表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
159/188

43 新人研修2


 夜になり、夜営の準備を始める。

 これも、ギルは特に口出しはしない。


 私は何度かやったことがあるので、覚えている流れを話しながら、四人で準備を終えた。

 食料は、自分たちが持参したものを食べる。

 とりあえず、一泊と言う話だったので、みんなそれくらいは持ってきていた。

 これが何泊かになるなら、みんなで料理をすることになっただろう。昼の獲物を食材として使うのも有りかな。

 今回はそこまでしない。

 やることになったとしても、私はきっと手を出さない。主にみんなの胃袋のために。


 夜の見張りと火の番は二人一組で行うこととした。

 マルクとコニー、リリと私と言う組分けになったのは、気配察知の関係だ。

 気配察知を持つ二人はバラけないとね。


 そして、マルクたちが先、私たちが後になった。

 夜が遅いほど、身体的精神的に辛いのだけど、まあ私は問題ない。

 半分寝てても、何か来たら判るモードになってるから。


 マルクとコニーはそこそこ軋轢もなく、適当な距離でいたようだ。


 いきなり仲良くなれって言う方が無理だよね。


 うとうとしながら様子を伺っていたけど、マルクは単純に女の子をどう扱っていいかわからない感じだった。

 口調はぶっきらぼうだけど、何となくコニーを気遣ってるような気がする。


 昼間の気配察知も、えらく遠回りに褒めていた、多分。

 回りくどすぎて、よく解らなかった。きっと、コニーもよくわかっていないだろう。

 なんか微笑ましい。


 このグループは当たりだったね。全体的に未熟なのは仕様がないとして、コミュニケーションの在り方は悪くない。

 自慢しいがいる訳じゃなく、ズルいのがいる訳でもない。

 昼にギルが言っていたような、人の話を聞かないタイプもいない。

 ギクシャクしながらも、互いに互いを尊重しようとしている雰囲気がある。


 重要だよね。

 必要以上に身構えなくても良いと言うのは、特に精神的に助かる。余裕ができるからね。


 時間になったので、欠伸を噛み殺している二人と交代して焚き火の前に座る。

 乾いた枝を足して、火を調整する。


「話、してもいい?」

「構いませんよ」


 どうしたものかと思っていたら、リリから小声で声をかけてきた。


「ショウさんは…」

「ショウでいいですよ。私も駆け出しですから」

「駆け出し…本当に?」

「はい、本当に」


 胡乱そうに問われたが本当のことなので頷いて見せる。

 リリは小さくため息をついた。


「確かに、駆け出しじゃないとこの研修には参加できないものね。冒険者になる前のスキルが凄いってことね」

「そういうことになりますね」


 理解が早くて助かるよ。


「リリはコニーと組んでいるんですよね」

「ええ、ウクレイの町に来たときに。ギルドで冒険者登録をたまたま一緒にしてね。何となく話してたら、キャリアも実力も同じくらいで。じゃあ、一緒にやろうかって」

「気が合ったんですね。大事ですよ、それ」


 幼馴染みよりは遠い感じがしたから、どんな知り合いかちょっと気になってたんだけど、ウクレイに来てから知り合ったんだ。


「私がもっと魔法が使えたら良かったんだけど…」

「火の属性ですか?」

「あと治癒もなんとか使える。水か雷系が使えるようになりたいわ」

「方向性の選択が問題ですね」

「方向性?」

「火と治癒を上げるか、他もできるようにするか、ですよ。狭く深くか広く浅くか、ってことです」

「ああ…」


 呟いてリリは口をつぐむ。

 難しい問題ではある。

 広く浅くは、下手をすれば器用貧乏になる。

 狭く深くは独学では無理のような気がする。誰かに師事した方がきっといい。

 あと、魔力量も重要になるんじゃないかなあ。


 なんとなくだけど、リリは魔力量はそんなに多くない気がする。

 魔力量を伸ばす方法はあるんだろうか。

 私は魔法が使えないから、魔力があってもほとんど関係ないんだけど。


「その辺りについては、ゆっくり考えた方がいいですよ」

「そうよね…コニーと相談するわ」

「それが良いと思います」


 大事な相棒だもん。相談はした方がいい。魔法はこれから先、二人で冒険者を続けるのにも重要なんだから。

 コニーならきっと、真剣に考えてくれるだろう。


「私、コニーに会えて、本当に良かったと思うわ」

「そうですか」


 気を許せる友達って、大事だよね。


 私も、ギルに会えていろいろ助かったもん。


 友達、かどうかは解らないんだけど。

 私はそのつもりなんだけど、どうなのかなあ?


