71 マンドラコラ再び
報奨やら昇格だかのゴタゴタが終わればひと段落だ。
ガレンスなんかは結構な額だったらしい。
私は、完全に倒したオークがそんなにいなかったのでそこまでの金額ではない。
仕方ないので、貯金に回す。
私みたいな貯金組は割と少ないとか。
大抵は、新しい武器防具に使う。あと遊興費? 綺麗なお姉さんに貢ぐんだって。怖い怖い。
さもなければ酒代に消えたり?
そう言えば、あちこちで酒盛りがあったよね。
集アレだ。宵越しの金は持たないってやつ。
豪気っていうか刹那的っていうか細かい計算できないっていうか。
楽しいのが一番、って言う考え方も否定はしないけどね。
私は地道路線を行くよ。石橋を叩くようにね。実際に叩いたことないけど。
さて、今日は何をしよう。
三日振りにギルドに顔を出す。
オーク討伐後はのんびりしたり、剣を研ぎに出したり礫の補充をしたりとまあまあ、やることはあったからね。
吹雪は研ぎとかいらないけど、普段使いのはいるからね。って言うか、吹雪を研ぎに出したとして、ちゃんとやってもらえるんだろうか。
一度聞いてみるか。不可って言われる気がする。なんたって、エセ神製だから。
そうして、ギルドに行けば。
「よう、今日は何をやるんだ?」
楽しそうにバーンが聞いてきた。出待ち…じゃなくて入り待ちされてた。
「…その感じですと、パーティの件は続行中ですか…」
「あったり前だろ!」
バーンは何言ってんだこいつ、って顔で私を見る。
「オーク狩りなんかカウント入る訳ねぇだろ」
「えー」
「そもそも、途中からいなかっただろーが」
まあ、あの時はまだパーティ組んでなかったし。
確かにノーカンだよね。
「まあ、そうなりますよね…」
「で、何やんだ?」
ワクワクな顔で聞かれても…特に依頼について深く考えたことないんだけど。
「おい、手ぇ空いてるならマンドラコラ採ってこい」
どうしようかと考えていたら、奥から怒声が響く。
ガルトンの声はよく聞こえるなあ。悪い意味で。
迫力のせいなのか、内容と相反して叱られてる気分になるもん。
「えー、この間採ってきたじゃないですか」
「薬師ギルドに卸したら依頼を捩じ込んできた」
「指名じゃないですよね?」
「それは一応止めてあるが、あと一匹…いや二匹だな。それだけ卸してやれば、薬師ギルドに恩を売れる」
ガルトンは悪そうな顔で笑った。匹って言っちゃうんだ。魔物みたいなものだから、あながち間違ってもいないかもだけど。
それにしてもぶっちゃけたよこのピットブル。薬師ギルドに恩着せる気満々だよ。こっわあ。
「マンドラコラ? あんなん、どうやって採るんだよ? 下手すりゃ精神攻撃喰らってあの世行きだろ」
「意外となんとかなりますよ」
バーンが大変嫌そうに呟くのにのんびり答える。
確かに、叫び声聞いたら混乱食らうんだもん。面倒だよね。
しかし、ガルトンはガン無視だ。
「前のと同じ扱いでいいから採って来い」
私の都合もガン無視だ。
「生息地は?」
ため息混じりに聞けば、カウンターに地図を広げる。
「大体、この辺りだな」
「なるほど、この間教えてもらった場所より先ですね」
地図の位置を頭に刻んで顔を上げる。方角の問題? あの辺マンドラコラが生息しやすい土地柄なんだろうか。
「それなりに色を付けてもらいますよ」
「任せろ。薬師ギルドから巻き上げてやる」
凶悪犯レベルの悪い笑顔を浮かべるガルトンはぶっちゃけ過ぎだと思う。
さすがにバーンも引いてるよ。
「仕方ないので行きます。バーンもそれでいいですね?」
「仕様がねぇなあ」
やれやれとバーンは肩を竦めた。
◇◇◇
簡単にお弁当以外の保存食なんかを幾らか補充して、ガルトンに指示された場所へと向かう。
寄り道しなかったら、昼前には着くかなあ?
