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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
17/188

16


 中間テストの結果は予想をはるかに上回るものだった。


 当然、家では母さんにめっちゃ褒められた。

 ご飯も私の好きなものばっかり。

 御幸ちゃんも驚きつつも褒めてくれた。


「しぃちゃん、すごい! お母さん感動しちゃった」


 目に涙とか溜めてたり…

 泣くほどのこと?


 御幸ちゃんもにこにこだ。


「しぃ、頑張ったな」

「うん、頑張ったよ」


 やっぱり、御幸ちゃんに褒められると嬉しい。


「嘉之さんに報告しなくっちゃ!」


 母さんはいそいそとメールを打っている。

 文面は考えたくない。きっとハートとか一杯なんだよ。

 父さんとのメール、キラキラだもん。


 そのせいで、私がメールの返事を一行で終わらせると、『冷たい』とか『素っ気ない』とか、二人でいじけるんだよ。

 意味は通じるからいいと思うんだけと、駄目なものなの?


 その辺がよく解らなくて、たまに御幸ちゃんに溜め息をつかれるんだよね。


 あ、なんかしょっぱい気分。


 私のことじゃなくて、母さんのメールだよ。


 このメールで、お小遣いアップとかボーナスの流れにならないかなあ、と内心では思ってたりするんだけど。


 父さんからはソッコーでメールが来てた。

 時差はないのか、この夫婦には。


『美潮、流石お父さんの子! お土産楽しみに!』


 あー…

 お小遣いの方がいいなあ…

 それとなーく、根回しできないかなあ。


 それはさておき。


 河澄君には、本当に世話になったよね。


 ここはやっぱり、お礼とかした方がいいのかな?


 でも何がいいんだろう?


 思い付かないなあ。


 河澄君の好みは解らないし。

 大体、頭いい人って、何を貰ったら嬉しいんだ?


 ここは、頭いい人に聞いてみるか。

 私の周りの頭のいい人で、話が聞きやすい人と言えば、高遠かな。


 と言う訳で、テスト明けのゲームセンターにいた高遠に聞いてみた。


「勉強教えて貰ったんだけど、礼とか何がいいと思う?」

「勉強教えて貰った? お前、ちゃんと勉強したのか!」

「したらまずい? 勉強するから来ないって、最初に言ったよね」

「で、大丈夫だったのか?」

「…大丈夫だったから、お礼がしたいって言ってるんだけど」


 なんか…いちいち腹立つなあ。


「お前に勉強教えるって、どういう奴なんだよ?」


 どうって…えーと。

 河澄君のイメージと言ったら。


「草食系?」

「草食?」


 高遠は本気で意外そうな顔をした。

 草食系の知り合いがいたら、おかしいのかね。


「草食系…そんなの解るかよ」

「高遠、友達いないの?」

「お前、喧嘩売ってるのか? 相談してるのか?」

「相談してるつもりだけど?」


 高遠が意外に思う気持ちが今ちょっとわかった。

 草食系の友達とか、高遠にいなさそうだよね。

 もしいるなら、どんな知り合いか確かに想像がつかない。


 高遠は草食系とか、高遠は絶対関心ない。


「…別に何でもいいんじゃないのか?」

「うわ、てきとー」

「知らない奴のこと、聞かれてもな…」

「それはそーなんだけどさ」


 ここまで適当に流されると、参考にもなりゃしない。


「使えない…」

「なんか言ったか?」

「別に」


 聞く相手を間違えた。


 高遠は、駄目だ。


 そうなると、土屋君? 和泉先生?


 うーん…


 和泉先生に近づくのはねえ。

 止めておこう。

 なんか苦手だ、あの人。

 こうやって避けると、返って相手の興味を引いている気もしなくもないけど…


 考えていると、高遠に睨まれた?

 なんで?


「そんなに気になるのか?」

「そりゃあ、すごい助かったし」


 これだけ成績アップできたのは、河澄君のお陰だもん。


 本当に、成績のこと考えると嬉しい。顔がにやけてしまう。


 ん?

 高遠がずっと見てる。なんか、目付きが悪いんだけど。


「? 高遠、何で機嫌悪いの?」

「別に」


 私の真似かい。


 今まで会話の中に、地雷あった?

