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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
8/188

7


 綾香嬢の遅刻はあれからない。

 そもそも遅刻とかする人じゃないんだよね。

 この間がイレギュラーだったんだよね。イベント的に必要だったんだもん。

 さぞかし本人的には不本意だったんだろうなあ。


 しっかり余裕を持った時間に校門を潜る綾香嬢に何か言いたそうな顔をして、鬼畜眼鏡が見送るのを何度か見たことがある。

 やっぱ、綾香嬢は微妙に鬼畜眼鏡を避けている。

 挨拶しかしない。

 当たり前か。

 あの状況で、にこやかに会話できる要素なんて微塵もない。


 鬼畜眼鏡としては、また言い争いになりそうなのを避けてるのかな?


 それとも、この間学食の件で火村先輩に何か言われたのかな。


 どちらにしても、あの鬼畜眼鏡が黙っていると言うのがなんだか不気味だ。


 土屋君は逆にあれから綾香嬢によく話しかけている。

 端から見ても友達の延長線上のやりとりだけど、土屋君は楽しそうだ。


 ふむ、ゴールデンウィークを目前に土屋君が一歩有利か。


 鬼畜眼鏡が、起死回生を狙うか?


 くっくっくっ。


 見てるだけって、面白い〜


 いやあ、当事者じゃないっていいなあ。


 土屋ルートも大事だけど、実は要注意なルートが他にある。


 高遠ルートだ。


 私はお小遣いの都合で、ゲームセンターに週二回くらいしか行ってないから、気づくのに遅れてしまった。


 なんと、綾香嬢があれから何度かゲームセンターに来ているそうだ。


 今日も、高遠はまだ来てないけど綾香嬢は来た。

 来る度に手作りお菓子を持って来てくれるので、ゲーム仲間の受けもいい。


 綾香嬢のお菓子、美味しいもんね。

 ついでのお裾分けでも、充分にありがたい。


「ショウ君は、何が好き?」

「何でも食べるよー」


 ゲームしながら、けろりと答える。


 綾香嬢は高遠とつるんでいる、と思っている私も何気に特別扱いしてくれる。


 別にいいんだよ。脇役のことなんてガン無視しても。


 出来るだけ、私は綾香嬢と仲良くならないようにしているんだからさ。

 学園でもこっちでも、それなりの距離をおきたいんだよ。

 何故か成功してない気もするんだけどね。


 おかしいなあ、一体何が原因なんだろう?


 近寄りがたい、委員長キャラは現在進行形なんだけどなあ。


「高遠君は、甘いものはどちらかって言うと苦手だって言ってたけど…」


 言って綾香嬢は私を見た。


「そーだねー。飲むのも、ブラックコーヒーとかお茶ばっかりだしねー」


 甘いもの苦手なんて勿体ない。

 人生の半分を損してるぞ。


 それにしても綾香嬢、高遠のリサーチ進んでるなあ。


 やはり、ここは高遠ルート一択か。


 なるほど、なるほど。

 いいんじゃないですか。

 私の平穏な学園生活のためにも、是非とも頑張って頂きたい。


 機嫌よく、私はランキングに名前を打ち込んだ。


「ランキングってショウ君の名前ばかりね」


 横から画面を覗き込んで綾香嬢は不思議そうに私を見る。


 画面にズラリと並んだ、SHOWの文字は圧巻だ。

 見てると嬉しくなってくる。


「そりゃ、そのゲーム。ショウに勝てる奴いねーもん」

「高遠君は?」

「秒殺!」


 私が答えるより早く、ゲーム仲間が返してげらげら笑った。


 笑い事かね。

 君らも、瞬殺のくせに。


 ああ、でも。

 前に一度、高遠はランキングに名前を入力したことがある。

 下の方のランキングだったけど、その日高遠は上機嫌だったそうだ。


 その二日後だったかな?


 ゲームしに来た私は、ランキングに上がる見慣れない名前を、あっさりランク外に弾き出した。


 私が帰った後、自分の名前がなくなったことを知った高遠は、それはそれは荒れたんだそうだ。

 残念ながら、私はどちらも見ていない。

 みんな、ゲーム仲間から聞いた話だ。

 見てみたかったなあ、暴れる高遠。


 で、以後この一件を『高遠の三日天下』と、仲間内では呼んでいる。


 勿論、本人には言ってない。


 言ったらきっと、怪獣レベルで暴れるんじゃないかと思ってる。


 それからしばらく、恨みがましい目で見られたなあ。


 だって、ランキングのFARが高遠だとか思わないって。

 なんで、高遠の高じゃなくて、遠の方なんだか。


 高遠だと知ってたら、もう一日くらいは、残しておいてあげたんだけどなあ。


 自分でFARとか入れたくせに、本人はその名前で呼ばれるのは嫌みたい。


 一度、誰かが『ファー!』って、どこかのゴルフ場みたいに呼んだら、ソッコー殴りに行ったもんね。


 呼ばれて怒るなら、つけるなって。


 そう言ったら、


「お前みたいに、呼ばれるために、入力してるんじゃない」

「? 入力したら、普通それで呼ぶじゃん」

「俺はいいんだよ」

「だったら、TAKATOって入れとけよ…あ、でも、入れる機会ないよね〜」

「喧嘩売ってるのか」

「秒殺してやるよん」


 笑う私を高遠はマジ睨みした。


 わーこわーい。


 毎度のことなので、茶化して終わる。

 睨まれても、殴られたことはない。


 ここにはみんなゲームをしに来ている訳で、一種類でもゲームを極めている私は実に狭い範囲内だけど、ヒエラルキーのトップに君臨している。

 なので、それなりに尊敬されている訳ですよ、はい。


その延長線上なのか、高遠は一目置いてくれているのだ。


ふふん。ちょっと優越感。

 勉強じゃ逆立ちしたって勝てないもんね。


 でも、出会った頃のクールさはこのゲームセンター内だけのことかも知れないけど、今や見る影もない。


 初めのうちは、星合ってこともあって敬遠されてた。

 進学校のエリートだもん。みんなどう接していいか様子を伺っていた。


 その中で、私に全戦全敗なものだから、ある意味なし崩し的に親近感が湧いたみたい。


 今じゃ、くだらないこと言ってしばき倒されるくらいには、みんなも打ち解けている。


 こんなことを話している間にも高遠が来る気配はない。

 今日はもう来ないのかもね。


 メアドも交換してないから、高遠の動向は解らない。


 メアドだけでなくLINEもやってない。


 ここでは私はショウ以外になりたくないから。


 ここに来た頃には、勿論メアドとかみんなに聞かれた。


 ゲームに勝ったら教えると言ったら、メアドの話はそれきりになった。


 だって、未だに私に勝てる人いないし。


 回り回って、私より強い人でないとメアドは交換できないと言う話になってた。


 そういう訳でもないけど、面倒だから訂正してない。


 ま、いいじゃん。


 そーゆーのが一人くらいいてもさ。


「じゃあ、帰る」

「んー」

「じゃーな」


 出口に向かう私に、みんなが声をかける。

 その声を背に、私はゲームセンターを後にした。




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