バーンなら気を使わなくて済むし、駆け足くらいで行ってもいいかも。
そんな感じで森を進んでいると。
「ところでその収納袋。前に持ってたやつと違うよな?」
バーンが口を開く。
「ああ、これですか? ガルトンに安く譲ってもらったんです」
「あのおっさんに安く?」
「はい」
「マジで? あのおっさんが!」
すんごい意外そうな顔してるんだけど。
そんなに、驚くことなの?
いや、解る気はする。
「なんか理由があるのか?」
「前に、すっごく大きな猪を討したんですけど…本当に大きくて、その時に持っていた収納袋に入らなかったんですよ。仕方ないので、内臓を全部捨ててようやく持って帰りました」
あれは結構大変だった。いろいろ捨てたのに、それでも頭がはみ出たもんね。
「そうしたらガルトンにもの凄く怒られまして」
「……それってもしかして…ルクシュの主だったり…?」
「確か、そんな名前でした」
「マジかよ! ルクシュの主とか、そんなん俺だって怒るわ!」
バーンが絶叫する。
「そんなこと言われても…収納袋に入らなかったら仕方ないですよね」
「そーなんだけどー」
バーンは頭を掻きむしった。いろいろ葛藤があるようだ。
「あーもう、考えるだけアホらしい」
最終的には投げた。
呆れたような視線を向けられるが、当然私はスルーだ。
仕方ないものは仕方ないのである。
そんなぐだぐだなことを話しているうちに目的地周辺に着く。
「マンドラコラは…こっちだな」
着いて早々、バーンが行き先を指差す。
「匂いですか?」
「まあな。普段はあっても採らない。準備がいるし、凍らせると半値以下だし。割に合わねぇからな」
「まあ、そうですね」
不用意に引っこ抜いて精神攻撃食らったら、命に関わるもんね。
「で、どうやって採るんだ?」
「脳天を垂直に、こんな感じで…」
針を取り出し、マンドラコラの脳天に一撃。今回は最初から体重を乗せてガツンといった。
「これで、無事絞まったはずです」
葉をむんずと掴んで引きずり出す。
「ちょ、おま、」
「ヒィィ…」
バーンは慌てたが、予想していた衝撃はなく、目を瞬かせる。聞こえたのは空気が抜けるような悲鳴未満の声らしきものだけだった。
「うわ、マジ、攻撃来ねぇ」
「大体、こんな感じです」
マンドラコラの脳天から針を引き抜きバーンに渡す。
バーンは嬉しそうに針を受け取ると、マンドラコラを探し始めた。
鼻が利くのか、マンドラコラはすぐに見付かった。
「脳天を垂直にぃ!」
バーン針をマンドラコラに振り下ろす。
「よし」
上手くいったと頷いて、バーンマンドラコラを地面から引き抜いた。
「ヒィイイ!」
「うわっ」
「わわっ!」
先程と比べて、大きな悲鳴が響き渡った。
耳元で怒鳴られるくらいの音量だ。私のが通常会話よりちょっと小さいくらいだったから、音量差が大きくてびっくりした。
バーンも思わずマンドラコラを放り投げていた。
「ちょっと浅かったみたいですね」
投げ出されたマンドラコラを拾い上げる。
位置と角度は悪くない。けど、一センチ…くらいは足りない感じ。
引っこ抜く前に、もうちょと押し込んでおけは良かったのに。
確かめる前に引っこ抜くから。
「浅かった? 思ったより固いよな?」
「私も最初はちょっと足りませんでしたから」
あのまま引っこ抜いていたら、今みたいな悲鳴を浴びることになっていたのか。なるほど。
「でも、五月蝿いで住むんだな。そっちの方が驚きだ」
「ですかね」
「よっし! 次は上手くやる!」
針を手に、バーンは次のマンドラコラを探しに森に突っ込んで行った。
「…二匹採ったら、もういいと思うんですけど…」
私の言葉なんて聞いちゃいないバーンは、楽しそうにマンドラコラを探している。
あーダメだな、これ。
マンドラコラ採取、自己採点で合格点を取らない限り終わらないわ。
事実、バーンが気が済むんだのは日が暮れ始めるころだった。
今日は野宿かあ。
もう少しまめに更新したいいいい。