「暑くないかい? ヴィオ」
「大丈夫、心配いらないわ、タクジ」
「いまは大丈夫かもしれないけど、あとでつらくなるかもしれないからね。君はまだ幼いんだから、心配はするよ」
「変なの、タクジはまるで父親みたいね」
彼女はクスクスと可憐に笑う。
石造りの舗装された街道を歩く自分と少女。
リボンが胸元に全体にフリルをあしらった紫のワンピースに茶色のブーツを着て、服より少し淡い紫色の短めの髪と紅い瞳の少女、名をヴィオという。あまり動きやすい格好をしているわけでは無いが自分と旅をしている。
彼女は記憶を求めて、自分は元の世界に帰るため。
そうここは自分のいた世界とは異なる、
――異世界なのだ。
自分は元の世界に帰るために、彼女は記憶のために、
こんなでこぼこな二人の旅――その記録の一片がこの物語なのである。
◇◇◇◇
男は歩く。顔つきはまだ壮健でたくましく見えるが、
白髪と髭を生やした年老いた男。
歩く、歩く、歩く。大広間を歩く。
「これで終わりだ。私もお前たちも幻想も、だがここから始まるのだ。機蒸よ! 教授よ! 我らが夢の果て、悲願を、今、ここに! 起動せよ! 世界の果て、始まり、大威権よ!」
声を張り上げ、虚空を睨み、手を広げ、歩く、歩く――――
これにて世界は交わり、無限の闇につき、泡のように重なり離れ消える。
朝、目を覚ますと寝汗で首元がべったりと濡れていた。
夏の暑さによる汗ではなく、なにか別の……
夢を見ていたような気もするが、何も思い出せない。
頭にもやがかかったような奇妙な気分だ。
気持ち悪さを覚えながら、暑苦しい布団から出る。
今日は平日の木曜日だ学校に行かなければ。
時計を見る、時間はないのでシャワーは浴びて行けそうにない。
けだるさを覚えながら布団から出て、身支度を整える。
両親は科学者で今日も家にはおらず、兄弟もいない一人っ子だ。
時間もないし、食欲もないので朝食を食べずに家を出る。
駅までの道のりを歩く。
舗装された道、並ぶ住宅、青々としげる街路樹。
なにもおかしいところはない普通の風景。
すれ違う人々にもおかしなところなんてない。
なにかおかしさを感じる自分がおかしいのだろうか?
頭が痛い、いまいち思考がまとまらない。
日差しは強く熱い夏真っ盛り、学校もあと一週間で夏休みに入るだろう。
休みの前の鬱屈とした気持ちなのだろうか?
どうも朝から気分が晴れない。
重い足取りを続けると駅が見えてくる。
大きくはない、複合施設などない、
ただ、なかにコンビニなどの入っている、
中型のどこにでもある駅だ。
駅の構内や電車の中なら冷房もきいてるだろうし、
少しは気分も落ち着くだろうか。
学校の最寄り駅まで五駅、短い区間だ――
学校についたときすでに意識は朦朧としていた。
気分は先ほどにまして悪くなっている。
重い足取りを無理やり動かしなんとか歩く。
ちょうど校門を抜けたところで背後から声がかかった。
「おい、狭山? 聞こえてるか? 顔色悪いし、フラフラしてるし死にかけ見たいだぞ」
背後から声をかける者、それはクラスメイトの塩野入だった。
「おい、聞いてるのか? いつもの不愛想な顔とは違うよな。夏バテか? おーい」
自分は今そんなにひどいように見えるのだろうか?
「いや、大丈夫だ、少し、気分が、悪いだけだ」
枯れるような声。
自分でも少し驚く、こんな声を出していては余計に気遣われるだけであろう。
「そうか? まあ、いいけどよ。気分悪いなら家帰るなり、保健室行くなりしろよ」
そうこう話している間に自分たちのクラス、教室が見えてきた。
教室に入る、いつもと変わらない風景。
いつも通り自分の席に座る。
他、なん人かの心配してくれるクラスメイトもいるが自分は、まともに受け答えを返せれているだろうか。
意識が朦朧とする。
――――
「では、授業を始める。今日は期末試験の復習だ。結果は先週返したと思うので――
授業?もう?
男性教諭が授業をしている。
意識が朦朧としている。
本格的に危険かもしれない。
――このように、蒸気機関、産業革命によってもたらされたものは大きい」
そうだ、さっき塩野入が――――
気分が悪いなら――――
どこかに行けと、言っていたような。
何処か――――
そうだ、保健室、保健室だ。
「ん? どうした狭山?」
「すいません、気分が悪いので保健室に行ってきてもいいですか?」
「いいが、ひとりで行けるか?」
「大丈夫、です。失礼します」
席を立ち、教室を出る。
廊下を歩く、頭が痛い、足が重い。
視界がグニャリグニャリと曲がり、足がふらつく。
保健室の扉を開く、教諭は、いない。
勝手にベットに寝転がる。
気持ち悪さは無くならないが……
――もう、目、を、閉じよう。
書き出しました。
筆者の初投稿作品となります。
ラストまでの道のりは考えてあるので、
完結させる気でいます。
どうか、暖かく見守ってください。
すこし整理しました。