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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
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36 ワイバーンの解体


 直に日が暮れる。


 さっさと解体を始めなくては。


 私たちは荷物をワイバーンの脇に置いて解体を始める。


 って言っても、主に解体するのはギルなんだけど。

 私はまだウサギしかバラしたことがない。こんな大物は無理だ。

 私が手を出したら、多分相当勿体ないことになる。

 折角の大物を無駄にはしたくない。


「俺も流石にワイバーンは初めてだけどな」


 水の属性付きのナイフを取り出しながらギルがぼやく。


「こんなのは、本来バラさずにギルドに持ち込みたいが…」

「物理的に無理ですよ」


 そう。

 私たちの収納袋にワイバーンは丸ごと入れられない。容量オーバーってやつだ。

 頭と首くらいしか入らないんじゃないの。


「わかってる。とりあえず、皮だろ、爪だろ、頭だろ、内臓…心臓、肝臓、睾丸は外せない…それから肉か…骨は…無理だな」


 ぶつぶつ言いながらも、ギルはさくさくワイバーンを捌いていく。


 さすが、早いよ。私ではこうはいかないね。


 まず、羽根の皮膜を最初に剥がし、その上に血の滴る内臓を置いて行く。

 心臓だけでも大きい、破損してるのが残念。あと、肺。しかし、肺は捨てるらしい。


 勿体ないのかどうかはわからない。


 私はギルに丸投げだ。ギルから渡されるままに受け取り、一旦捌いた内臓や肉を皮膜に避難させつつも、指示された通りに自分の収納袋に入れて行く。


 ワイバーンの魔石はソフトボールくらいの大きさだった。結構大きいね。これも仕舞う。出刃包丁みたいな爪も仕舞う。


 そうして、何とか解体されたワイバーンの皮と頭をギルが収納袋に入れた。

 私は専ら、内臓だ。


 袋の中が生臭くならないか、ちょっと不安だけど、今日ばかりは仕方がない。


 ギルが言ってた優先順位に倣って内臓を入れてから、肉の塊を入れる。


 大きい塊ですぐに一杯になったので、残った肉は小さく分ける。

 十キロの塊を二キロくらいの塊に分けると、どうやら隙間があるようで、一杯だったはずの収納袋に入るんだよね。袋の中ってどうなっているんだろう?


 そうやって入れても、骨は確実に入りそうにない。肉も割りと余った。


「背骨がなあ…」


 骨といくばくかの内臓と肉だけになったワイバーンを、ギルは残念そう見下ろした。本当は全部持って行きたいんだろう。


「仕方がないですよ。生のまま背負っていけるものじゃないですし。とりあえず、余った肉は食べちゃいません?」


 ワイバーンの味が気になる!

 そうさ、それだけさっ!


「そうだな! ワイバーンは高級食材だからな」

「やっぱり」

「高級レストランでしか食えないぜ。当然、俺は食ったことはない」

「良い肉はシンプルな料理でも美味しいって話ですよ」

「じゃあ、軽く焼いてみるか」


 明らかにギルはウキウキしている。


 ギルドに持ち込めないなら、現場で消費するしかない。

 仕方がないとか言いながらも、高級食材を食べられるのだから、ウキウキしない訳がないよね。


 本当は、きちんと料理して食べたいけど、私とギルでは無理だもん。


 いそいそと、火の準備をしようとしていたら、不意に人の気配が近付いてきた。


「うわぁ、凄い血の匂い!」

「一体、何が出たのよ…」

「ちょっと、あの大きな骨はまさか…」

「ワイバーン!」


 やって来たのは、女の子四人組だった。


 すらりと背の高い子はエルフの魔法士。小柄な子はケモミミ、あれは…狐? の狩人。狐は狩人向きなのかな。体格の良いがっしりとした子は剣士。で、剣士の子よりちょっとスレンダーな子は槍士。大体、同じ年頃…二十歳前後くらいか。


