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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
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55 状況報告


 とりあえず、ちょっと遅い昼御飯を食べに行くことにする。


 行く途中、久我っちがいきなり切りだす。


「大体、お前何なんだよ」


 どうやら文句? は続行中のようだ。


「何が?」

「ミーシャってメイドはいつ戻るんだって聞いても、さっぱり要領を得やしない」

「あー」

「しかも、周りの奴は誰もミーシャなんて知らないとか言うし」

「そ、そっかー」


 護衛メイドのミーシャがこの町に居たことはない。何しろ今回だけの設定だから。

 唯一居たのはロシェ夫人のところだけど、ロシェ夫人がわざわざ久我っちに存在証明を示す訳もない。


 いるんだかいないんだ解らない存在なのだ。

 そりゃ、知ってる人がいる訳がない。


「緑野の連中もはっきりしないし」

「緑野の人とはミーシャとして顔合わせしたしね。それにオレイオ家が収まってようやく帰って来れたから。普段は『ショウ』でしか動いてないよ」

「ギルドのお前を見て、その事に気付いた…」


 ため息混じりに久我っちは言った。

 ミーシャに先に遭遇していたら、それ以外が念頭にないのも仕方がない。しかも、白忍者になったいるなんて思い付きもしないだろう。


「とりあえず、この町から動かない方がいいとは思ったけどな」

「まあ、そうだね」


 久我っちが移動していたら、合流するのはもう無理だろう。


 当分会えないに違いない。


「緑野について行こうとも思ったけどな」

「その方が、レベル上げには効率がいいんじゃないの?」

「ああ、それはかなり助かったな」


 あれから、緑野の皆は久我っちの世話を焼いてくれたらしい。

 良かったね。

 面倒見の良さそうな人たちだもんね。


 そんな話をしているうちに食堂に着く。いわゆる町の食堂だ。

 ざわざわしてるから、話をするにはちょうどいい。

 何せ、私たちの会話はかなり変わったものだろうから。


 空いていた奥の方の席について、定食を頼む。

 肉とパンとスープが定番だ。肉は鳥でハーブ焼きらしい。

 久我っちも同じものを頼み、エールを追加していた。そっか、久我っちはお酒が飲めるんだ。別に羨ましくはないけど。


 料理が来るまでの間に話を続ける。


「まあ、町でのことはさて置いて。久我っちは何でここに来たの?」


 そもそも、どうして久我っちはこの世界にいるんだろう?


「…何か、全体的に白いチビが突然現れて『あの子の手助けをしてあげて』とか言い出してさ。あの子って誰だよとか思ってたら、お前だった」


 白いチビ…エセ神だよね。

 相変わらず説明不足だな。

 久我っちチョイスは何故なのだ。


「お前は?」

「似たような感じかな? いきなりしばらくこちらにいろってさ」

「理由は? お前も誰かを助けるのか?」


 なんじゃ、それ。

 そんなに助けないといけない人ばっかりなのかね。


「う〜ん、人助けは聞いてないなあ…」


 元々の原因については、自覚とか皆無だから実感が全くない。

 けど、一応話しておくか。


「なんかね、今の私意識不明の重体らしいよ。で、その体に魂置いておくと引き摺られちゃうから、一旦避難させとくんだって」


 途端、久我っちの顔色か変わった。


「意識不明って、大丈夫なのかよ」

「大丈夫じゃないから避難したんでしょ。その辺の記憶が全くないから、なんとも言えないんだけどさ」

「重体か…俺も思い当たることがない…な…何かあれば俺の耳にも入るはずだし……それとも、なった直後か?」

「どうなんだろう?」


 いくら考えても、その状態に至る経緯が全く思い出せないんだよね。


 事故? 病気? 


