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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
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46 火竜騒動後


 翌朝、目が覚めたらほぼほぼ昼だった。


 うわぁ、よく寝た。

 それだけ疲れていたっていうか、ダメージが残ってたんだね。

 なんか、久しぶりにぐっすり寝たって気がするもん。


 階下に降りるとエーリカが顔を出す。


「おはよう。朝ごはん終わっちゃったけど、何か食べる?」

「食べさせてもらえるならありがたいです」

「わかったわ、座って待ってて」


 ありがたい。何か出してくれるらしい。

 私はおとなしく席に座って待つ。

 すぐにトレイを手にエーリカが戻ってきた。

 トレイの上にはスープとお茶とお弁当。


 お弁当、作っておいてくれたんだ。


「一応、作っておいたの。今からなら、朝もお昼も変わらないわよね」

「ありがとうございます」


 エーリカに深々と頭を下げて、お弁当を食べる。

 ロールパンと肉の串焼きとお芋、あとプチトマトみたいなのが入っている。


 それをのんびりもぐもぐしていると、ギルがやって来た。

 ギルは食堂を一眺めして、私を見つけるとまっすぐやって来る。


「やっぱり、まだこんな所にいたか」

「おはようございます?」


 なんだか苛立っているようなギルを見上げ、挨拶をする。


「もう昼だぞ」

「そうは言っても、さっき起きたばっかりなんですよ」


 言うと、ギル額に手を当てて、目の前に座った。

 それはつまり、早く食べろと?


「忙しいですね」

「当たり前だ。ギルドにはもうみんな集まってる。あんたが来ないと、火竜討伐の話が進まないんだよ」

「あー」


 なるほど、そういう話になってたんだ。


「わかりました」


 了解したもののご飯はほとんど食べ終わっていた。


 最後にお茶を飲み干して立ち上がる。


「では、行きましょう」


 早足で歩きたいギルの後をのんびり続く。

 ギルドに着くと、確かにすごい人だった。

 昨日の火竜戦、こんなに関わっていたんだ。

 っていうか、昨日は広い場所に分散していたから、感じなかっただけだね。


「やっと来た!」

「遅え!」

「なにやってたんだ!」

「あ、おはよー」


 ギルドに入ると、口々に罵られた。ひどい。

 ブランチ食べてただけなのに。

 朝御飯は大事なんだよ。


「おはようございます、ショウさん」

「おはようございます」


 アネッサに挨拶したら、そのまま階段までギルに引っ張られる。


「あんたは上だ」

「上?」

「ギルマスが待ってるんだよ」

「ギルマス?」


 ギルマスって、ギルドで一番偉い人だよね。

 一体何の用があるんだろう?


 奥の部屋に連れれて行く。

 部屋の奥に座ってるのがギルマス?


「ギルマス、ショウを連れてきたぞ」

「わざわざ、済まない。君がショウか。俺はギルドマスターのレクウスだ」


 奥の重くて高そうな執務机から立ち上がったのは、枯れ葉色の髪を撫で付けた壮年のおじさん。渋い。割りと恰幅の良い出来る校長みたいな?

 いや、会社の部長とかとかが似合いそうな感じか。


 ちょっと、火村先輩を思い出した。

 火村先輩もこんな風に年取れたらいいね。みたいな。


 執務室で待っていたのはレクウスだけではなかった。


 銀色の鎧のお兄さん。銀髪が鎧以上にきらきらしている。フル装備だ。昨日、火竜討伐ですれ違った聖騎士の人、名前は確かシルベスタだったっけ。

 隣にはシルベスタより軽装の鎧。此方は灰色の髪、だけど体つきはがっちり。その隣にはローブ姿のお姉さんは魔法師。

 あと、シルベスタと似た感じの鎧のお姉さん。多分年下。

 四人は昨日擦れ違ったメンバーだ。


「お待たせしました?」


 で、何の話なんだろう?


