67 騒動の後
吸血鬼たちを倒した後、私たちは生き残りの冒険者たちに手持ちの回復薬を飲ませて回る。
死にそう、と言うより殆ど死にかけな状態では回復薬が足りない。大体、上級持ってないから多少ましになったくらいだ。
私自身、回復薬使ったことなかったわ。下級だけじゃなく、上級も持っておいた方がいいね。
きっと、今までが運良かっただけだろうし。
もしかして、幸運値高いのかも。
ともあれ、圧倒的薬不足なので、久我っちを残して私が町にソッコーで戻ることにした。今、フルで動けるの私だけだし。
屋敷の外に霧はなく、夜明が近いのかほんのり明るい。ので、全速力で森を駆ける。
門を無理矢理通り、冒険者にギルドに駆け込むとヴァンパイア・クイーンが出たことを告げ、倒しはしたものの死にそうな人が何人かいることを伝えた。
瞬く間に討伐隊が組まれた。回復役も浄化役も集め、なんとか十五人くらいで出発する。
エリザベートはもういないんだから、大袈裟じゃないかと思ったら、屋敷に向かう途中に何度かレッサーヴァンパイアの襲撃を受けた。
こんなの居たんだ。
さっき、帰り道で襲撃されなかったのは、私の全速力に対応できなかったからだろうか。
もしかして屋敷の方にも出たりする?
ヤバい。まともに戦えるの久我っちだけだよ。
慌てて屋敷に駆け込めば、出るときは多少ましになっていたはずの久我っちが見るからにぼろぼろになっていた。
「く、久我っち? もしかしてレッサー出た?」
「ああ、出たな。そろそろマジでヤバかった」
屋敷に駆け込む私たちを見て、久我っちは大きな息をついた。
屋敷の地下室とかに隠れていたレッサー系は討伐隊が探し出して片付けた。
久我っちや生き残りは、速やかに浄化と回復を掛けられて、ぎりぎりのところで持ち直した。
動けるようになったところで、久我っちは部屋に自分の装備を取りに行き生き残りたちと一緒に帰還する。
帰りは小型の魔獣がたまにでるくらいで、割と安全だった。
討伐隊の三分の二は屋敷に残り、調査を続けるらしい。
町に戻った私たちは一旦ギルドに集められ、簡単な事情聴取の後解散した。
みんな疲労困憊だったからだ。回復や浄化は精神の疲労までは癒せない。
とりあえず休むしかないのだ。
ちなみに、私は割と元気。だけど一人だけ元気アピールしても仕方がないので、さっさと宿に引き上げる。徹夜した訳だし。
と言うことで、宿に戻って寝た。
襲撃の心配もなく、ぐっすりと。
◇◆◇
翌朝、朝御飯を食べてからギルドに向かうと例によって私が最後だった。一歩踏み入れるなり視線が集中して圧がすごい。視線に物理効果があったなら、今の私はハリネズミレベルでぐさぐさな状態だろうね。
みんな早いよ。
昨日の今日何だからゆっくりしたらいいじゃない。
と顔に出ていたのか、久我っちはに睨まれた。理不尽。
そのまま私たちは別室に連れていかれる。
会議室みたいな、大テーブルの周りに椅子が置かれた部屋だ。
適当に皆が座ったところで詳しい聴取が始まる。
まず生き残りの人達の話によると、霧の中道に迷い辿り着いた屋敷で一晩泊めてもらったら、夜中に体が動かなくて、辛うじて意識はぼんやりあったものの、ただの餌扱いだったそうだ。
餌の中でもエリザベートに気に入られた者は眷属化され、気に入られなかった者は血を吸い尽くされたら死ぬだけだったみたい。
死体は全部、薔薇園に埋められたらしい。
掘り起こしたら、新旧織り混ぜて結構な人骨が出てきたとか。
あの薔薇、人間を栄養に育てられたんだ。
綺麗だと思った薔薇も、この話で一気に薄気味悪いものに変わる。イメージって大事だね。桜の木の下どころじゃないわ。
で、私たちの番。
と言っても、夜中までは大体同じだ。
