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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
179/188

63 良くない方角


 大通りを北門に向かって歩く。


「とりあえず、いろいろ揃えて行くか」

「いろいろって?」

「針はまあ良いとして、食い物か?」

「お弁当は持ってるよ」


 お弁当は常に持参だ。依頼を受けても受けなくても関係ない。

 町の外で食べるか、中で食べるかの違いでしかない。

 お店でたべるのもいいけど、お弁当ってそれだけで特別感があるんだよねえ。


「お前はな。念のため保存食を追加しておくか。回復薬も買っておこう」


 言いながら久我っちはギルド印の店に入る。

 ギルドと提携している店がいくつかあって、そこでは手頃な値段で手頃なものが手に入る。

 贅沢をするのでなければ、ここで十分だ。ギルド印が付いている限り、品質は最低限保証されているし。

 要するに、初心者と懐具合の寂しい冒険者向けってこと。


 そこそこ稼げる者は、ランクが上の専門店に行く。

 当然、良いものが良い値段で販売されている。たまにレア物もあるんだって。


 私は拘りがないからあまり気にしない。


「だったら、メイダ商会で買えばいいのに」


 今ならお友達価格が使えるんじゃない?

 良いものが、手頃な値段で。も有りなんじゃないかな。


「行くなら次だ。北門はかなり遠回りになるだろ」

「そうだね」


 確かに北門は逆方向だ。遠回り過ぎて面倒くさい。

 うん、私も面倒くさいわ。


「別にこれくらいの保存食で十分だしな」


 久我っちも拘りがない方だった。


「保存食か…長丁場になるってこと?」


 日帰りなら保存食を追加する必要はない。

 わざわざ追加するってことは、何日かを見ているってことだ。


 えー、野宿するの?


 野宿なんてもっと予定してないのにい。


「地図だと、そんなに遠い感じはしなかったけど?」


 長丁場案件かなあ。

 久我っちは頷いたものの渋い顔をしている。 


「ああ…ただ方向が、な」

「方向」


 方向? 確か北東だっけ。

 首を傾げる私に、久我っちは続ける。


「北東ったら、鬼門だろ。何かありそうじゃねーか」

「鬼門かあ」


 なるほど、それで方向ね。

 鬼門の方角にマンドラコラの生息が多いなんて、確かに警戒はしておきたくなるよね。


 土地柄、何かあるのだろうか。

 やだ、何かフラグっぽい。

 余計なフラグは立てないでくださーい。


「一気に行きたくなくなってきた」

「依頼は受けちまったんだから今さら無理だ」

「久我っちが受けたんじゃん」


 人の意見を聞かないでさ。勝手に決めたくせにさ。


「だってマンドラコラだぞ。面白そうじゃねーか。引っこ抜いたらどんな風に叫ぶんだろうな?」

「ちょ、抜かないでよ。絶体に抜かないでよ! 振りじゃなしに!」

「わかってる、わかってる」


 久我っちはひらひらと右手を振る。

 これは、やりそうだ。マジにやりそうだよ。


 気を付けよう。

 本当にマンドラコラを処理なしに引っこ抜いたら、一目散に逃げなきゃ。


 そんなにビミョーな不安を抱えたまま、北門を出て北東に向かう。


「そう言えば、マンドラコラはどうやって見つけるんだっけ? 聞いて来なかったよ?」

「魔力を内包してんだろ? 魔力のある植物狙えばいいんじゃないか? 今まで魔力有りの植物とか遭遇したことねぇし」

「そっか」


 確かに魔力有りの植物は見たことないや。

 歩く茸は魔力有りの植物と言えなくもないけど、問答無用で攻撃仕掛けてくるし。

 探す必要ないヤツだし。


「トレントとかもいるだろうが、あれは木だしな」

「トレント? 魔力有りの木?」


 魔力有りの木も、見たことないけど。

 それ一体どんなの?


「多分だけど、魔物のカテゴリだな。歩いて攻撃してくる木。俺が知ってるやつなら」

「歩いて攻撃してくるんだ。歩く茸と同じだね」

「それもいるのか。マタンゴに、なるのか?」

「歩行茸って言ってたよ」

「ふうん」


 久我っちは気のない返事をする。

 歩く茸には興味が湧かないらしい。私も特に興味はない。

 向こうから襲ってくるだけだ。私から仕掛けたことないんだし。


「あ、でも干すといい出汁がでるんだよ」

「ぇ、食うのか?」

「前にね、いい感じで倒したのがあって。それを宿屋の人に料理してもらったんだ」

「よく魔物を食うの気になるよな」


 久我っちが引いている。

 失礼な。そんなに引くほどのこと?


「久我っちだって肉とか食べるでしょ。茸だって食べてもいいじゃん」

「それも…そうか…」

「ただ胞子嚢を傷付けてないやつのみね。毒あるから」

「いや、毒ありをそもそも食おうとするなよ!」


 真剣に罵られた。ひどい。


 フグを最初に食べた人は、きっとこんな風に罵られたんだろうね。


「フグとは別の話だからな!」


 え、読心術?

 怖い。


「何考えてるかくらい、解るっつーの」


 そんなに解りやすいかなあ?



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