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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
21/188

20


 兄ちゃんズの暴走には驚くしかない。


 でもさ、綾香嬢が否定しないってことは、あながち兄ちゃんズの勘違いって訳でもないんだよね?


 マジか…

 マジなのか…


 綾香嬢…私のどこが良かったんだ。


 思い返しても、特別なことはしてないよね

 むしろ、高遠とのフラグを維持しようとしてたのに。


 はっ!

 そうやって、高遠の周りをうろちょろしてたのが、まずかったのか。


 え、じゃあ他にどうしろと?

 綾香嬢のフラグは、私にとっては最重要事項なんだし。


 学校で暗躍できない以上、ゲームセンターでは動ける限り動くしかないじゃん。


 それが全部裏目に出たのか、もしかしなくても。


 ええ…あの気苦労は全て無駄骨?


『ショウ君』


 兄ちゃんズの音声サラウンド攻撃が再開された。


 あーそーか…


 返事を待たれてるんだっけ。

 思わず現実逃避しかけたよ。


 物理的に全力逃避したら…いろいろヤバいんだろうな…


 ここは腹を括るしかない。

 勘違いはソッコー正さないと。


 この世界の未来のために。


「はっきり言って、神宮寺さんと付き合うとか、あり得ません」

「えっ!」


 綾香嬢がショックを受けている。

 ごめん。

 ほんとーにごめん。


 私は言葉を続ける。


「友達になら、なれると思うけど…」

「君は」

「綾香さんの」

『何が不満なんだ!』


 兄ちゃんズにものすごい勢いで睨まれた。

 視線がそのまま刺さったら、今頃私は蜂の巣だ。


 ええい、このシスコンめ。


 兄ちゃんズが綾香嬢を大事にしてるのは、よーくわかったよ。


 でもね。

 人間、できることとできないことがあってだね。


「不満とかないけど、現実的に無理な訳だし…」

『現実的?』


 兄ちゃんズと綾香嬢の三人がハモった。


「うん、つまりね…」


 私は喋りながら、満兄ちゃんに歩み寄ると、問答無用で眼鏡を奪い取る。

 そのまま、デスクに回り込んで、一番上の引き出しを開けた。

 中から輪ゴムをふたつ取りだし、窓の方を向く。


 窓ガラスを鏡代わりに三つ編みをさくっと作り、最後に満兄ちゃんの眼鏡をかけて振り返った。


「…こういうことですから」


 即席委員長スタイルの私を見て、三人は目を真ん丸にした。


「明宮、さん…」


 綾香嬢は呆然と私の名前を呼んだ。


 顔色が悪い。真っ青だ。それだけショックが大きいんだ。


 ああ…悪いことしたな…


「黙っていてすみません。でも、ゲームセンターに入り浸っているのを知られるとまずいので…」


 綾香嬢に謝罪した後、再び歩きながら輪ゴムを解いて、眼鏡を満兄ちゃんに返す。

 兄ちゃんズも呆然として身動ぎもしない。


 紛らわしくって、申し訳ない。


 いや、私としてはこの暴走は、実のところ有り難かった。

 知らないでこのままいたら、綾香嬢はメインフラグへし折りまくりでエンドを迎えてたよ。


 友達エンドにたどり着けばいいけど、バッドエンドに突入していたかも知れない。そう思うと、背筋が寒くなる。


 綾香嬢には、ほんと申し訳ないけど、今ここで軌道修正できて良かった。


 う…外道で、ごめん。


「そういう訳ですので、失礼します」


 私は兄ちゃんズと綾香嬢に深く頭を下げた。


 きっと、信じてくれないだろうけど、ほんとーに申し訳ないと思ってるんだよ。

 それを少しでも態度に現したかったんだよ。


 書斎を後にして、ため息をひとつ。


「まさか…こんなことになるとはね…」


 自分のことなんて、まったく対象外だった。


 綾香嬢に好意を持たれる可能性を考えたこともなかった。

 そのために、綾香嬢を傷つけてしまった。


 さすがに胸が痛む。


 罪悪感で胃の辺りが気持ち悪い。


 のろのろ歩いて来る私を、おじさんたちは不思議そうに見るだけで引き止めなかった。


 おじさんたちは、兄ちゃんズの用件が何なのか知らないんだろう。


 大切な話がある。くらいしか聞かされていないのかもしれない。


 誰にも止められることなく、私は神宮寺邸を後にした。


 玄関を出て、門まで歩いているときはたと気がついた。


「どうやって、帰ろう?」


 そもそも、ここどこだ?

