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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
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30


 期末テストの結果は中間と同じだった。


 うちょっと上に行けるかな?

 って思ったのは、勉強始めの頃だけだ。


 勉強会に五十嵐先輩の襲撃があって、私のモチベーションはだだ下がりになった。

 これはいかんと、何とか気を持ち直して、図書室での勉強に勤しもうとしたのに、何故か五十嵐先輩の出没率が異様に増えたお陰で、私のストレスは日々マックスだった。

 自分でも解っていたけど、実際に上からものを教えられるのが、こんなにムカつくとは思わなかった。


 五十嵐先輩はアヤと仲良くしてればいいのであって、私にちょっかいかけるのは止めてもらいたい。


 河澄君やアヤがいなかったら、本当に暴れていたと思う。


 一体何度『うっさいわ、ボケ!』と怒鳴りそうになったことか。

 一度くらい、言っておけばよかった。


 私がピキピキする度に、河澄君とアヤがフォローしてくれたから持ったようなものだ。


 あれだけ必死にフォローされて、それを台無しにする根性は私にはない。

 そのせいで、ふたりの成績が落ちなかったことが救いだ。


 二人には気を遣わせてしまって申し訳ないと思うけど、個人的には自分の忍耐力を誉めてやりたい。つーか、誉めて欲しい。誉めろ。


 だけど。

 結果は、前回とほぼ同じ。


 勉強が思っていたより進まなかったのは、絶対にストレスのせいだ。


 あー腹が立つ!

 ほんとーに、腹が立つ!


 やっぱり、こういう時はストレス解消するしかない。

 と言うことで、答案用紙返されて、ソッコーでゲームセンターに来た。


 で、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすべく、ゲームに集中する。

 多分、真っ黒なオーラが滲み出ていたと思う。誰も声をかけて来ないから。


 バシバシコンピュータの対戦キャラを叩きのめしていると、高遠が来た。


「よう」

「ちわ」


 高遠はいつもの表情、いつもの態度。


 むしろ、ストレスでムカついている私の方がいつもと違う。


「……荒れてるな……」


 高遠はそれに気がついたようだ。


「? なんだ、期末の結果、悪かったのか?」

「中間と同じくらい」

「の割には、変な顔だな…」

「変な顔……」


 他に言い様はないのか。

 いや、変な顔で間違いないんだろうけど。


「何かあったのか?」


 高遠が水を向けるものだから、私は勢いで話し出した。


「図書室に鬼畜眼鏡が乱入してきたんだよ!」

「鬼畜眼鏡?」

「こんなのも解らないのかって、上から目線で! 解らないから勉強してるっての!」


 思い出すとまた腹が立ってきた!


 はーらーがーたーつー!


 うきーっと猿になりそうな私を、高遠は呆れたように見ている。


 呆れればいいさ。だけど気が収まらないんだもん。


「…まあ、妨害あっても、現状維持できたのは、良かったんじゃないのか?」

「そうかなあ」

「そうだろ」


 あんまり、誉めらている気がしない。


 納得できなくて、うーうー唸っていると、


「気晴らしにこれやるよ」


 そう言って、高遠はポケットから包みを取りだし、私に向かって投げた。


 一辺が十センチくらいの、紙袋。

 アンティークなデザインのスタンプとマークは見覚えがある。


「これ…」


 駅前の店だよね。

 封を開けると中から出てきたのは、針ネズミのストラップ。


「この間の店のじゃん!」

「お前、それ気に入ってただろう?」


 確かに、面白かったから結構見ていたけど。

 覚えていたんだ。


「これ、くれるの?」

「やるよ」

「うわーありがとー!」


 普通に嬉しいよ。


 でも、意外。高遠って、こういうの買うタイプに見えないんだけど。

 どういう風の吹き回し?


「なんだよ?」

「別にぃ」


 どんな顔して買ったんだ? とか想像すると、なんか笑えるよ。微笑ましいよ。

 ニヤニヤしてると、高遠に睨まれた。


 その時。


「こんにちは」


 アヤが来た。

 アヤもテスト期間振りだよね。

 学校で毎日会っているから、私は久し振り感ないけど。


 まあ、以前よりはゲームセンターに顔を出さなくなったかな。


 高遠とのフラグが弱くなるから、もうちょい来て欲しいんだけどね。


「ショウ君、渡したいものがあるの」


 アヤはまっすぐこちらに来た。

 そしてバッグから取り出したものを私に差し出す。


 小さな紙袋。

 大変見覚えのあるっていうか、ついさっき似たようなの見たばっかりだよ。


「ありがとう?」


 これ、駅前の雑貨屋のなんだけど…


 開けると、針ネズミが出てきた…


 このちょっと薄めの色合いは…

 多分、私が最初に見た針ネズミだ。


「……前に、雑貨屋に行った時の?」

「うん。ショウ君、気に入ってたみたいだから」


 そう言って、アヤは笑う。


 えーと?


 最初にアヤと雑貨屋に行った時に見てたのが右手のこれで、高遠を引き摺って行った時のが左手のこれ…


 いきなり、二つも揃っちゃったよ。


 ああ、高遠が微妙な顔している。

 その様子に気づいて、アヤは私の左手の中にあるもうひとつの針ネズミに目を止めた。


「それ……」

「うん、これさ。さっき高遠に貰ったんだ。奇遇だよね」


 奇遇…だよね?


 なんか、アヤも微妙な顔してるんだけど。


 ふたりして微妙な顔で、視線が合った瞬間。

 バチッて、火花が散った幻が見えた……


 なぜ?


 ふたりとも仲、悪かった?


 間に挟まれて、私は非常に居たたまれないんですけど。

 なんでかなぁ?


「あ、ありがとね。一緒に携帯に付けるよ」


 場の空気が落ち着かなくって、慌てそう言ったら、


「それはやめろ」

「それはやめて」


 ふたり同時に言われたよ。

 すごい、タイミングぴったり。

 息、合ってるなあ。


「でも…」


 並べて付けると良くない?


「やめろ」

「やめて」


 マジ、ふたりに静かな声でぴしりと言われた。


「ワカリマシタ…」



 こわっ。

 なんか、怖いよ、ふたりとも。


 そんなに一緒につけたらいけないのか。


 意味わからん。


 でもふたりが怖いので、高遠のは携帯にアヤのはセカンドバッグにつけることにした。


 ふたりとも、どうにかそれで納得してくれた。


 とりあえず、テストは終わった。


 まあ、それでいいかぁ。


 嫌なことはさっさとわすれよう。


 うん。




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