「もしかして、二人でワイバーン倒したの?」

「嘘、本当に?」


 剣士の子とケモミミの子が興味津々で近付いてくる。

 エルフと槍士は、そんな二人を止めたそうな気配を醸し出していた。


 行動派と慎重派。バランスは取れている。


「すごいねぇ」

「運が良かったんですよ」


 ケモミミっ子に気さくに答えれば、慎重派もそろそろと近付いてきた。


 ふむ。

 これは丁度いいかも。


「突然ですが、貴女たちは収納袋に余裕はありますか?」

「え? 少しくらいは…」

「私は持ってないけど…」


 収納袋は結構高かったんだっけ。

 道具屋で売ってたのも、高くて容量はそれなりのものだった。それでも、ないよりあった方が断然いい。


「それがなに?」


 あ、ちょっと警戒された。

 一番早く反応したところ、この剣士の子がリーダーなのかな。視線がエルフとケモミミに向いている。あの二人が収納袋持ちか。


「ワイバーンの肉と素材、残り物ですがこれだけあるので、良かったら何か持って行きませんか?」

「ショウ、いいのか?」

「後は捨てるしかないんですから、お裾分けしてもいいですよね?」

「あんたがいいなら、俺は構わない」


 ギルはあっさり引き下がる。

 こういう時、ギルはあっさりしている。

 そういえば、割りと最初からこんな感じだったなあ。


「え!」


 私の言葉に、四人の目が輝いた。


「い、いいの?」

「はい。さっきも話してた通り、残りは捨てるしかないんです。私たちの収納袋は一杯で」

「もらう、もらうーっ!」


 ケモミミが短剣を手に、ワイバーンの残骸に突進して行った。


「ちょ、ちょっとナナっ!」

「無理よ、エイラ。ああなったナナは止まらないわよ」


 ケモミミはナナで、剣士がエイラと言う名前らしい。


「あと…料理が得意な人はいますか?」

「料理?」

「ワイバーンの肉を美味しく食べたいんですけど、作って貰えたら一緒に食べませんか?」

「ちょっ、リュイミー!」


 エイラが槍士を振り返る。彼女が料理担当なのか。


「それは、私たちも食べていいってことかしら?」

「はい」

「やるわ!」


 リュイミーが目を爛々とさせて頷いた。


「エイラはナナを手伝って。セイリンは私を手伝ってくれる」

「了解」

「わかったわ」


 洞窟の入り口に荷物を置いて、セイリンから収納袋を受け取りエイラは手にナナの方へと向かう。


 残ったリュイミーとエルフのセイリンが鍋やらフライパンを荷物から取り出す。

 簡易竈は気が付いたらギルが元々あったものを補修していた。さすが、ギル。出来る男だ。


「じゃあ、始めるわ」

「よろしくお願いします。肉はこれです」


 ニリットルペットボトルサイズの塊を渡すと、リュイミーが固まった。


「こ、こんなに?」

「六人で足りますか。もう少し出しましょうか?」

「これだけで十分!」


 リュイミーはブンブンと首を振ると、まな板のようなものに肉を置いて、セイリンと共に料理を始めた。


 香草や油とか出て来るので。きっとただ焼くだけよりも美味しいものが出来上がるだろう。


 いやあ、楽しみ。


「料理が上手と言うのは、いいですねえ」

「俺たちはさっぱりだからな」

「本当に」


 私とギルはしみじみと頷いた。


「それにしても…」

「どうかしたか?」


 不意に話し出すわたしに、ギルが首を傾げる。


「剣は駄目になってしまいました」


 私の『気』に耐えられずに、刃は砕けた。柄はどうなったか解らない。すぐにワイバーンに向かったので、手離した時に崖下に落ちたのだと思う。

 テッドの形見だったのに。


「あれは仕方がない。ワイバーンを仕留める役に立ったんだ。テッドも喜んでるさ」

「そう言ってもらえると、助かります」


 ギルの幼なじみの形見だ。知らん顔はしたくない。

 ギルが大丈夫と言ってくれるのであれば、私もこれ以上気にやまなくて済む。


「ウクレイで、新調しないとな」

「最優先事項ですね」


 その間にもリュイミーたちは手際よく料理をしていく。

 香草焼きのようなもの。シチューのようなもの。薄く切って戻した乾燥野菜と炒めたもの。


「明日はウクレイ入り出来るから、奮発するわ」

「折角のワイバーンだもの。けちっちゃ駄目よね」


 リュイミーとセイリンはくすくすからニヤニヤと忙しい笑顔を浮かべている。

 たまにちょっと怖い。


「粗方、片付いたよ」


 エイラが戻ってきた。


「もうちょっと大きい収納袋があったら…」


 ナナは残念そうだ。

 ワイバーンの残骸を見るに、背骨がメインで減っていた。


「背骨ですか…」


 ギルも残骸がっていなたね。


「背骨っていうか、骨髄ね」

「なるほど」


 骨髄か。

 髄液が重要なんだな。


「それでも、これだけ手に入ったなら御の字だよ」

「じゃあ、もうおしまい? 片付けてもいいのかしら?」

「ああ、残りは全部崖下に捨てたい」

「わかったわ」


 セイリンが立ち上がり、残骸へと向かう。

 そして、水を呼び出し残骸をざばりと包むと、そのまま崖下に捨てた。

 微かに響いた音の感じからすると、崖の下の方で残骸を包んだ水を解放したようだ。

 そうだよね。

 この高さから、まんま捨てたら途中とか崖下の木々とか残骸でデロデロになるもんね。


「さっ、食事にしよう」

「いただきます」


 エイラの音頭を合図に、私たちは食事にした。


 ワイバーンの肉は滅茶苦茶美味しかった。


 満足です。





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