 綾香嬢の住所なんて知らないよ。

 戻って聞くのも何だしなあ…


 歩いていけば、どこかにコンビニがあるでしょ。そこで聞こう。


 門まで歩いて来たら、中を伺っている怪しい人物がいた。


 高遠だった。


「高遠?」

「ショウ、お前大丈夫か!?」


 門の外に出ると、高遠は自転車を引いてやって来る。


 あれ、この自転車…


「これ…」

「ああ、お前の。駅前でいきなり拉致られたから、自転車で追いかけて来た」

「追いかけて? ここまで?」


 車で結構来たよね。

 それを追いかけて来た?


 高遠、すごい根性じゃん。

 思っていたより熱い男だな。


「お前、本当に大丈夫か? 様子見て、通報しようと思ってたんだが」

「通報? したの?」


 通報はまずいって。

 拉致られたのは確かに事件だけど、それにまつわる内容が残念過ぎて、万が一お巡りさんが来たら、説教されるよ。

 高遠は首を横に振る。


「まだしてない。あと三十分くらい待って動きがなかったら、しようと思ってた」


 まだなのか。

 良かった。


 お巡りさんの説教は回避できたよ。


「良かった」

「良くはないだろ」

「そうは言っても、ここ神宮寺さんの家だよ」

「神宮寺? 何で神宮寺がお前を拉致るんだ?」


 予想外の名に、高遠は目を剥いた。

 そりゃまあ、驚くよね。

 綾香嬢は私たちに友好的だっただけに。


 なんとなく高遠に促されて、私たちは歩き出す。

 そのうち、星合駅に着くでしょ。


「神宮寺さんは絡んでない。主犯は兄ちゃんズ」

「兄ちゃん?」

「うん。双子の兄ちゃんがいたよ。そっくりだった」

「その兄ちゃんが何で?」

「…なんて言うか…神宮寺さんと付き合う気はあるのかって」


 隠すことでもないので、そのままを教える。

 高遠はえらく驚いて身を乗り出してきた。


「お前、神宮寺と付き合うのか?」

「付き合う訳ないじゃん。ちゃんとそう言ってきたよ」


 何で付き合わないのかは、伏せておいた。

 そこは高遠には関係ない。


「そ、そうか…」


 高遠はほっと息をつく。


 ん?

 高遠、なんでほっとしてんの?


「え、なに? 高遠、神宮寺さん狙ってた?」

「は? なんで、そんな話になるんだよ」

「だって、今、ほっとしたよね?」

「してねえよ」


 高遠はきっぱりと否定した。


 ほっと…した気がしたんだけどなあ。


 って言うか、そんなにきっぱり否定されたらまずいんだけど。


 うーん。

 今日、軌道修正したから、じきに本来のルートに戻るかなあ。


 あーでも。

 綾香嬢がゲームセンターに来なくなったらどうしよう。


 高遠ルート消滅?


 これはヤバい。


 非常にヤバい。


「なんだ、迷ってるのか?」

「は、なにを?」

「逃した魚はでかい、って」


 考え込んだのを、早々に断ったのを惜しかったと思ったらしい。

 高遠は皮肉っぽい顔をした。


「それはないんだけどね」


 もっと、重要な問題があるんだよ。

 言えないけど。


 高遠ルート、どこかで復活できるかなあ…


「高遠さあ…」

「なんだよ?」

「神宮寺さんと付き合わない?」


 ここで高遠と綾香嬢がくっついてくれると、話が早いんだけどなあ。


 何気なく言った私を、高遠は凄い怖い顔で睨んだ。


「お前、とんでもなく酷いこと言ってるって、解ってるのか?」

「あ…」


 高遠に怒られて、私は自分の失言に気付く。


 私は、私の都合しか考えていなかった。


 高遠の都合も、綾香嬢の都合もまったく考えていない。

 都合だけじゃない。

私の失言は、ふたりの、いや綾香嬢の気持ちを踏みにじるものだ。


 綾香嬢の好意を、何よりも酷い形で拒絶しておいて、高遠とくっ付けようなんて…


 人として、最悪。

 思っても、口にしてはいけないことだった。


「ごめん。前言、撤回…」

「……」


 謝る私に、高遠は何も言わなかった。

 ふたりとも、黙り込んだまま、星合駅に着く。


 高遠は黙って、自転車を差し出した。


「高遠」


 自転車を受け取って、高遠の名を呼ぶ。

 高遠は黙って私を見た。


「今日は…追いかけて来てくれて、ありがとう」


 お礼を言うと、高遠はずいと手を伸ばし私の頭をグーで軽く叩いた。


「お前は今日一日、反省しろ」

「うん…」


 素直に頷く私に、高遠も小さく一度だけ頷いて、歩いて行ってしまった。


 その背中を見送って、私も家に帰った。





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