68 ワンコ再び
ギルマスの宣言通り、私は渋々ながらランクアップした。
Dランクはまだ早い気がするんだよねー。
もうちょっと、下位ランクでうだうだしたかったんだよねえ。
と言う私の感想は置いておいて。
久我っちはあれからずっと難しい顔で何やら考え込んでいたかと思うと、町に戻ってきた緑野のパーティーに入ってダンジョンに行くのだと言い出した。
「は?」
「だから、ダンジョンに潜ってくる」
「いきなりだね」
「今回の件でわかった。お前のレベルに俺が到達してない。お前に守られるとか、有り得ない!」
「はあぁ?」
有り得ないとか何なの?
意味が解らないんですけど。
「こんなの屈辱でしかねぇ」
「そこまで言う?」
本人を目の前にしてよくもそんな暴言吐いてくれる。いっそ清々しいよ。怒りを通り越して呆れてくるよ。
「だからダンジョン?」
「レベル上げにはいいらしい。丁度緑野の連中が行くって聞いたから混ぜてもらうことにした」
「なるほど」
ダンジョンはコンスタントに魔物が狩れるらしいね。ゲームでもそうだよね。
草原はあちこち歩き回って魔物に遭遇するけど、ダンジョンは一歩踏み込んだらいるみたいだし。階層ごとに魔物のレベルも違うから、調整しやすいらしい。
なるほど、よくあるRPG。
「まあ、久我っちがそれでいいなら、いいんじゃない?」
「おう、がっつりレベル上げてくるから、覚悟しておけ」
「何の?」
何の覚悟をしろと?
「冗談はさておき、行ってくる。お前はくれぐれも暴走するんじゃないぞ」
「したことないけど!」
認識ズレてない? 私、無理も無茶も暴走もしたことないけど。
「火竜みたいなのに喧嘩売るなってことだよ」
「あー、それは、まあ、善処シマス」
もにょもにょと曖昧に返した私に苦笑して、久我っちはダンジョンへと向かった。
それにしても。
別に私が守ったっていいじゃん。何がダメなのさ。
◇◆◇
早々にソロに戻ってしまった。
早かったなあ。気分的には一瞬だよ一瞬
まあ別に独りは苦にならないけどね。独りでふらふらするの、好きだもん。
さて、何をしよう。
マンドラコラはまだいるのかな?
いまのところ、採ってこなくて大丈夫なのかな?
違うこともやりたいんだよねえ、そろそろさ。
なんてことを考えてると、ギルドに声が響き渡った。
「ようやく見つけた!」
おや、どこかで聞いたことのある声のような?
「探したぞ、ショウ!」
「あ、バーン…」
聞き覚えがある訳だよ。
ストーカーわんこだよ。
すんごいひさしぶり。
バーンは私の元にのしのしと歩いてくる。
うーん、人喰い狼みたいなオーラだ。冒険者たちが一歩下がり道ができたよ。
わかる。触らぬ神に祟りなしだよね。噛み付かれたら絶対痛いもん。
「戻ったらいないとか、ないだろ!」
「そうは言っても…いつ帰るか解らない人を待ってませんよ」
いきなり居なくなったの、そっちじゃん。
何処に行ったかは解るとしても、いつ帰るか解らないんだもん。
そんなんで、いつまでもイサドアに残る意味ないじゃん。
待ってる義理はないよね?
「俺と組む約束だろ!」
「そーでしたっけ?」
「しらばっくれんじゃねーよ」
ダメか。
煙に巻けなかった。
この場にいる時点で駄目だろうとは解ってたけどね。
「はあ…まあ、約束ですしね」
渋々頷くと、バーンはぐっと拳を握り締める。
「で、どこ行く? 何やる?」
まるで散歩を控えるワンコそのものが目の前にいる。
ご機嫌で自分でリードとか持ってきちゃうやつ。
「どこにしますかね…」
首を傾げた瞬間、冒険者ギルドに飛び込んできた者がいた。
身なりから、同業者みたいだけど。めちゃテンパってる。
「大変だ! オークの集団が見つかった!」
「何だと! 数は?」
「五十、六十は間違いない!」
切羽詰まった声音に聞く方の顔も青ざめる。
一大事だ。テンパる訳だ、納得。
その中で、やけに明るい表情をしているのは一人だけだ。場違いだよ、君。
「ほらほらほら!」
バーンはやけに嬉しそうに私を振り返る。見えない尻尾がブンブンしてるよ。
「いやいやいや、何キラキラした目で私を見るんですか! 私、関係ないですよね? 全くもって関係ないですよね?」
まるで因果関係があるような態度はやめて頂きたい。
私は何もしていません。
「やっぱ、こっち来て正解だわ」
「そーですか」
利き腕をぐるぐる回すバーンは、ご機嫌だ。
「オーク狩りやるぞー!」
ちょ、空気読もうね。楽しそうなの君だけだよ。