62 新しい依頼
書いてたものをうっかり削除してしまう衝撃。
ふて寝しました。
朝起きて、ギルドに行けば久我っちが待ち構えていた。
「やっと来たか」
「ええ…」
なんか、待ち構えられてもねえ。
私と違って久我っちはやる気満々だ。
楽しそうでいいね。
「で、お前はまた薬草採取なのか?」
「どうしようかなあ?」
そろそろ違うのでも良い気はするんだ。
でもこの時間だと割の良い依頼は残ってないし。
明日に出直す?
「ショウさんには指名依頼があるんです」
どうしようか考えていたらアネッサが声を掛けてきた。
「指名? 薬草の追加ですか?」
「はい」
うーん。今、違うのにしようかなって考えてたところなんだけど。
乗り気でないのが表情
に出たのか、アネッサが慌てる。
「かなり特殊な依頼なんです!」
「マンドラコラ採ってこい!」
アネッサに被せるように、ガルトンが吠えた。
なに、ガルトンも待ち構えていたってこと?
マンドラコラって、なんだっけ? マンゴーとは関係ないんだよね?
「マンドラコラ? なんか聞いたことあるような?」
「ああ、あれだろ。引っこ抜くときに叫び声で精神やられるってやつ」
「え、なにそれ怖い」
叫ぶ植物…植物?
それは植物の範疇?
「マンドラコラは引き抜かれた際に叫ぶと言う精神攻撃を仕掛けてきます。この直撃を対処ないまま受けると気を失います。希に発狂すると言われますが、発狂と言うより混乱ですね。味方を攻撃してしまうので、発狂したと認識されるんです。気絶した場合は、他の獣の標的になるので、単独での採取は推奨されていません」
「確かに」
アネッサの補足に思わず頷いてしまう。
一人で行ってうっかり気絶なんかしたら、間違いなく通りすがりの獣に食べられるよね。危ないよね。
「それなら、凍らせちまえば叫ばないだろ?」
久我っちが対処法を提案したが、アネッサは首を横に振った。
「それが、凍らせると効能が半減してしまうんです。燃やすとほぼ駄目ですね」
「普通に引っこ抜くしか手はないのか? 耳栓で防げるものなのか?」
精神攻撃は音なんだろうか? それを聞かなければ良い?
でも、そんな簡単な話だったら、指名とか来ないよね?
「耳を塞げばいいってもんでもないんだよ。耳栓しても何割かは響いてくるんだ」
「ああ、骨伝導」
「あり得るな」
音を聞くのって、鼓膜だけじゃないよね。確か骨を伝わっても聞こえるはず。
マンドラコラの叫びが骨にも響くなら耳栓だけじゃダメだわ。
「それに、叫ぶと内包魔力が消費されますから、状態としては二級三級品になってしまいます」
「そうなると結構厳しくないですか?」
掘り出すのが難しいなら、後は土ごと持って来るしかない。けど、それなりの容量がある収納持ちでないと持ち運べるとは思えない。
私の収納袋では、数は揃えられないだろう。
大体、土ごと掘り出すとして、周囲どれだけ掘ればいいのさ?
ちょっと、いやかなり遠慮したい指名だなあ。
「脳天に針をぶち込むんだよ」
「針?」
断ろうと思ったら、ガルトンが解決法を言い放った。
「脳天に垂直に針をぶち込めば、叫ぶ前に無効化できる」
「まるで活き締めだな」
「活き締め? あ、知ってる。魚とか烏賊とか」
たまにテレビでやるよね。
魚の鮮度を守るんだっけ。
植物なのに活き絞め…植物の定義とは…
「針を刺せば叫ばないんですか?」
「浅いと無理だぞ」
「浅いとって、どれくらいです?」
「…こんなもんだな」
ガルトンは人差し指と親指で長さを示す。大体、十二、三センチくらいだ。
「これ突き抜けても大丈夫ですか?」
浅いと駄目なら深い場合は?
ガルトンは首を横に振る。
「これよか深いと核を傷付けるからな。内包魔力が激減する」
結構シビア。
浅くても深ても駄目とか、真面目に面倒くさい。
「お前、針を使うんだろう? うってつけだ」
「えー」
「面白そうだな」
意外と久我っちが乗り気だった。
そうじゃん!
久我っちも忍者マスターなんだから、針使えるじゃん。
「久我っちが行けば?」
「お前の指名だろうが」
久我っちは、何言ってんだお前と言う目で私を見た。
そして、アネッサへと視線を向ける。
「場所の情報はあるのか?」
「あります。北東の森が、他に比べて生息数が多いようです」
「なら、行くか」
「私の意見は?」
「ねぇな」
ガルトンと久我っちが揃ってばっさり切り捨てた。
ひどい。
「まずは様子見に行くぞ」
「えー」
「どうせお前、今日やること何も決めてないんだろ」
「それはそうなんだけどー」
やることないとしても、自分で決めたいんだよう。
「たまには付き合え」
こちらの不満などガン無視した久我っちに半ば引き摺られるように、私はギルドを後にした。
「いってらっしゃい」
アネッサのにこやかな声だけが、背後に響いていた。