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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
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1


 体育館での入学式は恙無く終わった。校長先生の話、来賓の話の後、最後は生徒会長の挨拶で締め括られた。


 生徒会長の火村侑紀(ひむらゆうき)はイケメンだ。

 生徒会長が壇上に立てば、女生徒の間からため息が零れている。紅い髪は情熱的だけど、口調や声音は優しそうで、だけど芯は強そうで、聞いているだけで安心できる。

 とても頼りがいがありそうな人だ。物腰も落ち着いている。正に理想の生徒会長。


 あんな格好良い人、現実にいるんだねえ。


 恐らく、唯一余韻に浸ってない私は、さっくりと教室に向かった。

 ときめかない理由なんて、前世関係しかないのだけれど。イケメン見ても、そっかあ、くらいの感想しか出ない。

 逆に美少女とか、可愛い子を見ている方が癒される。お人形さんみたいな子、いいよね?


 教室に戻り席につくと、すぐに担任の先生がやってくる。先生は須藤武司(すどうたけし)と名乗り、これからの一年に向けて話した。ちょい悪そうなおじさんって感じ。でも話はしやすそうだ。

 まずはハズレではないか。良かった。


 それから私たちの自己紹介が始まる。

 一番手の相原朋美(あいはらともみ)嬢は名前の後にお願いしますしかつけれなかったことを密かに後悔していた。

 続いた私は同じように、名前とお願いしますで終わらせた。

 私的には、初っぱなからハードルを上げなかった朋美嬢に大変感謝してる。ペラペラ喋るのは面倒だ。


私たちがハードルを下げまくったので、この後の自己紹介は実に素っ気ないままに進んでいく。実に盛り上がりのない自己紹介も中程まで進んだようだ。


神宮寺綾香(じんぐうじあやか)です。月原市には入学と共に来ました。月原市のこと、良かったら教えてください」


 綾香嬢はそう言ってにこりと笑った。

 ふんわりとした明るめの髪は肩につくくらい。白いけど健康的な肌、髪同様少し明るめの瞳は小さ過ぎず大き過ぎず、絶妙なバランス。


 神宮寺綾香…


「ぎえ…」


 思わず漏れうめき声を唇を咬んで堪える。

 朋美嬢が怪訝そうに私を振り返るが、ポーカーフェイスを全力で維持した。


 綾香嬢の後も残り半分の自己紹介が続くが、もう私は聞いていなかった。


 頭の中はパニックだ。


 だって、思いだしてしまった。

 綾香嬢のことを。この世界のことを。


 前世の記憶だけでもお腹一杯だと言うのに、まだ出てくるものがあるなんて!


 ミスティック ムーン。


 確かこれが、この世界の名前。

 この世界は「ミスティック ムーン」と言う名のゲームだった。


 綾香嬢はそのヒロインなのだ。


 それから先の自己紹介は聞いていなかった。そんな余裕はなかった。


 思いだすのはゲームのことばかり。


 前世でゲームをプレイしたのは私じゃない。

 私は姉貴がクリアしたゲームを見せてもらっていた。姉貴は特にこのゲームが好きで、完全クリアしたあと面白かったイベントを私に教えてくれた。


 後にも先にも、乙女ゲームを見せてもらったことはない。だから、覚えていた訳だけど。


 まさかそのゲームの世界なんて、ありか!


 一体、何の冗談なんだろう…


 とりあえず、精神的に疲れはてて家に帰ると、母さんは買い物に行ったらしくいなかった。


 ジーンズとTシャツとパーカーに着替えて、眼鏡もヘアゴムも取っ払って、用意してくれた昼食を食べる。


大好きな塩焼きそばの味もよくわからない。ゲームのことばかり考えてる。


 その中でも解ることは一つ。

 私は脇役のクラスメイトでしかない。特別なシナリオにかすってもいないはずだ。


 ならば、攻略対象に近付かないこと。自分にできることは、まずはこれしかないような気がした。


 に、したって、どうしてこんな記憶があるのだろう?


 はっきり言って、前世の記憶だって、実生活では何の役にも立たない。むしろ邪魔なくらいだった。ゲームの記憶だって同じだ。


 まあ、私がゲームのヒロインと言うのなら、攻略に役には立つだろうけど、脇役だ。


 どうしようもない。


 もしかして、私にヒロインの攻略を手助けしろってこと?


 それに何の意味が?


 はっきり言って、ヒロインが誰とくっつこうと、私には関係がない。

 私の生活には影響ない。


 はずなんだけど…

 何か気になるんだよね。


 影響、本当にないんだろうか。


 部屋のベッドに寝転がって考えてみる。


 まず、ゲームのシステム。

 これは普通の乙女ゲーム。ヒロインが攻略対象に話しかけたり、イベントをクリアして、最終的には恋人になる。


 うん、ここは私に関係ない。


 次に舞台設定。

 舞台は白月学園。攻略対象はこの学園の生徒と教師。

 白月学園を守る、守護者(ガーディアン)

 名門と言われる学園は、そもそもある封印を守るために建てられたんだよね。

 封印を維持するのは、四大、つまりは風、火、土、水の四精霊の力を持つ守護者。


 この守護者が、攻略対象になるのだけど…


 ここまで思い出して、はたと気づく。

 確か、ヒロインは攻略対象との親密度を上げるために、この封印に関わっていく。

 封印を壊そうとする敵対勢力がいて、攻略対象と力を合わせて、封印を守らなくちゃいけない。

 この過程で、一気に親密度が上がり、ヒロインと攻略対象は恋人になるのがハッピーエンド。逆にバッドエンドは、イベントをクリアできなくて、大怪我を負ったりして、罪悪感その他で心が離れたりする。


「ん…? バッドエンドのどれかは、死別だっけ?」


 それくらいハードなエンドもあったはず…


 ハードって言えば。


 一番、ハードなのがあった!


 ブラックバッドエンド。


 バッドエンドルートを全て開いたら、最後に出てくる最悪のバッドエンド。


 学園崩壊エンド。


 封印を守ることができなくて、学園が崩壊するところでゲームは終わる。


 文字通りの崩壊。


 その瞬間に学園にいた生徒の生命も危ないレベル。


 ってことは、下手をしたら私の生命も危ない?


 可能性はある。学園崩壊時に私が学園にいたかどうかなんて解らないから。少なくともゲーム画面にその辺りの情報は一切出ていなかった。


「ヤバいかも知れない…それもかなり」


 多分、これが私のやらなくちゃいけないこと。

 学園崩壊エンドをなんとしても回避しないと、自分の生命が危ない。

 大丈夫の可能性もあるけど、大丈夫じゃなかった場合のリスクが大きすぎる。

 自分の生命がかかっているのなら、用心はするに越したことはない。


 いきなり、方向性が決まった。


 私は、自分の平穏な生活のために、なんとしても、ブラックバッドエンドを回避することに全力を注ぐ。


 そのためには、綾香嬢のルート攻略を手伝う…

 って、面倒くさいな。

一番、私に向かない話だよ。


一体、どうしてこんなことになっちゃったんだか…


 ため息しか出て来ない。


はあ…


やめた。

気分転換でもしよう。


私は勢いをつけて、ベッドから起き上がった。




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