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中間テストの勉強は、あれから河澄君に何度も助けてもらった。
別に約束した訳でもないのに、河澄君は毎日図書室の同じ席にいた。
や、勉強しに来ているんだけどね、河澄君も。
でも、問題集のコピーとか、わざわざくれるんだから、私の勉強に付き合ってくれるつもりは多大にあったんだろう。
また、もらったコピーが、復習に丁度よいものばかりで、勉強は自分が思っている以上に捗った。
実に有り難い。
拝みたいくらいだ。
こんなにきちんとテスト勉強したことないもん。
確実に河澄君のお陰で、私は五十位に入ることができた。
何て言う快挙。
初めてだよ、順位表に名前乗ったの。
さらば、真ん中!
初めまして、順位表!
さて、河澄君の順位は…
おお、一位!
さすが河澄君、トップだよ。河澄君も快挙だね。
私、もしかしたら河澄君の勉強の邪魔してたんじゃないかと思ってたから、嬉しいよ。
でもって、綾香嬢は…
十一位。
惜しい。トップテンまで、あとちょっとだよ。
これは、期末にはトップテン入りあるね。
三年のトップは火村先輩、二位が五十嵐先輩。
上位独占か、やるな、守護者。
あーでも、土屋君の名前はないや。
授業態度見ている限り、土屋君は私と同じくらいじゃないのかなあ。
だとしたら、何か親近感湧くよね。
ほっとするよね。
守護者も人の子だよね。
でも、もうちょっと頑張れ。
っと、河澄君が順位表を見に来たよ。
私は河澄君に歩み寄った。
「河澄君、一位おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「私も、河澄君のお陰で順位を伸ばすことができました。ありがとうございました」
「そんな…委員長の努力の結果です」
はにかみつつも、河澄君は謙遜するけど、私ひとりの力では五十位入りは絶対に不可能だった。これは断言できる。
「河澄君の勉強の邪魔をしてしまったのではないかと思っていましたが…」
「あ、そんなことないです。僕もいろいろと復習できたので、返って助かりました」
「そうですか…」
邪魔でなければ良かった。
「本当にありがとうございました」
改めてお礼を言うと、河澄君はちょっと頬を染めて笑った。
君は、乙女か!
乙女なのか。
納得。
河澄君は草食系じゃなくて、乙女系なんだな。
新ジャンル発生。
とりあえず、乙女のように扱っておけばいいのか?
うぬう、新しい課題だな。
今後の対応はじっくり考えよう。
まあ、それはさておき。
生物は特に下がらないで済んで良かったよ。
下がったら、もれなくこの間のことが原因にされそうなんだもん。
あれから。
私は極力、和泉先生を避けている。
もともと親しい訳でもないけど、なお一層、距離を置くようにした。目も合わせないくらい。
だって、そうでもしないと、拘わり合いになりそうなんだもん。
ソッコー忘れると言った手前、それはマズイと思うし。
脇キャラとしては、和泉先生くらい癖の強い攻略対象とは一線を引いておきたい。
和泉先生はそう言うキャラなんだから、こちらから距離を置けばいいと思うんだよね。
実際に、和泉先生から話しかけられることなんてないしさ。
と、思ってたら、順位表見た後の教室への帰り道、和泉先生に声をかけられてしまった。
「明宮さん」
「…………はい」
返事に時間がかかってしまった。
うっかり、全力ダッシュで逃げようかと思っちゃったよ。
ヤバい、ヤバい。
心の中で冷や汗を流しながら振り返ると、和泉先生が優雅な足取りでやって来る。
「何でしょうか…?」
「今回のテストは、頑張りましたね」
あ、褒められた。
そんなに、気になっていたんだろうか。
「…いいえ、河澄君に勉強を見て頂いた成果です」
実力だとはさすがに言えないよ。
そんな下地ないのは、自分が一番よくわかってるって。
見栄は張らないに限る。後々の自分のためにも。
「蓮、君…ですか?」
「はい」
怪訝そうな顔の和泉先生に、私は頷いて見せる。
そんなに意外ですか?
あー、でも…河澄君のコミュ力を鑑みると、疑問も浮かぶか…
「明宮さんは、蓮君と仲が良いのですか?」
「中等部三年の時は、同じクラスでしたが…特に仲が良かった訳では…」
そう言えば、ろくに話したことなかったなあ。
っていうか、そもそも学校で誰かと親しくしたことがない。
今回、河澄君と一番たくさん話した気がする。
勉強の解らないところ聞いて、教えてもらって以外の会話はなかったけれども。
「ああ、そう言えば…明宮さんはクラス委員長でしたか」
そんな情報も持っているんだ。
河澄君から聞いたのかな?
とりあえず。
それで用件は終わりだろうか。
テストの出来を誉めてくれるために、わざわざ呼び止めたんだろうか
なんか、和泉先生の表情は違う気がする。
不満? そうな?
「え…と、なにか?」
「明宮さんは私のこと、ずっと避けていましたね…」
「そうですか?」
バレてたか…
でも、それには理由があるのであって。
「先生の超能力のこと、忘れると言いましたので、これ以上関わらない方が良いと思ったのですが?」
細かく理由をつけると、そういうことだ。
簡単に言えば、拘わり合いになりたくない。この一語に尽きる。
「明宮さんを疑ったことは一度もありません」
「…それはありがとうございます」
そんなに信頼されてるのか…何か重い…
予想外に面倒くさい人だな、和泉先生。
「ただ…」
「?」
「あからさまに避けられますと…結構、傷付きますね」
えー、和泉先生がそれを言うんですかー。
そもそも和泉先生、ご自分に人を近づけないようにしていたじゃないですか。
なのに、避けられると傷付くんですか。
なんて言う、ダブスタ。
うう、言いたくても言えない、このストレス。
恨めしい。
ゲームの記憶があるのが、恨めしい…
「そう言われましても…」
どうしろと言うんですかー?
どうやら、表情に出ていたらしい。
和泉先生はクスリと笑った。
「無理を言ってしまいましたね…せっかく明宮さんが気を遣ってくださっていたのに…」
いーえ!
特に気遣いとかしてません。
むしろ、逃げ回っていたくらいです。
だから、和泉先生もお気遣いなく。
私なんか構ってないで、ヒロインと仲良くしてください。
あー、そこ最重要ポイントだよ。
和泉先生、ちゃんと綾香嬢と仲良くなってるの?
五十嵐先輩、土屋君以外、どうも動きが把握出来ないんだけど。
まあ、全キャラクリアを狙わない限り、それでもいいんだけど。
「明宮さん?」
はっ、和泉先生と話してる途中だった。
「もしかして、気に障りましたか?」
心配そうに和泉先生は私の顔を覗き込んだ。
「いえ、何でもありません」
「怒っていませんか?」
「怒ってません」
きっぱり言い切ると、和泉先生はほっと息をついた。
「良かった…」
あからさまに安堵されても…
「え…と…教室に戻ってもいいですか?」
「ああ、引き止めてしまって、申し訳ありませんでした」
「いえ…それでは、失礼します」
頭を下げて、私は踵を返すと、教室に向かって歩き出した。
うーん。
和泉先生がわざわざ私に声をかけたのは、どう言う意味なんだろう?
この間の超能力がどうのと言う一件とは、関係ないみたいだけど。
ただ褒められたのだと、思っておいていいのかな。
和泉先生との距離感、よく解らないなあ。
もうしばらく、避けておいてもいいよね。
うん、そうしよう。