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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
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59 茸と石の価値


 ギルマスとガルトンは二人して疲れ切っている。


 私と久我っちは状況を理解出来なくて、互いに顔を見合せ首を傾げるだけだ。


「えーと、まず…木耳…岩黒魔茸は珍しいんだよな?」

「美味しいんですか?」


 久我っちに続いて一番気になることを聞いたら、久我っちに『お前は黙ってろ』って顔をされた。

 なんで? 味って大切じゃん。


「岩黒魔茸は食わねぇな。魔力回復薬の材料だ、こいつを使えば簡単に上級が作れる」

「上級…」

「ああ、これだけの量だ。腕の良い薬師ならば精製の仕方で特級も作ることが出来るだろう」


 上級もしくは特級の魔力回復薬って言われても私はぴんと来ない。

 魔法属性がないから、魔法使えないもん。

 久我っちは、なんとなくわかっているみたいだ。


「その口調だと、珍しいものみたいだな」

「これだけの量はなかなか採れないな」

「普通はこの半分、以下だ」

「へえ」


 これ、あと一つあるけど、まあ黙っておこう。

 珍しいものは、アゴルの所に送りたいなあ。

 もともとそういう約束だし。


「で、無蝕晶石の方は、どういうものなんだ?」


 久我っちが次の質問をする。


「全く属性の干渉を受けていないものを無蝕晶石と呼んでいる」

「干渉?」

「大抵の魔石や魔晶石は属性付きだ。属性付きは武器や防具に属性を付与するのに使うってのはわかってんだろ」

「ああ」


 久我っちが頷く。


「えっと、この間の火竜の魔石?」

「そうだ」


 『聖なる盾』に譲ったのは確か火の属性の高純度のものだっけ。


「その中で、稀に属性が付いてないものがあるんだよ。要は空ってことだ。空だから後から属性を付与できる。腕のいい錬金術師なら、最大四つ…か?」

「今のところ、四種類の属性付与を成功させた事例がある」


 四つ、なんだあ。

 意外と少ない。

 それとも大きさの問題かな。


「これくらい大きい石だと、もっと付与できるんですか?」


 空きが大きいと、一杯入る?


 私の質問に、ギルマスとガルトンは首を横に振った。


「大きけりゃいいってもんでもねぇんだよ」

「そうなんですか?」


 大は小を兼ねない?


「属性を重ねても、混ざるか相殺し合うかだ。余程の腕と経験があって、初めて四つの属性を独立させられるんだよ」

「ほー」


 混ざってぐちゃぐちゃになるか、相殺し合ってぐちゃぐちゃになるかってこと?


「失敗した場合は使い物にならなくなるか、どれか一種類の属性だけが突出するかだ。なかなか、難しいものなのだよ」


 しみじみとギルマスが呟いた。


「しかも、空の状態の無蝕晶石は属性の影響を受けやすいからな。触れた瞬間、その属性が付く。これを無造作に持って、属性が付かない奴は少ない」


 なぜ、そこで私を睨むんだろー?

 そりゃあ、鷲掴みだったけどさあ。


「俺とこいつは属性なしだからな。運が良かったな」

「全くだ。一つでも属性が付くと、後から付与するのは難しいんだよ。覚えとけ」

「…はぁぃ」


 叱られても、釈然としない。

 まあ、無知から大失敗にならなかったのは良かったんだけど。


 これだけの無蝕晶石を、ランク落ちにするところだったよ。


「他にも無蝕晶石はあったのだろうか」

「落ちて来たのを拾ってすぐに戻って来たので解りません」

「確かめようとは思わなかったな。またシムルグに襲われても面倒だったし」

「それもそうだな」


 ガルトンとギルマスが頷いた。

 シムルグなんて、一羽? 一頭? だけでも大変な相手だ。

 回避できるならするのが当然た。


「ならば、調査に行きたい。場所を教えてくれるか?」

「いいですよ」


 あっさり答える私に、ガルトンは小さくため息をつく。

 ん? 何か私、間違えた?


「ごねもしねぇ」

「ごねる案件なのか?」


 久我っちも私と似たような表情だ。


「普通はこんな金になる話、簡単に話しゃしねぇんだよ。黙りを決め込むか、情報料を吊り上げるかのどっちかだ」

「「おお」」


 私と久我っちはお互いに視線を向け、同時に感嘆の声をあげる。


「そうか、情報料か」

「なるほどー」


 情報がお金になる。

 その理屈は解るけど、自分が対象になるなんて思い付きもしなかった。

 交渉次第では、儲けることが出来るんだ。


 まあ。


「面倒くさいから、別にいいです。この石を高く買ってもらえたらそれでいいです」


 駆け引きとか、いいや。向いてないもん。


「これを見つけたのはショウだからな。ショウがそれでいいのなら、俺がどうこう言う話じゃねぇよ」


 久我っちもあっさり引いた。


「勿論、情報料は払う。新たに無触晶石を発見できれば、その分も追加しよう」


 ギルマスは太っ腹なことを言った。

 それくらい、この石は重要なんだ。


 なに、この透明な石?