 いつもの調子だと思うんだけど。


 高遠はむっとしたまま続ける。


「大体、勉強が解らないなら、俺が教えてやるのに」

「えー」

「何で嫌そう顔するんだ」

「だって、高遠、スパルタそう…」


 確かに高遠は、名門進学校の一番だけどね。

 質問には全部答えてくれそうだけど、ゲームの借りとばかり、ビシバシしごかれそうな気がする。


 ヤだなあ。そう言うのは、絶対嫌だなあ。


 そう言うと、高遠の機嫌が一層悪くなる。


「…その草食系は、優しかったのか?」

「そりゃそうだよ。草食系がスパルタだったら、日本語の定義おかしいじゃん」


 スパルタな河澄君とか、想像出来ないよ。


 あり得ないよ。


 五十嵐先輩は絶対にスパルタだと思うけど。


 あの人はドS中のSだよ。


 私はMじゃないんだよ。むしろSだよ。


 いや、それはどうでもいいんだけど。


「お前が救いようのない、残念な頭じゃなけりゃ、俺だって力加減は考える」

「力加減とか言ってる時点で、しごく気満々じゃん!」


 あーやだやだ。


 しごかれて勉強するとか、絶対嫌だよ。


 期末テストも、河澄君に頼もうかなあ。


 でないとしても、朝イチの図書室は勉強捗るんだよね。


 期末もそれなりの成績だと嬉しいなあ。

 なんてことを考えていたら、


「…………」


 高遠がおもむろに立ち上がると、機嫌悪いまま何も言わずにゲームセンターを出て行ってしまった。


 私は唖然と高遠を目で追う。


「なに、あれ…」


 高遠はなんであんなに機嫌が悪いんだろう。


 珍しい。


「ショウ、お前さあ…」


 高遠がいなくなった席に、ゲーム仲間のナルが座る。ナルはブロック崩し系のトップ。本名は知らない。私と同じで、みんなナルと呼ぶ。格闘は私が強いが、ブロック系はナルに勝てたことは一度もない。

 ほとんど金髪でピアスたくさん、アクセサリーもたくさんの一見してチャラい系。

 話すと意外としっかりしてるんだよね。


 人は見掛けによらない。そんな人間がこのゲームセンターにはゴロゴロしてる。


 ナルは台に頬杖をついて、呆れたように私を見た。


「なに?」

「高遠が可哀想だろ」

「なんで?」


 高遠が可哀想?


 どの辺が?

 なんで?

 どうして?


 本気で考え込んだら、ナルに盛大な溜め息をつかれた。


「お前、高遠のツレなんだから、もうちょい頼ってやれよ」

「え?」


 ツレ!?


 高遠の?


 え、そんなカテゴリ?


「ツレって、ここにいるみんなじゃないの?」

「俺ら、顔見知りレベルだよ」


 …ツレと顔見知りは、そんなに違うものなのか…


「似たようなものじゃないの?」

「五コンボと十コンボくらい違う」


 喩えがマニアック過ぎてよく解らないんだけど?


「だから、高遠の友達とか、お前くらいっきゃいないっての」

「いやいやいや、いるでしょ。いくらなんでも」


 ヒラヒラ手を振ってみせたら、ナルはこれみよがしに肩を竦めて見せた。


 うわ、なんかムカつく。


「いねーよ。あいつ、見た目扱いにくいし。俺らだって、来たばっかの頃、どうしたらいいか迷ったし。お前にボコ負けしなけりゃ、近付きもしねぇって」

「そーかー。始めの頃の高遠って、そんな感じだったっけ…」


 そい言えば、取っ付きにくそうではあったね。

 私も最初は睨まれた。

 気にしなかったけど。


 でも、学校でもあの頃の調子なら、友達はできにくいよね。


 高遠、ここに友達連れて来たことないし。


 私も学校に友達いないんだけどね。


 その辺、似てるかなあ。

 

「うーん」

「高遠にとって、お前は特別だよ」


 だから、もうちょっと気を遣ってやれと、ナルは言う。


 気を遣えって言ってもさ。


「次のテストのことでも聞けばいいだろ」

「それは嫌だ」


 スパルタは嫌だよ。


 きっぱり言い切る私に、ナルは肩を落として、溜め息をついた。


 高遠とはさ。

 今まで通りがいいんだよね。


 それじゃ、ダメなのかなあ。


 いろいろ、難しいな。


 やっぱり、蝉だのカエルだの追いかけてた、子供頃のようにはいかないんだね。


 はあ。

 溜め息つきたいのはこっちだよ。




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