「ショウは? ギルさんとはどんな?」

「冒険者になるちょっと前に会いました。この国に来てすぐだったんです。いろいろ教えてもらって、本当に助かりました」

「ギルさんと、組まないの?」

「どうでしょう? 今のところは誰かと組むつもりはありませんねぇ」

「独りでやっていけるんだから、どんな駆け出しよ…」


 リリは呆れたように息をついた。


「なんか、独りでいる方が楽なんですよね。それじゃあいけないんでしょうけど」


 誰かと組む方が、いろいろやり易いことはわかっている。


 白崖のワイバーンだって、ギルがいたから素材を無駄にしなくて済んだ。

 私だけだったたら、崖下に叩き落とすだけで終わっていただろう。

 素材を気にしなければ、まあ、それでもいいんだけど。

 勿体ないよね。


 今回も、四人で組む利点と言うのがよくわかった。

 わかったけど、研修が終わったらパーティーを組むかと言うと、それは別の話なんだなあ。


 ああ、いつかバーンとは組まないといけないんだっけ。


 バーンは今どこにいるんだろう?


 イサドアにいるのかな。他のメンバーに引き摺られて別の町にいるのかな。

 まあ、どうでも良いのだけど。


 そんな話をしていると、こちらに向かってくる気配を感じ取った。

 これは、昼間の野盗擬きと気配が似てる。

 つまり、夜も気を付けましょーってこと?


 なら、今知らせるのは訓練にならないね。

 私は気配から感じ取れる距離を計る。


 もうそろそろって頃に、剣を抜いて立ち上がった。


「敵襲!」

「ええっ!?」


 いきなりの展開にリリが目を白黒させる。

 私の声に、マルクとコニーが飛び起きた。


「て、敵っ?」

「は、はいぃっ?」


 半分寝ぼけているが、二人は何とか武器を構える。

 コニーは気配察知を発動させているため、すぐに正気になった。


 当然、私も剣を構える。


「コニー、リリ。背後に気をつけてください。それ以外は私が排除します。マルク、ちゃんと狙ってくださいよ!」

「わかってるよ!」


 襲ってきたのは三人だ。一人は見覚えがある。私がびたーんした人。


 私を見て一瞬怯んだが、相手がマルクなので隙を突かれることはなかった。


「ファイアアロー」


 リリとコニーが中距離攻撃を放つ。しかし、炎も矢も何かに阻まれた。

 シールドかあ。


 そうだよね。真正面から食らう人はいないよね。

 しかし、気を逸らせることは出来たので、切りかかることにする。

 とは言え、ざばーっといったらまずいよね。


 上段から降り下ろした剣を受け止めるのを手応えだけで確認し、半歩下がって横に凪ぎ払う。

 その動きは読まれていたようで、相手は切っ先を躱しながら飛びすさる。追撃はしない。


 二人目に視線と切っ先を向けたところで、三人は剣を引いた。


「いい反応だった」

「ええっ?」

「これもぉ」


 脅かしの延長だと気付いて、マルクとコニーはその場に座り込んだ。何しろ、二人は寝起きだったからね。訳もわからないまま、応戦するしかなかった。

 だから余計に気が抜けたんだろう。


「びっくりした」


 リリはまだ余裕がありそうだ。


「駆け出しでこれだけできれば、充分だろう」

「お疲れさん」

「まだ気を抜くなよ」


 口々に軽い言葉をかけて、三人は再び夜の闇に消えた。

 別のグループを脅かしに行ったんだろうか。

 お疲れ様はこちらの台詞だね。


「さすがに、あんたは誤魔化せないよな」


 ギルは苦笑を私に向けた。


「助かったよ」

「ありがとうございます」


 マルクとコニーにお礼を言われた。

 ギリギリまで黙ってたから、ちょっと良心の呵責が。


「まあ、こんな風に寝込みを襲われることもある。夜番は気を抜くなよ」

「…わかった」

「はい」

「ええ」

「はーい」


 ギルの言葉にマルクたちは若干疲れたように頷いた。私が割りと元気よく返事をしたら、ギルに冷たい視線を向けられた。

 何故だ。


 そして、襲撃は夜明けまでなかった。


 朝になり、マルクとコニーは目をしょぼしょぼさせて起きてきた。

 あれから、熟睡はできなかったようだ。


 だよね。


 私たちは目が冴えたので、逆に起きているのが楽だったんだ。


「さあ、朝飯食べたら、出発するぞ」


 ギルに促されて、もそもそ朝御飯を食べる。


「うう、明け方に嫌な夢見た…」

「私も、ずっと誰かに追いかけられる夢…」


 マルクとコニーはしわしわな感じで朝御飯を食べている。


「次があるかもって、思いながらいるのは疲れるわね」

「気配察知を磨けば、多少気は抜けますよ」

「コニー…」

「がんばる…」

「俺も、なんとか習得する…」


 今回の襲撃は大変よい教訓になったようだ。


 研修に参加した甲斐があったというもの。


 マルクたちを見ながら、ひとりのほほんとしている私を、ギルは呆れたように見ていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