 くらいの認識しかなかったのに。


「それで、場所は…」


 ギルマスがテーブルに地図を広げる。


「北の門から出て…」

「多分、こう行っただろ?」

「それでこう行って…」


 感覚でしか場所がわかっていないので、地図で示すのは大変だ。

 久我っちと二人で地図を辿りながら、崖の位置を教える。

 崖事態は範囲が広いので、ある程度場所を搾らないといけないよね。

 あんな崖、目標なしでよじ登るのは大変だ。


「ここ?」

「多分、この辺りで間違いない」

「ふむ」

「なんでこんなとこ行ってんだ? なんにもねぇだろうに」


 ガルトンは胡乱そうに私たちを見る。


 そんなこと言われてもねぇ。


「ただの物見遊山ですし?」

「俺は付いて行っただけだからな」


 答えると、ガルトンは呆れ返った顔をする。


 とりあえず、ギルマスに感謝され、ガルトンには呆れられ、私たちは依頼料その他を受け取り、ギルドを後にした。シムルグの魔石は暴風の属性があるとやらで、久我っちが引き取った。

 久我っちの忍者刀は『嵐』だからね。なんか、それ系の武器でも作るのだろう。

 他人事だけど、ちょっと楽しみだ。


 じゃあ武器屋にでも行くか、とか話している時に私は思い出すことがあって、立ち止まる。


「久我っち、私ちょっと行きたいとこがあるんだけど」

「どこに行くんだ?」

「えっとね。メイダ商会?」

「メイダ商会?」


 久我っちが首を傾げる。

 メイダ商会はアゴル商会と縁のあるお店だからね。

 アゴルへの荷物はここに頼めばいいって言ってたし。

 なら当てにして大丈夫でしょ。


 折角なので、今日手に入れた茸と石の発送を頼もうと思う。


 それを話すと、久我っちも付いて来ることになった。


「商会の伝とか、あったら便利そうだよな」

「メイダ商会が何を売ってるか、知らないよ」


 でも、武器屋にツテがあったら、属性武器を頼み易いね。

 顔が広い商会だとよいなあ。


 そうして、メイダ商会に着いた訳だけど。


 メイダ商会は大きかった。


 何せ、お店がメインストリートにあるよ。

 メインストリートの店は老舗でもって力か強いことくらい、私でも解るよ。


 きっとこう言う店が百年後くらいにデパートになるんだ。


 正面玄関には、護衛がいるし。


 玄関に近付くと、護衛がじろりと睨んできた。

 ああ、うん。私たち、場違いなんだね。わかる、わかるー。

 なので、私はアゴルに貰ったバッジを見せる。

 と、護衛は慌て一礼してドアを開けた。

 バッチの威力、すごい。

 ドアが開くのと同時に店から早足で執事みたいな人が向かってくる。

 まるで入り口でのやり取りを見ていたみたいだ。


「どうぞこちらへ」

「はあ」


 執事っていうか秘書かな。時代劇なら番頭さん?


「会章をお預かりしてもよろしいですか?」


 会章? ピンバッチのことだね。


「ああ、はい。どうぞ」


 バッチを手渡すと、秘書的な人はゆっくり見て、返す。


「確かに、アゴル商会のものです。こちらへ」


 バッチが本物であると確認されたところで、奥の部屋に通された。


 豪華な応接室だ。

 お得意様専用?

 応接セットがいかにも高そうな感じがする。


「こちらでお待ちください」


 秘書的な人が出て行くのと入れ替わりに、女性店員がお茶のセットと共に入ってきた。


 そつのない所作でテーブルにお茶とお菓子がセッティングされる。


 私たちはふかふかのソファーに座って、それを唖然と見つめていた。


 店員さんが一礼して退室して、ようやくお茶に手を伸ばす。


「あ、お茶、美味しー」

「これ高いやつだよな」

「お菓子もねー。使ってるバターが違う」

「やべー。どれも絶対高級品」


 ヤバいと言いながら、私たちはお茶とお菓子をがつがつ頂く。


 高級品って、自分ではわざわざ買わないよね。その道を極めてるならともかく、私はどうやっても不味いお茶しかいれられない訳だし。


 ただだと、尚一層美味しく感じるのだし。


 二人して、ヤバいヤバい言ってると、ドアが開いた。


「お待たせした。儂がメイダだ」


 言うなり部屋に入って来たのは、山羊なおじさんだった。


 おじさん?

 山羊って年齢がよく解らないよね。







キクラゲ食べたい・・・

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