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Alice's Card Game  作者: スーツのウサギ
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1.プロローグ

 桜の花が舞い、紅葉が散り、赤のバラ、白のバラが咲き乱れ、紫陽花すらもそこらに見ることのできる不思議な学園。

 学園の形をとってはいるが、そこには一切の大人の気配はない。

 この世界の夜は常に満月。

 そして満月の夜、つまり毎晩、この学園では茶会が開かれる。

 月夜の茶会。

 昼は休息、夜は茶会。

 それがこの学園の形だった。


 目を覚ますと知らない天井だった。


「…は?」


 思わずそう口に出る。

 いったん落ち着け、現状を把握しろ。

 そう自分に言い聞かせて目を瞑る。

 昨日の行動はどうだった?

 朝、自分の部屋で起きて着替えてリビングに行くと、母親がトーストと目玉焼きを作ってくれていたのでそれを食べて家を出る。

 高校は歩いていける距離だから歩いていって、学校の授業を適当に流しつつ聞いて、放課後はコンビニでバイト。

 家に帰って風呂に入り夕飯を食べ、家族と話して自室に戻り就寝。

 うん、しっかり思い出すことができる。

 自分の中で整理して目を開ける。

 うん、知らない場所だ、なんで?


「あ、目を覚ましたみたいです」


 そこへ声が聞こえて思わずそちらを見る。


「あなたが最後の一人でしたよ?」


 見知らぬ制服に身を包んだ女が俺の方を向いてそう言う。


「最後の一人?」


 どういうことかわからず、思わず聞き返す。


「はい、全部で14人、ここで気絶してたみたいで。他の方はもう起きてあちらに集まってますよ」

「なるほど…」


 そうは言ったものの、全くよくわかっていない。

 14人が気絶してた?誘拐じゃねえか、としか考えようがなかったのだ。


「とりあえず、皆さんの所へ行きましょう?」


 ここでじっとしてても何もわからないと思った俺は女の言葉に頷き、素直に横になっていたベッドがから立ち上がる。

 よく考えると気絶していたというのにベッドに寝かされていたというのもおかしな話だ。

 立ち上がって気付いたが、俺も身に覚えのない服をまとっていた。

 今目の前にいる女の制服とセットで作られたような制服だ。

 もちろんその制服は昨日の自分が来ていたものではない。

 女の後に付いていくと少し開けた場所に出た。

 周りを見るとここは学校の教室のように見える。

 と言っても黒板や教卓、いくつかの机、椅子などがあり、ベッドも14個あってそれでもなお、余裕があるぐらいには広くなっていた。

 俺が寝ていたベッドとみんなが集まっている場所というのはカーテン一枚の隔たりしかなかったらしく、付いていく必要もなく、すぐにそこへ到着した。

 その場にいる人は全員同じ制服をまとっていることから、コレは全員知らぬ間に、と思うのが正しいのだろう。


「これで全員そろったぞ、説明を始めろ」


 俺と女がついたのを確認するなり、先についていた男の一人がそう言った。

 その場にいる人は全員同じ制服をまとっていることから、コレは全員知らぬ間に、と思うのが正しいのだろう。

 先の男は180近くの背丈で、それに見合う体型をしていた。

 制服の上からでもかなりの筋肉がついているのがわかる。

 だが、そんな屈強な男が真剣な顔をしてそう言っている相手は……ウサギの人形だった。

 かなりデフォルメされた人形で可愛らしくできている。

 そんな人形に真剣にそう言っていてはたから見ればおかしい光景なのだが、この場に俺も含め14人もの人がいるというのにそれについて何かを言う人はいない。

 つまり、なにもおかしなことはない、ということなのだろう。

 …さっきから訳わからないことが多すぎて頭痛くなってきた。


『お茶会お茶会、今宵はお茶会』


「…は?」


 何人か思わずと言ったようにそう口に出す。


『満月の今宵、月下の庭で楽しいお茶会が開かれる』


 ウサギは反応することなく言葉を続ける。


『美味しい飲み物はあるけど何かが足りない。

 美味しい食べ物も用意したけどまだ足りない。

 お話たくさんしても何かが足りない』


 そう言いながらウサギは跳び、飛ぶ。

 ワイヤーアクションのような動きで、教室内を自由に動き回る。

 ただ、その身には何もついていない。


「どうなってんだ…」


 誰かがそう言う。


『何が足りないの?何が足りないの?何が足りないの?何が足りないの?何が足りないの?何が足りないの?何が足りないの?何が足りないの?何が足りないの?何が足りないの?』


 ウサギは狂う。

 狂ったウサギは飛び続ける。


「ひっ…!!」


 女の子のうち誰かが声を出して怯える。

 狂ったウサギの顔には、先ほどまでの可愛らしいデフォルメされた笑顔ではなく、狂気の笑顔が浮かんでいる。


『足りないのは娯楽、演目。

 だから君たちが補って?

 僕を、アリスを楽しませて?

 楽しいお茶会はいつまでも続く。

 僕たちが楽しみ終わるまで。

 満月の夜はいつまでも続く。

 僕たちが楽しみ終わるまで。

 君たちはそのためのモノだから』


 そう言った瞬間ウサギは光に包まれ始める。


「おい、ちょっと待てよ!」


 最初にウサギに話しかけていた男がウサギが消えるのを察したのか一番最初に動き始めた。

 光ウサギに触れようとする手は、ウサギに触れる代わりに一枚の紙に触れている。

 パッと見では紙に見えるそれは少し分厚く、どうやら別の物らしい。

 紙のようなものを手にした男はしばらくそれを目にした後なにやら唸っている。


「すみません、僕たちにも見せてもらえませんか?」


 男の近くにいた、眼鏡をかけた別の男がそう声をかけると、屈強な男は軽く謝罪をした後、黒板のほうへ行き、磁石を使ってそれを黒板に掲示した。

 それを既に読んだ男以外は全員、その掲示の方へ向かう。

 もちろん俺も例外ではなく、そちらへ向かい、それを読む。


【味方とともに敵を討つ

 本当の味方は誰?

 周りにいるのは敵なの、味方なの?

 手札は一枚

 偽りと真実が入り乱れる中でカードの兵士は踊る

 武器は既にその手の中に

 仲間も既にその手の中に】


 いまいち意味が分からなかった。

 ここにきてから意味の分からないことが多すぎる…というかすべてが意味の分からないことだ。


「あ、胸ポケットに何か入ってます」


 俺が起きた時に近くにいた女の人がそう言うと胸ポケットからカードを一枚取り出した。

 そしてそのまま座り込む。


「トランプ…?」


 遠目からはトランプに見える。

 自分のポケットにも入っているのかと思い見てみると案の定入っていた。

 疑問を感じながらそれを取り出す。


「あッッ…」


 取り出し、その絵柄を見た瞬間に、情報が直接頭に入ってくる。

 慣れないことに驚き思わず膝をつき周りを見ると、トランプを手にした人はその場で立ち尽くしたり、へたり込んだりしている。


「なんなんだよ、ここ…」


 思わず口からそう漏れる。

 俺の頭に入ってきた情報はこうだ。


【Joker:欺く者

 勝利条件:ジョーカー以外のマーク全員の殺害

 役:虚偽の奪者―他人の手札を持つとその力を使える

 

 茶会への招かれざる客は招かれし客を欺き利用する。

 騙し、奪う者は一人では何もできない。

 騙し、奪う者は周りを欺き利用する。

 この者はJoker。

 茶会を混沌へ導く者なり。】

 殺害。

 その言葉が俺の心に重くのしかかった。


次話、人物紹介です

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