表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
6/188

5



 昨日の騒動には参ったね。

 一体、何がどうしてあーなったんだろう?

 鬼畜眼鏡と綾香嬢の間には、和気あいあいなんて雰囲気、かけらもなかった。


 って言うか、あれほど殺伐とした様も初めてだよ。


 あーゆーのには、できるだけ関わらないようにしないと。


 目立つのは厳禁だよ。


 やばい、やばい。


 こちらの心情には関係なく、教室は和やかだ。

 まるで昨日のことなどなかったように。


 みんな、対岸の火事か。


 そうだろうとも。私にとっても対岸の火事だったよ。


 今でもそう信じてるよ。

 信じる者は救われるって言うしね。


「神宮寺、おはよー」

「土屋君、おはよう」


 綾香嬢が教室に入ると、土屋隆生(つちやりゅうせい)が真っ先に声をかけた。


 土屋君は、いわゆるやんちゃキャラ。


 勿論、攻略対象だ。土の守護者でもある。


 焦げ茶色の短めの髪、くるっとした悪戯っぽい目。がっつりわんこ系。

 元気一杯の、愛されキャラ。

 特に、女子より男子の人気の方が高い。


 つるんで面白いからだろうね。

 裏表がないところも、好感度高いよね。

 ただ油断すると、いいお友達でおわっちゃうけどね。


 土屋君は挨拶のあと、いきなり綾香嬢にペーパーバッグを差し出した。

 綾香嬢はきょとんとした顔で、土屋君とペーパーバッグを交互に見る。

 プレゼントにしては、ぶっきらぼうだねえ。


「昨日、神宮寺が拾った財布、俺の近所の人でさ」

「あ、そうなんだ」

「なんか、すごく助かったらしいよ。で、お礼を渡してくれって頼まれた」

「お礼なんていいのに…」


 言うものの、綾香嬢は嬉しそうだ。

 何しろ、ペーパーバッグは有名なチョコレートの店のだもん。女の子は嬉しいよね。


 やるな、財布の落とし主。

 女の子が喜ぶツボをよく知っている。


 そして、嬉しそうな綾香嬢を見つめる土屋君も嬉しそうだ。


 実は、昨日の遅刻は五十嵐ルートだけじゃなく、土屋ルートにも掛かっているんだよね。


 遅刻しそうなのに、財布を届けた綾香嬢を、土屋君は、なんていい奴なんだと感心している。

 土屋君の中で、綾香嬢への好感度うなぎ上りだ。

 ご近所さんに頼まれたお礼の品を喜んで配達するくらいにはね。


「圭ちゃ…じゃなくて、五十嵐先輩がなんか言ってきたら、俺に言えよ」

「うん、ありがとう」


 土屋君の言葉に綾香嬢は頷いた。


 言葉から察するに、昨日みたいな険悪な状態が続けば、次は土屋君が綾香嬢を守るために参戦するんだろう。

 土屋君は鬼畜眼鏡にも守護者繋がりで耐性があるから、簡単には怯んだりしないだろうなあ。


 で、三つ巴の戦い…スペクタクルだなあ。


 その時には、当事者に巻き込まれないように気をつけよう。

 ああ言うのは、遠巻きに見ているのが面白いんだよね。

 渦中の真っ只中なんて、絶対に御免被る。


 何にせよ。


 土屋君と綾香嬢の仲が良いのはいいことだ。


 私は本を読んでいる振りをして、全神経を集中して聞き耳を立てている。


 五十嵐ルートが初っぱなから芳しくない以上、土屋ルートは重要だ。


 このまま、お友達エンドを迎えるのか。


 いや、まだ結論を出すのは早いか。


 鬼畜眼鏡の反撃も侮れない。

 あの、鬼畜眼鏡がこのまま黙っているはずかない。


 土屋君も、良いお友達で満足せず、ガンガン押していったら…


 まだまだ導入部。


 どう転ぶかなんて、本人にだって解らないんだから。


 一人でぶつぶつ呟きながら考え込む私を見る周囲の目は微妙な感じだったけど、私は気付かなかった。

 勿論、歩み寄る綾香嬢にも。


「明宮さん…チョコレート、良かったら食べない?」

「は?」


 いきなり声をかけられて、私は焦る。

 話の流れがまったく読めない。


 それを言ったら、綾香嬢の行動が読めない。


 何故、私の方に来る?


 これはまさか、昨日のお礼とか?


 いやいやいや。


 だから、私は何もしてませんて。


 誤解だって。


 茫然と綾香嬢を見上げれば、天使のように微笑んでいる。


 ううっ、眩しい!


 これが、ヒロインの笑顔の威力か!


 これに男たちは、落ちるのか!


 私には、この笑顔に対抗する力はなかった。


「…いただきます」


 大変美味しそうなチョコレートをひとつ頂いた。


 さすが、有名店。


 チョコレートはマジで美味しかった。


 ああ…


 なんで、私、綾香嬢との友好を深めることになっているんだろう。


 誰か、教えて…




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