「早速、本題に入ろう」


 前置きなく話を進める。


「昨日の火竜討伐に関して、かなり無理をしたそうだな」

「? そうですか?」

「他の冒険者たちを危険に晒したと聞くが?」


 ああ、その話かあ。


「一応、事前に逃げるようには言いましたが」


 避難勧告はしたよ。当然でしょ。


「事実だ。逃げ切れない距離ではなかった」


 ギルが私の言葉を受けて続いた。

 なるほど、ギルは第三者として証言するために残ってるんだ。


「しかし、単独で火竜を相手にするとは、無茶だと思わなかったのか」

「時間稼ぎのつもりでしたから…いざとなれば、私も逃げますし」

「あくまで、時間稼ぎと?」

「それ以外ありますか?」


 何を聞かれているんだろう。

 私だって、単独であの大物を倒せるとは思っていない。それほど自分の力を過信していない。


「火竜から逃げられるのか?」

「逃げるだけなら」

「相手は空だぞ。どうやって逃げおおせるんだ」

「隠形が使えますから」


 言うなり、隠形を使う。本来なら、隠形は呪術だけど、『雪影』に付いているスキルだから、呪術とは別扱いなんだろうね。

 突然隠形を使った私に、レクウスたちはぎょっとする。

 私はそのままレクウスの背後に回り隠形を解いた。


「とりあえず、こんな感じです」

「……なるほど」


 シルベスタは呆れたような顔で肩を竦めた。


「どこにいるのか解らなかったよ。これならば、逃げられるかも知れないね」

「単独の場合は、この隠形を使って、逃げたり戻ったりで時間を稼ごうかと思ってました。皆さんが思いの外残ってくれたので、私もかなり自由度高く動けました」


 本当にね。

 みんなが火竜の注意を引き付けてくれたから、私も攻撃しやすかったよ。


「初めにブレスを潰したかからな。あれでこちらも勢い付いたんだよ」

「確かに、ブレスがあるのとないのでは違うな。しかも、羽根もやったんだろう?」

「上空から突っ込まれると、さすがにヤバいので」


 何しろ、火竜にアドバンテージを取られる訳にはいかなかった。私独りなら、どうとでもなったし、した。けど予想を遥かに越えて、残った人たちがいたから、彼らへのダメージを少しでも減らすためには必要だった。

 頑張ったよ、私。


「なるほど、わかった。今回の件は不問にしよう」

「ありがとーございます?」

「まあ、下手に処罰も下せんのだがな。今回は、下位の連中にもかなりのポイントが付いた。滅多にないことだ」


 ああ、なるほど。


 下位である私の無茶を罰したら、他の下位冒険者にも余波がいくんだ。

 確かに、今回のはランクを度外視した無茶だもんね。

 みんなで無茶をしました!


「俺たちとしちゃ、ここでのポイントはかなり助かるんだ」


 ギルがにやと笑った。そんなにポイント付くんだ。


「お役に立てて、良かったです?」


 なんだか不思議な感じだなあ。

 私は私がやりたいようにやっただけ、なんだよね。

 まあ、罰せられないだけ良かった。


「こちらの話は終わりだ。二人とも下で褒賞を貰うように」

「は、」

「次は僕たちだね」


 はい、と返事をする前にシルベスタが食い気味にきた。


「?」


 そうだよ。

 ギルマスの話は解るけど、シルベスタはなに? 何でここにいるの?


「えっと…?」

「僕はシルベスタ。『聖なる盾』のリーダーだ。あと、ティアラとリュオンとフェルミア」

「ああ、はい。お噂はかねがね…」


 って言っても、昨日コニーたちに聞いたんだけどね。と言ってめシルベスタ以外は知らなかったんだけど。

 魔法師がティアラ、剣士がリュオン、神官戦士がフェルミアね。


「じゃあ、これ以上の自己紹介はいらないね」

「そうですね」

「話は火竜の討伐なんだけど。僕たちが着いた時は、火竜はかなり削られていて、ほとんど労力を使わなかったと言っても良いくらいなんだ」

「はあ」


 さすがAランクは凄いね。

 いくら削ったと言っても、私たちは倒すまでには至らなかった。

 それを着いた途端倒して、しかも労力を使わなかったとか…嫌みか!


