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童話

僕の帰る場所

掲載日:2016/01/27

挿絵(By みてみん)

 光り輝く雲の上から、ピュエルはぐっと身を乗り出しました。


 地上では今日も人間たちが忙しそうに働いています。


 短い一生なのに、どうして働いてばかりいるんだろう。


 もっと遊んだり、美味しいものを食べたりして、楽しく暮らせばいいのに。


 そうだ、大雨が降って橋が流れたら、仕事に行かなくてよくなるぞ。


 ピュエルは奇跡の力で三日三晩、大雨を降らせました。


 橋は流れ、街は水びたしになり、仕事どころではありません。


 人間たちはあわてふためき、途方に暮れ、天を恨みました。


「なんということをしたのだ!」


 天使の兄弟たちはかんかんに怒り、偉大な神様に言いつけました。


「ピュエルは人間たちを不幸にしました」


「奇跡の力を無断で使う悪い子です」


「どうか、ピュエルに罰を与えてください」


 神様はピュエルから天使の羽根と奇跡の力を取り上げ、地上に落としました。


 ピュエルは悲しくて、おそろしくて、しくしくと泣きました。


 泉に映る自分の姿は、もう以前のような光り輝く天使ではありません。


 黒い髪、黒い瞳、これではまるで悪魔です。


 天使の羽根がなくては、天の国に帰ることができません。


 奇跡の力がなければ、いずれおなかをすかせて死んでしまいます。


 どうすればいいのかわからなくて、いっそ泡になって消えてしまいたいと思いました。


「おや、こんなところで小さな子供が泣いているよ。どうしたんだい?」


 年老いた騎士が、そっとピュエルの頭を撫でました。


「お父さんやお母さんはどこだね?」


 ピュエルは首を振り、またさめざめと泣きました。


「おうちはどこだね?」


「……ありません」


 困った老騎士は、ひとまず家に連れて帰ることにしました。


 温かいスープを飲み干し、少し元気を取り戻したピュエルは、天の国を追い出されたことを老騎士に話しました。


「僕は、人間を助けようと思ったのに……」


 老騎士はふむ、とうなずき、また頭を撫でてやりました。


「良いことをしようと思ったのに、間違えてしまったのだね」


「僕、もう天の国に帰れないのかな……」


「……大丈夫。君がいい子にしていれば、いつか帰れるよ」


 ピュエルは喜び、いい子になると誓いました。


 家族のいない老騎士はピュエルを大切に育て、ピュエルはたくさん勉強し、老騎士や人間たちに優しく親切にしました。


 やがて、お別れの時がきました。


「泣くんじゃないよ、ピュエル。私は少し先に行くだけだ。そうだ、神様と君の兄弟に、もう君を怒らないでくれとお願いしよう」


 老騎士は静かに笑って、天の国へ行きました。


 一人になったピュエルは、一生懸命働きました。


 たくさんの人間たちに優しく親切にし、人間たちから優しく親切にされました。


 恋をして、結婚して、子供ができたピュエルは、ますますがんばって働きました。


 今なら、どうして人間たちがせっせと働いていたのか、よくわかります。


 ついに、天の国に帰る日がきました。


 うれしいはずなのに、涙が出ます。


 家族や友人と離れるのが、とてもさみしくて、悲しくて、もっと地上にいたいと思いました。


 迎えにきた天使の兄弟と老騎士は、優しくピュエルの頭を撫でてやりました。


 がんばって働いて、たくさんの人間に優しく親切にしたピュエルは、神様に許してもらえました。


「天使の羽根と奇跡の力を返してあげよう」


 しかしピュエルは首を振りました。


「いつか僕の家族や友人が天の国に来たときに、僕だとわからないといけないから」


 天使の羽根も奇跡の力もない、黒い髪と黒い瞳の天使は、今日も光り輝く雲の上から人間たちを見守っています。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分の子どもに語ってあげたい、そんな魅力あふれる作品です。 易しい言葉で簡潔に、それでいて温かみのある文章でした。 ピュエルは誰よりも人の心が分かる天使になりましたね。
[良い点] イラストも本編もとても素敵ですね。 ボクも堕天使のお話しのアイディアを持っていましたが、長原先生のお話の方が素敵なのでまた他の着想やアイディアを捜します。 [一言] イラストはご自分…
[一言] はじめまして。「みてみん」で絵を拝見して、気になって読みにまいりました。 短いなかに、天使の物語が凝縮されていておもしろかったです。 童話というのは不思議な感覚で、大人向けの小説ほど丁寧な…
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