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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
7/188

6



 いつものように駅前で自転車を停めていると、


「ショウ」


 高遠に声をかけられた。高遠は学校帰りみたい。本当に高遠は黒の詰襟が良く似合う。

 詰襟って、賢そうに見えるよね〜

 高遠だからかなあ?


「ゲーセン、行くだろ」

「行くよ」


 頷いて歩き出そうとしたら、不意に高遠が立ち止まった。そのまま自販機の影に潜り込む。


「なに?」


 視線の先を覗けば、ゲームセンターへの道の途中に綾香嬢と愛美嬢の姿。

 あとガラの悪そうなのが二人。ナンパに失敗して絡んでる。そんな感じ。


「…月女(つきじょ)に絡むなよ」


 苦い顔で高遠が呟く。

 全面的に賛成。


 月女と言うのは、このあたりでこっそり伝わっている呼び名だ。


 白月学園の女子、まあ意味はそのままだよね。場合によっては、お姫様とか呼ぶ人もいる。


 本人たちは、そう呼ばれていることは知っているんだろうか?

 そこはちょっと解らない。


「下手に騒ぎになって、とばっちりは勘弁して欲しいよね」


 何しろ相手は上流階級。これが事件にでも発展したら、路地裏のゲームセンターなんて真っ先に規制の対象になる。

 ただ、ゲームセンターの側で起きたというだけで。


 無関係の無実であっても、規制する側にしたらそんなのは解らない。


「全くだ」


 呻いて、高遠は徐に笛を取り出した。何をするのかと見ていると高らかに笛の音が響き渡った。


 ピーッ、ピーッ、ピー!


「君たち、何をしているんだ!」


 低い声で高遠が怒鳴る。と二人組は慌てて逃げたした。多分、見回りの警官と勘違いした?


 えー、本当に勘違いするんだ。いや、後ろ暗いところがあるから過剰に反応するんだ。


 なら、やらなきゃいいのに。


 って言うか、なんで笛なんて持っている?


 歩き出す高遠の背中に心の中で突っ込みを入れながら後に続く。


 綾香嬢たちは近づく高遠にびくっと震えた。


「月女のお姫様が、こんなとこに来るなよ」

「わ、私たち、雑貨屋さんに…」


 震える声で綾香嬢は答えた。

 月女&お姫様って、高遠は両方言うんだ。

 意外とベタだな。

 むしろ、微笑ましいよ。ちょっと生暖かい気分になったよ。


「雑貨屋?」

「先月だっけ? 駅前にできてたよ」


 高遠の疑問に答えながら落ちた鞄を拾い、埃を払ってから綾香嬢に差し出した。


「でも、今日は止めておきなよ」

「あいつらが戻って来ないとも限らない。さっさと帰った方がいい」


 高遠の言葉に二人はぷるぷると首を縦に振った。


 そんな二人を駅前まで送って、タクシーに乗せる。


 二人とも、私には気付かなかった。

 うん、良かった。


 これでまずは一安心、なんだけど。


「なんか、気が削がれたから、帰るわ」


 言うと、高遠も同じ気分みたい。


「俺も帰る」


 ひらと手を振って、私は高遠と別れて帰った。


◇◆◇


 仕切り直しに、次の日にゲームセンターに行った。昨日は帰ったしね。

 高遠は来ていない。別に待ち合わせしてる訳じゃないから気にしないで、お目当てのゲームの前に座り、ゲーム開始。1プレイ終わったところで、ゲーム仲間に呼ばれた。


「ショウ」

「なに?」

「客」

「客?」


 こんなところに客?


 首を傾げながら、入り口まで来ると、私服の綾香嬢がいた。綾香嬢は私を見てぺこりと頭を下げる。


「昨日はありがとう」

「いいけど、高遠は来ていないよ」

「そうなの…あ、でもお礼言いたかっただけだから。それとこれ、高遠、君にも」


 手渡されのは可愛いラッピング。

 受け取った瞬間、気が付いた。


 やばい!


 これフラグだ。

 高遠ルートだ。


 そう言えば、高遠も攻略対象だった。確か、学園ルートをコンプリートしたら、学園外のルートができるんだった。

 そうか、現実だと全て同時進行なのか。


 うはー、そこまで考えてなかったよ。

 攻略は学園の中だけで終わらないのかあ。


 だとしたら。

 ここで何とか、高遠に接触させないと!


 高遠、たかとー早く!


 内心で焦っていると、高遠が来た。

 ひとりでアワアワしている私を、高遠は訝しげに見た。


「なにやってるんだ? お前」

「高遠、これもらった!」


 慌ててラッピングの一つを高遠に押し付ける。


「昨日のお礼だって」


 高遠はそこで綾香嬢の存在に気が付いた。


「昨日の…月女…」

「とりあえず、駅前まで、送ってきなよ」


 言うと、高遠は何で俺が? と言う顔をしたけど、昨日のことがあるので仕方なく駅の方へと、歩き出した。


 確か、このあとふたりは駅前の雑貨屋に寄ることになるはず。


 危なかった。


 うっかりフラグをへし折るところだった。


 ほっと息をついて包みを開けると中にはクッキーが入っていた。

 昨日、あれから作ったんだ。


 行動、早いな、綾香嬢。


 あれ、でも…


 このイベント、昨日今日の話だっけ?


 もうちょっと後のことだと思ってた。

 まあ、ゲームは時間の経過が分かりにくいしね。

 勝手にそう思ってただけかも。


 考えながら、クッキーをひとつ。


 美味しい!


 このクッキー、マジ美味しい!


 料理のできる女の子、すごいね。

 尊敬するよ。


 感心していると、視線を感じる。

 顔を上げると、ゲーム友達の視線が手にしている包みに注がれていた。


 あー、ハイハイ。

 食べたいんだね、分かるようん。


 とりあえず、一番近くの男子にクッキーを手渡した。


「い、いいのか?」

「いいよ」

「ヤッター!」


 歓声があがる。


「月女の手作りクッキー!」

「おおー!」


 どよめきの後に、実に醜い争奪戦が始まった。


 全員分はないから誰かが泣くんだろうね。


 まあ、いいけど。


 争奪戦を無視してゲームの前に戻る。さて、第二ラウンドを始めようかな。

 コインを取り出したところで、高遠が戻ってきた。


 早くない?


 あれ?

 雑貨屋は?


「高遠?」

「なんだよ?」

「もう帰ってきた?」


 高遠は僅かに首を傾げた。


「タクシー乗せて戻ってきたけど…」


 それの何がまずいのかと言いたそうな顔。


 別にまずくはないけど…


 イベント、未発生?

 そういうのあり?


 なんか、思う方に話が向かってないよね?

 いいのかなあ…


 訳がわからないうちに、高遠との対戦が始まったけど、当然負けるはずはなかった。


 まだまだだね。


 歯軋りしている高遠に、私はにやりと笑った。



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