオたちは、馬車で寝るそうだけど。私たちだけ、こんないい部屋で寝泊まりをして、いいものかしら。こんないいとこだものジュリーさんもこっちが良かったと思うわ、彼わりとケチなのかしら?」
「まあまあ、そんなこと言ってはいけないよ。自分たちは彼のお金でここに泊めてもらっているのだから」
「でも、働かされたわ。あんな格好で」
返す言葉が無くなる。
今、自分たちは宿の一室にいる。先ほどまでジュリーさんやロメオと夕食を取っていた。自分たちは馬車で寝る、つもりだったのだが。ジュリーさんも馬車で泊まることになり、少し手ぜまになり、ここに事に泊まることになった。
最初は、ロメオやジュリーさんが泊まるように言ったのだが、自分たちは客人ということで、こちらに泊まることとなった。たぶんロメオなりにヴィオのご機嫌取りのつもりなのだろう、実際ヴィオは少し嬉しそうだ。まあ、二人だけのときは野宿か一番安い宿を探していたので、そこそこ値の張るであろうこの部屋は嬉しいのだろう。もしかしてロメオより自分のほうが甲斐性がないのだろうか?
「ロ、ロメオも褒めてたよ、ヴィオのこと」
「ええうるさいので聞こえてました。特にうれしくもありません」
「そ、そう」
おお、ロメオ可愛そうに、まあ友人としては面白いけども、女性陣の反応は冷たい。
「あ、あの……」
ロメオの運命を嘆いていると、ヴィオが声をかけてきた。うつむいて顔を伏せいている。少し声が小さく、心なしかうわずっている。
「タ、タクジはどう思いましたか?」
いきなりの質問に少し、驚く。ヴィオがこんなことを聞くのは珍しい気がした。でも、なにか嘘を言う理由もないので正直に――
「可愛いと思うよ、うんとてもね」
「そ、そうですか」
結局、彼女は顔をあげなかった。
「ヴィオは今日、楽しかった?」
「……はい、とても。強盗さんは、驚きましたけど、自分なりに考え人に見せるというのは、難しくもありますがそれ以上に楽しい。もしかしたら自分はこういった記憶を、望んでいたのかもしれない」
「何も、思い出さなかった?」
「はい」
「ですが、ですがあわててはいません。もし真に必要ならその時に記憶はあると思います。それまでは記憶喪失も悪くないと思います」
彼女の答えに驚く、とても達観した自分より年下の少女の答えとは思えなかった。でも不思議とヴィオが言うことには、違和感はない、ごく自然に感じる。
「そうか、ヴィオは自分と旅をして良かったか?」
聞いていた。一番聞きたかったこと、一番恐れていたこと。もしかしたら自分が旅を彼女に強いているのではないかということ。彼女が、とても達観していたからだろうか。彼女は正直に答えてくれる気がしたし、自分もその結果を受け入れれると思った。
「はい、もちろん。私は自分の直感を信じるわ、そして今、その直感はタクジとの旅を選んでいる。実際悪かったことなど一度もないわ」
「そうか」
自分は再度驚く、彼女はなんの迷いもなく、とても強い意志を自分に示す。それだけで、自分が、救われるのがわかった。
◇◇◇◇
次の日の朝、この街を出る予定の朝。
自分たちはロメオとジュリーさんそしてグラモンさんと朝食をとっていた。グラモンさんというのは隊商人の一人で、彼もなかなかの商売上手と聞いている。
「うん、だからさぁ。僕はね、三博士の秘術を探し出したいんだ。もちろん売るためじゃない。純粋に興味があるんだ一体どんなものなのか。男のロマン的な」
「くだらないわ」
「俺も欲しいくらいだね」
「素敵です」
「一体、なんですかそれ」
四者四様の答え、ついでにジュリーさん、グラモンさん、ヴィオ、自分の順だ。ただ、自分はこの世界の歴史について詳しくないせいもあり、先ほどからこの食事の席で話題に上がっている。三博士というのがそもそもわからない。
「ああ、タクジ君たちは知らないかも、三博士さっき少し触れたけど、政治の安定、文化の発展に多大な寄与をした三人の鋭才者達。彼らを超える頭脳はこの世にないとも言われたいた人物、12年前に世界が交わった時も、彼らが事態をいち早く沈静化させた。彼らはもう亡くなっていると言われているけど、でも彼らが最後に作った、魔術術式か機関かなにかが確かに在ると言われている。それを三博士の秘術というのさ」