「討伐の褒賞は、受けるとしてもこれは僕たちが貰う訳にはいかないと思って…ティアラ」

「ええ」


 魔法師のティアラは、シルベスタの言葉に頷いて収納から深紅の石を取り出した。

 あまり大きくない。精々、テニスボールくらいだ。

 でも色はとても綺麗な深紅。ルビーのような深紅。


「これは?」

「火竜の魔石よ」

「え、これが?」


 火竜の魔石にしては小さいよね?

 怪訝そうな顔をする私にティアラが苦笑を浮かべる。


「魔石は、大きくなるものと純度が上がるものとがあるのよ。これは純度の方。火の属性がかなり強いわ」


 ため息混じりの説明に、魔石の価値がわかる。

 垂涎ってやつ。


「これは君の物だよ」

「私の?」

「ああ、あんなお膳立てされた状態で倒したものを、僕たちの手柄にはできないよ」

「そういうものですか…」


 反対意見はないようで、ティアラ以外の二人も頷いている。


 そうか、魔石は私の物なのか。


 でもねえ。


「…ギル、あれは売ったら幾らくらいするものなんでしょう」

「なっ!」


 小声で聞いたのに、シルベスタたちにも聞こえていたようだ。


「これを、売る…?」


 え? 呆然とするほどのことなの?


「この魔石は、加工すれば武器や防具に相当な属性付与が付けられるのよ! それをあっさり売るなんて! 私が買いたいくらいだわ!」

「…じゃあどうぞ」

「……本気、なの…?」

「一応本気です。私に火属性を巧く使えるとは思えないんですよね。水、氷ならさておき」


 忍者刀の吹雪からして、水か氷の属性じゃない? まあ、吹雪で切ったって凍ったりはしないんだけど。

 火か水かと言ったら、水だと思うんだよね。

 それに、鱗も持ってるしね。今のところそれで十分じゃないかなあ。


「だから、もしそちらで扱いたいのでしたら、構いませんよ」

「シルベスタ! 貴方、今幾ら持ってる?」

「え、ティアラ。何だか怖いよ?」

「…何か、水もしくは氷属性のアイテムは持ってないんですか? それと交換でも良いですよ」


 お金も大事だけど、属性アイテムが手に入れられるならいいよね。探す手間が省けてさ。


「水属性?」

「ティアラ、あれは?」

「え、なに? リュオン?」


 灰色髪のリュオンの言葉にティアラは首を傾げる。


「この間、水属性の短剣を手に入れただろう?」

「でも、リュオン。あれは…」

「フェルミアの言う通りだよ。あれは水属性だけどただ頑丈ってだけで…」

「うん、だから。あれを手付金代わりにしたらいいんじゃないか? この魔石に釣り合うアイテムなんか持ってないだろう?」

「確かにそうね…」

「彼が水属性のアイテムを望むならば、出来るだけ応えたいね」


 …なんか、話が大きくなってない?

 属性アイテムはものの次いでに言ってみただけなんだよ?


「これなんだけど…」


 そう言ってシルベスタが取り出したのは、装飾も少ない短剣だ。刃が三日月みたい反っている。アラビア的な短剣。全体に銀色で、小さな青い石が散りばめられている。


「名前は『水銀刀』。さっきも言った通り、頑丈以外の特性はないみたいだよ」

「見せてもらっても?」

「いいよ」


 水銀刀を受け取る。結構軽い。

 鞘から抜くと、リーンと鈴が鳴るような音がした。軽く振ればリリーンと、動作に合わせた音色が聞こえる。


 これ、水銀刀が鳴っているんだ。

 どういう原理なんだろう。それにしても良い音色だね。


「これ、良いですね」

「気に入ったのかい?」

「ええ。悪くないです」

「じゃあ、手付けと言う形でいい」

「はい、構いません」


 商談成立である。




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