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期末テストの結果は中間と同じだった。
うちょっと上に行けるかな?
って思ったのは、勉強始めの頃だけだ。
勉強会に五十嵐先輩の襲撃があって、私のモチベーションはだだ下がりになった。
これはいかんと、何とか気を持ち直して、図書室での勉強に勤しもうとしたのに、何故か五十嵐先輩の出没率が異様に増えたお陰で、私のストレスは日々マックスだった。
自分でも解っていたけど、実際に上からものを教えられるのが、こんなにムカつくとは思わなかった。
五十嵐先輩はアヤと仲良くしてればいいのであって、私にちょっかいかけるのは止めてもらいたい。
河澄君やアヤがいなかったら、本当に暴れていたと思う。
一体何度『うっさいわ、ボケ!』と怒鳴りそうになったことか。
一度くらい、言っておけばよかった。
私がピキピキする度に、河澄君とアヤがフォローしてくれたから持ったようなものだ。
あれだけ必死にフォローされて、それを台無しにする根性は私にはない。
そのせいで、ふたりの成績が落ちなかったことが救いだ。
二人には気を遣わせてしまって申し訳ないと思うけど、個人的には自分の忍耐力を誉めてやりたい。つーか、誉めて欲しい。誉めろ。
だけど。
結果は、前回とほぼ同じ。
勉強が思っていたより進まなかったのは、絶対にストレスのせいだ。
あー腹が立つ!
ほんとーに、腹が立つ!
やっぱり、こういう時はストレス解消するしかない。
と言うことで、答案用紙返されて、ソッコーでゲームセンターに来た。
で、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすべく、ゲームに集中する。
多分、真っ黒なオーラが滲み出ていたと思う。誰も声をかけて来ないから。
バシバシコンピュータの対戦キャラを叩きのめしていると、高遠が来た。
「よう」
「ちわ」
高遠はいつもの表情、いつもの態度。
むしろ、ストレスでムカついている私の方がいつもと違う。
「……荒れてるな……」
高遠はそれに気がついたようだ。
「? なんだ、期末の結果、悪かったのか?」
「中間と同じくらい」
「の割には、変な顔だな…」
「変な顔……」
他に言い様はないのか。
いや、変な顔で間違いないんだろうけど。
「何かあったのか?」
高遠が水を向けるものだから、私は勢いで話し出した。
「図書室に鬼畜眼鏡が乱入してきたんだよ!」
「鬼畜眼鏡?」
「こんなのも解らないのかって、上から目線で! 解らないから勉強してるっての!」
思い出すとまた腹が立ってきた!
はーらーがーたーつー!
うきーっと猿になりそうな私を、高遠は呆れたように見ている。
呆れればいいさ。だけど気が収まらないんだもん。
「…まあ、妨害あっても、現状維持できたのは、良かったんじゃないのか?」
「そうかなあ」
「そうだろ」
あんまり、誉めらている気がしない。
納得できなくて、うーうー唸っていると、
「気晴らしにこれやるよ」
そう言って、高遠はポケットから包みを取りだし、私に向かって投げた。
一辺が十センチくらいの、紙袋。
アンティークなデザインのスタンプとマークは見覚えがある。
「これ…」
駅前の店だよね。
封を開けると中から出てきたのは、針ネズミのストラップ。
「この間の店のじゃん!」
「お前、それ気に入ってただろう?」
確かに、面白かったから結構見ていたけど。
覚えていたんだ。
「これ、くれるの?」
「やるよ」
「うわーありがとー!」
普通に嬉しいよ。
でも、意外。高遠って、こういうの買うタイプに見えないんだけど。
どういう風の吹き回し?
「なんだよ?」
「別にぃ」
どんな顔して買ったんだ? とか想像すると、なんか笑えるよ。微笑ましいよ。
ニヤニヤしてると、高遠に睨まれた。
その時。
「こんにちは」
アヤが来た。
アヤもテスト期間振りだよね。
学校で毎日会っているから、私は久し振り感ないけど。
まあ、以前よりはゲームセンターに顔を出さなくなったかな。
高遠とのフラグが弱くなるから、もうちょい来て欲しいんだけどね。
「ショウ君、渡したいものがあるの」
アヤはまっすぐこちらに来た。
そしてバッグから取り出したものを私に差し出す。
小さな紙袋。
大変見覚えのあるっていうか、ついさっき似たようなの見たばっかりだよ。
「ありがとう?」
これ、駅前の雑貨屋のなんだけど…
開けると、針ネズミが出てきた…
このちょっと薄めの色合いは…
多分、私が最初に見た針ネズミだ。
「……前に、雑貨屋に行った時の?」
「うん。ショウ君、気に入ってたみたいだから」
そう言って、アヤは笑う。
えーと?
最初にアヤと雑貨屋に行った時に見てたのが右手のこれで、高遠を引き摺って行った時のが左手のこれ…
いきなり、二つも揃っちゃったよ。
ああ、高遠が微妙な顔している。
その様子に気づいて、アヤは私の左手の中にあるもうひとつの針ネズミに目を止めた。
「それ……」
「うん、これさ。さっき高遠に貰ったんだ。奇遇だよね」
奇遇…だよね?
なんか、アヤも微妙な顔してるんだけど。
ふたりして微妙な顔で、視線が合った瞬間。
バチッて、火花が散った幻が見えた……
なぜ?
ふたりとも仲、悪かった?
間に挟まれて、私は非常に居たたまれないんですけど。
なんでかなぁ?
「あ、ありがとね。一緒に携帯に付けるよ」
場の空気が落ち着かなくって、慌てそう言ったら、
「それはやめろ」
「それはやめて」
ふたり同時に言われたよ。
すごい、タイミングぴったり。
息、合ってるなあ。
「でも…」
並べて付けると良くない?
「やめろ」
「やめて」
マジ、ふたりに静かな声でぴしりと言われた。
「ワカリマシタ…」
こわっ。
なんか、怖いよ、ふたりとも。
そんなに一緒につけたらいけないのか。
意味わからん。
でもふたりが怖いので、高遠のは携帯にアヤのはセカンドバッグにつけることにした。
ふたりとも、どうにかそれで納得してくれた。
とりあえず、テストは終わった。
まあ、それでいいかぁ。
嫌なことはさっさとわすれよう。
うん。




