64 パイナップルみたいな
北門を出てからはダッシュだ。
自分の依頼をじゃない感が強すぎて、なんか時間が勿体ない。
なので目的地周辺には結構すぐ着いた。
北東の森は、構えるほど変わった様子もない。
ちょっと暗いのは葉が茂っているからだ。
木漏れ日が揺れている地面をひと眺めする。
「あ、久我っち、パイナップルが生えてる」
地面にパイナップル特有のギザギザしたごつい葉っぱが見える。あのスーパーでよく見るやつ。
この感じからして実はきっと大きいよ。
パイナップル、食べてみたい!
いそいそと葉っぱに手を伸ばしたところで久我っちに止められた。
「待て待て待て、パイナップルは地面から生えねえよ」
「え、そうなの?」
「そーだよ。パイナップルはこのわさーっとした葉っぱの上に生るんだ、確か」
「へー」
パイナップルが生ってるところなんて見たことない。
スーパーだと、もいだ状態か切り身で売ってるから。
あんな大きい塊が葉っぱの上に生るんだ。想像できない…
「って言うか、お前。よく見ろ。魔力出てんじゃねーか!」
「あ、ほんとだ!」
久我っちに指摘され、よく見ればギザギザ葉っぱから魔力が滲み出ていた。
「まさかこれがマンドラコラ? やばーい。うっかり引っこ抜くところだった」
「抜いたら精神攻撃だぞ。警戒してなかったから直撃食らうところだった」
「ごめーん」
いやほんと、ヤバかった。
二人して昏倒からの魔物のお食事コースに突入するところだったよ。
「気を付けろよ、全く」
「ごめんって」
謝りながら、針を取り出す。
「針は脳天からだっけ」
暗器の針は縫い針とは違う。畳針は並みの太さで長さは三十センチくらいある。針も立派な武器なのだ。
それを垂直に振り下ろす。
が、二三センチくらいしか刺さらなかった。
「うわ、思ってたより数倍硬い!」
岩まではいかないけど、手に結構な衝撃があった。
なるほど、ガルトンがわざわざ言うわけだ。
刺し直すのもアレなので、水銀刀を取り出して鍔のところで上からがんがん叩いた。
針を短剣で叩き込むという、なんか変なことをやりながら十五センチ手前で止める。
「脳天、思ったより硬いよ。金槌いるかな?」
水銀刀はとにかく頑丈のお墨付きがあるから金槌代わりに使ったけど、絶対に金槌の方が使いやすいよね。
「これ、一撃とそうじゃないのは違うのか?」
「多少、影響はあるかもね」
ないとは言えない。多分。
マンドラコラのメカニズムなんかわからないし。
「感触としては何になる?」
「まあ、普通に熟れてないパイナップル」
「そりゃ硬いわ。って言うか熟れてないパイナップルとか切ったことねぇわ」
久我っちも針を取り出すと、近くに生えてる葉っぱに歩み寄り垂直に針を振り下ろした。
「お、マジ硬ぇ」
言うものの事前情報があるためか、確実に十五センチはいった。
「これで絞められたんだよな」
「そのはずだけど、どっちを先に引っこ抜く? 私のでいい?」
「ちょっと待て!」
久我っちはその場から一気に距離を取る。
って言うか姿が見えないんだけど!
「よーし、いいぞー!」
すごい遠くから声が聞こえる。
久我っち…思いっきり避難したね…いいけど。
「じゃあ、抜くよー!」
見えてるかどうかわからないけど手を振って、葉っぱの付け根を掴むと力を込めて引っこ抜いた。
「ィィィィー」
悲鳴っぽいものが聞こえたけど、精神攻撃というほどのものではなかった。
「久我っち、大丈夫だよー!」
マンドラコラを振り回すと、久我っちが戻ってきた。
「うわ、気持ち悪ぃ」
「確かに」
パイナップルの葉っぱの下にくっついているのは人の形をしたものだ。
「なんかこれ見たことある。呪いの人形がこんな感じだったよ」
「ああ俺も知ってる。アフリカの呪いの人形、とか言うやつ」
でろんと力なくぶら下がっている呪いの人形もとい、マンドラコラはうんともすんとも言わない。
「さっきちょっとだけ、悲鳴みたいのでたよ」
「引っこ抜いた時、残りの空気が出たとかかな。よし、俺のもいくぞ」
「ちょっと待ってー」
今度は私が一目散に逃げる。
「抜くぞー」
「いーよー」
宣言の後にマンドラコラを抜いたみたいだけど何も聞こえない。
無事に絞められたようだ。
久我っちがOK出す前に戻ると、嫌そうにマンドラコラを掴んで揺らしている。
「見た目、悪いよね」
「本当にな。とりあえず、もうちょっと探してみるか」
「これだと野宿なしに帰れるね」
「ばっか、お前。そういうのがフラグになるんだぞ」
「えぇ」
やだ。フラグが多すぎる。
さっさと帰りたいだけなのに。
パイナップルは鈍器。