「へえ、とてもすごい人達なのですね」
やはりヴィオはよくわからずに頷いたらしい。
「そんな、在るのか無いのかわからないものを追い求める趣味はないわ」
「そうでしょうか。在るかもしれないもの、それを追い求めるのは美しいことだと思います」
まあ、夢見がちと思われても、ロメオの話は気になるものだと思う、まるで隠された秘宝のようだ、そんなものないとは思うがあったら是非見てみたいものだ。
「うん。ヴィオちゃんはいいことを言うねぇ、このいけ好かない男のところじゃなくて、俺のところで働かない?」
「いえ、彼には拾ってもらった恩があります。一応」
なんか変な意味に聞こえる気がしないでもないことを言っている。
「ね、みんな商人ならヴィオちゃんを欲しがるってね」
「知りませんよそんなこと」
ロメオが自分に小声で話しかけてくる。正直心底どうでもいい。
◇◇◇◇
そんなこんなで、出発の時。
ロメオは忙しそうに、出発の準備をしていた。
自分たちはプロの仕事の邪魔なので、馬車の後ろで彼らを見ている。
「今日は、魔物も出る可能性のある、少し危険な道のりを進むらしいわ」
「そうかそれは危険だね。でもそのためにジョックさんたちを雇っているのだろうだから心配することもないさ」
ジョックさんというのはロメオたちが雇った荒事屋で自分たちが話しかけた最初の時にいた。モヒカンの怖い顔の人のことだ。
ジョックさん以外にも計6人の荒事屋を雇ったらしい。皆、がたいがよくとても強そうだし、実際に心配することはないだろう。
「ええ、そうね彼らなら頼りにしてるわ。それにあなたもいるしね」
こんな可愛い娘にこんなこと言われたら多くの男は堕ちてしまうのではなかろうか。
でも自分は今までの付き合いで彼女のこういったセリフは心の底からの信頼をあらわしているのがよくわかる。本当に不思議な少女だ。
まあ実際に自分に出番などないだろうしゆっくりとさせてもらおう。
と、思っていたが――――
「一旦馬車から降りて―、大型土竜の群れだ!」
ロメオの声が鳴り響く、理由は前から盛り上がってこちらにやってくる。
土、土、土。自分が盛り上がり砂ぼこりを舞いあげながらこちらに突進してくるのだ。
みな馬車から降り退避する。馬車は街道わきに寄せ、モグラの進行コースからそらす。これでひと安心と思ったその時。
モグラの一体が急に進路を変えて馬車のほうに突撃していく。そして一台の馬車にぶつかり、あまりの勢いに馬車が勢いよく横転し、中にあった演奏機関が宙を舞う。
これは――――自分は全力で走り出す、高速移動だ。
宙にある演奏機関は三台、走り手に取る。大きく一つもつのが限界のため、手に取り、ゆっくり地面に置く。そして次、さらに次と三台の演奏機関を地面への衝突から免れさせる。
だがこれでは終わらない。まだモグラは他の馬車へと行こうとする。
「土よ――固まれ――『牢』――」
ジョックさんの声が鳴り響く。その瞬間モグラの進行先の土が形を変えそこにモグラが突っ込む。そして土はモグラを捕らえようと牢のように姿を変える。そうしてモグラが捕獲された。牢は堅く、モグラは中から出られられない様だ。これが自分が始めて見た、魔術だった。
「いやあ、すごいよタクジ君!君なんであんな速くうごけるのさ。そういうことは速くいってよ。まあでもとりあえずありがとう。演奏機関はすべて無事だったよ」
「それなら、良かったです。頑張ったかいがありました。それにしてもジョックさんて魔術師だったんですね」
「おう、まあ三流もいいとこだが、この指輪の補助のおかげなんだがね」
うん、見た目的に筋力おしかと思ってたがそうでもないらしい。先ほどのモグラは逃してやり、馬車は修理中だ。そういった技術を持つ人間もいるらしい。隊商人というのも大変だと思った。
「ね、やはりタクジは頼りになるわ」
なぜかヴィオが自慢げだった。