追加するのは夕食の赤ワインにエリザベートの血が盛られていたと言うこと。
明らかに毒物だったなら、私も何か感じ取ったんだろうけど、夕食時は普通と言うか警戒するような感じはなかった。
恐らく、エリザベートの魔力か何かを通して発動するトラップなんだろう。
赤ワインを飲んだ人は漏れなく引っ掛かったってこと。
私、お酒飲まない主義でよかった。
で、真夜中に私は襲撃されたけど寝る時も手放さなかった武器、時雨のお陰で問題なく対処でき、そのままエリザベートに向かうことができた。
ヴァンパイア・クイーンだと言うことで、一人で向かったことを無茶扱いされたけど、この場合は仕方がないよね。
一人で逃げたら、エリザベートたちは姿を眩ます次いでに生き残りを皆殺しにしていただろうし。
まあ、ご神刀の吹雪があったから出来た無茶でもあるけど。
それ以上の追加事項はないので聴取は終了した。
私と久我っちはこのまま残された。討伐の確認があるんだって。
「ヴァンパイア・クイーンの討伐確認をしたい」
ギルマスが前置きなく言うので深紅の魔石をテーブルに置く。
それを見て、ギルマスはため息をついた。
「クリムゾン・ハートか…」
おお、なんか格好いい名称。
「クーガはレッサー・ヴァンパイアを討伐したと聞いたが?」
今度は久我っちがくすんた赤色の魔石を出す。
三つしかないけど。
「まだあった筈だが、回収する余裕がなかった」
「わかった。残りの討伐隊が戻ったら確認しよう」
私たちが着いた時、ぼろぼろだったもんね。
確かに倒した分を拾って回る余裕はないわ。拾ってる最中に残りのレッサーが襲って来たらまずいし。
「しかし、こうなったショウ、ランクアップはもう保留出来ないぞ」
「えぇ」
「バンパイア・クイーンを討伐して、ランクが上がらない訳がないだろう」
ギルマスにため息をつかれた。
やっぱりかあ。
もう無理かあ。
「わかりました。お願いします」
渋々了承するとギルマスと戸口に立っていたアネッサがほっと息をついていた。
「それでこの魔石はどうするかね?」
「あ、持ってます。綺麗なので」
「俺のは引き取ってくれ」
「わかった」
ギルマスが頷くと、アネッサがレッサーの魔石を受け取った。
「ランクアップの処理は、この一件が片付いてから行う。今日は以上だが…」
「あ、ギルマス。私は依頼の件がありますので」
「ああ、続けてくれて構わない」
言って、ギルマスは部屋から出て行った。
代わりにアネッサが、テーブルの反対側に椅子を引いてきて座る。
「それで依頼なんですが…一応確認してもいいですか?」
「依頼…」
「バンパイア騒ぎでふっ飛んでいたけど、確かマンドラコラだったよな?」
「ああ、そうだった」
すっかり抜け落ちていたわ。
そもそも、マンドラコラ採りに行ったんだよ。
「はい、そうです! それで…どんな感じですか?」
「あまり採れませんでしたよ」
「思ったより数が稼げなかったな」
言いながら私たちはテーブルにマンドラコラを並べる。
「そうですよね…って、ええええ?」
ため息をつきかけたアネッサはテーブルに四匹を並べると目をまん丸に見開いた。
「二人でこれだけです」
「これだけって、一日で四体ですよ! 充分大漁と呼べる数ですよ!」
「え、これで大漁?」
「やっぱ、そんな感じかあ」
久我っちが言っていた通りだね。これ、そんなに難しいヤツだったんだ。
「このまま受け取っていいですか?」
「いいですよー」
「ありがとうございます」
了承すると、アネッサはとてもよい笑顔で部屋から出て行った。
「さて、と。私たちも行こう?」
「ああ…」
頷くものの、久我っちは何やら気難しい顔をしている。
らしくないなあ。
どうしたんだろう?
書いてたの、忘れてた。。。