 なんで、私は意識不明の重体なんだろう。

 どうして、何も覚えていないんだろう。


「それでここにか?」

「のんびり好きにやっていいって言われたよ。一体、何の助けがいるのさ?」


 今のところ、こちらでの生活には問題はない。

 ちょっと面倒だなあ、って思うことはあっても、我慢出来ないほどでもないし。


「だよな。あー、でも。これは頼まれた」


 思い出したと、久我っちがどこからか革の財布を取り出し、テーブルに置いた。

 キャメルカラーの長財布。柔らかい。とりあえず手に取ってみる。

 札入れは何も入ってない。カード類もない。硬貨入れはマチがあって結構入るタイプだ。

 ファスナーを開けると、金貨が何枚も見えた。


「それ、百枚入ってるってさ」

「百?」


 そんなに入ってるのか。大金じゃん。とても金貨が百枚も入っているようには見えないんだけど。ってことは、つまり収納袋系か。


「なんか、ごめんって言ってたぞ」

「だろうね。無一文で放り出されたもん」

「そりゃひでぇ」


 久我っちが笑う。


 笑い事じゃないんだけど。


 アゴルたちに会わなかったら、かなり大変だったんだよ。

 そもそもどうやってイサドアの町に入れるかも解らなかったしさ。

 いきなり不審人物認定とか勘弁して欲しい事態に陥ってたかも知れないもんね。


「…なんか釈然としないけど、お金に罪はないからもらっておく」


 さっさと財布をしまう。なくしたらことだからね。


「持ち主以外は使えないようにしてもらってあるから、大丈夫だぞ。あと、なくしても戻ってくるようにしてある」

「え、便利」

「俺も財布はもらったからな。真っ先に機能追加してもらった」


 ほお、ほお。


 さすが、出会い頭にステータスがどうのと言うだけのことはある。


 しかもだ。


 今、久我っちはどこからか財布を取り出した。

 つまり、収納袋的な何かを持ってるってことだ。


「久我っち、どこから財布出したの?」

「ああ、空間収納。財布もらった時に、スキル追加させた」


 事も無げに久我っちは言った。


 なんですと!


「ズルい! 私、無一文で放り出されたのにっ!」

「追加させないお前が甘い」

「そんな話、する暇もなかったよ」


 全く、訳の解らないうちに飛ばされたんだよ。

 大体、無一文だなんて思わないじゃん。


 あ、定食来た。


 ここからは食べながらの話だ。


「スキル追加? なんか、話す暇とかなかったし。そもそも、格ゲー以外やらないし」

「白チビも思い付かなかったんだろうな。財布頼まれた時、マジごめんって感じだった」

「で、久我っちに頼んだのそれだけ? え、久我っち、財布運ぶためだけにいるの?」

「お前に手助けがいらないなら、そうなるよな」


 久我っちは苦笑混じりで言った。


「エセ神が直に渡せばいいことなんじゃないの?」

「エセ神? ああ、白チビのことか。あれで神様か…そのせいか、直接接触は出来ないみたいだぞ」

「それもそうか…」


 直接、あれこれに手出し出来るなら、元の世界は何度もやり直しはしないよね。


 手出し出来るものと出来ないものがあるみたいだし。


 感じとしては、人間には干渉出来ない、かな。


 私自身、過度な干渉も接触もなかったし。


「ところでさ、空間収納? はどれだけ入るの?」

「うちの道場分、だな。俺が一番イメージしやすいのは」

「へえ」


 道場か。

 あれだけあれば、かなりいろんなものが入るよね。

 前に落としたワイバーンも入るんじゃない?


「いいなあ」

「なんかあったら、代わりに仕舞っておいてやるよ」

「なんかあったらね」


 話している間に定食も食べ終わる。


「で、久我っちは何してくの?」

「そりゃ冒険者だろ。こんな世界に来て、冒険者以外何やれってんだよ」

「そう?」


 そんな力説されてもなあ。

 私は選択肢とかない感じだったもん。


「そういうものかなあ」

「お前、基本的にやる気ないのな?」

「あんまりないね」

「つまんねー奴だな。ランクはどの辺なんだよ」

「ランク? 今Eだよ。とりあえず待ってもらって、だね」

「待ってもらって? 実質Dなのかよ? やる気ないのに、早くね?」


 久我っちが胡乱そうに私を見る。


「そうなんだよねー。なんか、とんとんとランクが上がっちゃってさ。久我っちは?」

「俺はまだF2だよ。なんだよ、F2とか、なんでFだけ細かいんだよ」

「説明聞いたんでしょ」

「聞いても、意味解んねぇよ」


 久我っちは盛大にぼやいた。


 そか、久我っちはF2か。

 こちらに来てからまだ数日だもん。

 F2なら順当なんじゃないの。


「私は特殊なのに当たったからねぇ」

「特殊?」

「変異種とかゴブリンリーダーとかワイバーンとか火竜とか?」

「それ、下位ランクが扱う奴じゃないだろ」

「何か出て来たんだもん」


 どれも私から接触した訳ではない。

 いや、始めの魔狼は私から仕掛けたか。

 でも、あれは仕様がなかった。

 十分正当防衛の範囲だ。でなけりゃ、ギルも死んでたかも知れないんだし。


 それ以外は降って涌いてきたようなものだ。


 降りかかる火の粉を払ったに過ぎない、と思う。


「なんか、手早くランク上げる裏技とかないのか?」

「さあ? あったとしても、私が知ってる訳がないよね」

「お前はそういう奴だよ」


 久我っちは、しみじみと呟いた。


 なんか、失礼じゃない?





久我っち、ただの巻き込まれ。

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