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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
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34 移動予定


 さて、今日はどうしよう。

 薬草採取か三つ目兎か、はたまたゴブリンか。

 違うこともやりたいような。


 そんなことを考えながらギルドへの道を歩く。

 ギルドに着くとギルがいた。そう言えばギルは何をしてたんだろう。ゴブリン討伐でしか会ってなかった。

 結構、堅実な性格だから、私みたいにふわふわ適当なことはしてないと思うけど。


「よう」

「こんにちは」


 私に向かってギルが片手を挙げる。私は軽く会釈を返した。


「依頼確認か?」

「まあ、そんな感じですね。ギルもですか?」

「まあな。俺はウクレイまでの護衛がないか見に来た」

「ウクレイ?」

「そろそろ移動しようかと思ってな。護衛依頼があるとついでで助かるんだが」


 ウクレイはとなり町だ。となりと言っても、割りと遠い。平民には移動手段が徒歩や荷馬車のようなものしかないので大変だ。

 日本の感覚からすると、こちらのとなり町は、となりの県くらいの距離感になる。

 自動車と電車がないって大変だよね。

 でも、となり町かあ。

 ちょっと興味があるなあ。


「ウクレイ、いいですねえ」

「あんたも行くか? あんたが行くなら白崖の道が使える」

「白崖の道?」


 変わった名前の道だね。崖って辺りが不穏だ。 ヤバそうな気配がする。


「白崖の道はウクレイへの近道なんだ。イサシュ山を越えるんだが、白崖の道を通れば迂回路の半分の日程で済む」

「かなり便利な感じですけど、迂回路があると言うことは、便利なだけじゃないんですよね?」


 使い勝手が良いなら、迂回路なんて出来ないだろうし、白崖なんて不穏な名も付かないだろう。

 何かしら問題があるから、注意喚起のためにそんな風に呼ばれているような気がする。


 そう言うと、ギルはにやと笑った。


「さすが勘がいいな。察しの通りだよ。白崖の道は文字通り崖に沿ってるんだ。狭い道で馬車は通れない。歩きのみだ。体の大きな奴は擦れ違うのも難儀する」


 あ、なんか想像できる。前にテレビで見た。中国だかチベットの山奥で超狭い道を崖に張り付いて登っていくってやつ。あれは、寺院か何かに参拝するんだったか。

 あれ、見てるだけで怖かったなあ。絶対出来ないって思ったもん。


「擦れ違えないんですか?」


 やだよ。そんな道行きたくない。


「俺やあんたなら大丈夫だよ。並んで歩けるくらいだ。問題はそこじゃないんだ」

「他にもあるんですか?」

「ああ、ワイバーンが時々襲撃してくる」

「むしろ、一番ヤバいやつですよね!」

「狭い崖沿いの道だからな。空から襲われるとかなりヤバい」

「ですよね…」


 身を隠せるものがない場所だなんて、襲ってくださいって言っているようなものだよ。


「そんなに頻繁に襲われるものなんですか?」

「二三ヶ月に一度くらいだが、EFの下位ランクの奴等はまずやられる」

「上からの攻撃なんて逃げられませんよね。何とか対応できるのはどの辺りのランクになるんですか?」

「最低でもDは欲しいところだな。あんたなら、問題ないだろう」


 逃げるだけなら、自信はあるよ。

 問題はその道がどれだけ危ないのかよくわかってないってとこなんだけど。


「行ってみるか」

「そうですねえ」


 白崖の道はさておいて、となり町には興味がある。

 ギルと一緒なら、道案内は不要だ。

 道程を考えて進む必要がないって、楽だよね。


 ワイバーンは…出た時に考えよう。

 二三ヶ月に一度くらいの頻度なら、出会わない可能性もゼロではない訳だし。


「行きます。いつ、出発しますか?」

「あんたは装備を揃えないといけないだろ? 明日の朝でどうだ?」

「わかりました。明朝ですね」


 明朝、日の出時に東門で待ち合わせすることを決める。


 こんな話をしていたら、バーンが首を突っ込んで来そうなものだが、今日は姿が見えない。


 ギルド内をキョロキョロしていると、ギルが首を傾げる。


「どうした?」

「いえ、今日はバーンがいないなあと」


 いつも気が付いたらいるから、なんかいないと変な感じだ。

 静か過ぎると言うか?


 私の言葉にギルは苦笑した。


「あいつなら、朝っぱらから、パーティーメンバーに取っ捕まって大物討伐に連れて行かれたぞ。半月…下手したら一ヶ月くらいは帰って来ないんじゃないか?」

「組んでる人たち、いたんですね」


 ソロっぽくはなかったけど、いつもひとりだったから不思議だったんだよね。


「ああ、最近ふらふらしてたのを捕まったらしいな。まあ、ふらふらって言ってもあんたにくっついてたんだろ?」

「そうなんですよ。組んでいる人がいるならそちらに行けばいいのに」

「興味がある方に流れて行くから、あいつのツレも大変だよ」

「赤の他人の私も大変でしたけどね。巻いても巻けないとか、地味にストレスです」

「あんたでもか。意外と凄いな」


 ギルが小さく感嘆の声をあげる。


「確かに凄いんですけど」


 そのバーンに伝言は頼んでおくべきか。悩むな。

 一度組もうと言う話だったけど、帰ってくるまで待ってられないし。


 まあ、いつかまた会った時でいいかあ。

 とりあえず旅の支度をしないと。何がいるかな? ガトーにでも聞くか。あと、アゴルにも町を出ること話した方がいいな。


 どっちを先にしよう。

 店でどれだけ時間がかかるかわからないから、装備を揃えるのを先にしよう。


 ガトーのアドバイスを元に装備を整える。

 幸いお金に余裕はあった。

 アレだよね。武器や防具にお金をかけなくて済むから、その分まるまる浮くんだよね。

 剣はテッドのをまだ使ってるし。

 精々、買い足すのは屑鉄の礫くらいだ。

 その礫を補充する次いでにウクレイ行きをロダに告げる。


「そういう訳で、礫は一時中止に」

「ウクレイか。まあ、時期ではあるな。わかった」


 冒険者の出入りなんて珍しくもないのだろう。ロダはあっさり頷いた。


 次に向かうのはアゴルの屋敷だ。

 運よく、アゴルは屋敷にいた。


「明朝出立ですか…」


 応接室でアゴルは残念そうにため息をつく。


「高枝平茸については、ウクレイでも気に止めておきます」

「よろしくお願いします。黄金栗はありがとうございました。大変な美味でした」

「ウクレイでも珍しいものがあったら、送ればいいんですか?」

「そうして頂けますか…ああ、そうですね。お渡ししておきたいものがあります」


 アゴルが言った瞬間、ゼルスがビロード張りのトレイを差し出した。

 トレイにはピンバッチみたいなものが乗っている。


「これは私が奉公に上がっておりました、ガルガス商会の屋号と我がアゴル商会の屋号を組み合わせたものです」

「はあ」

「こちらの三本の爪がガルガス商会の屋号です」


 え、商会なのに屋号が三本の爪?

 それ本当に商会? 何か、違くない?


「ガルガス商会から暖簾分けした店は皆、この号が入ってます。大きな町ならば、一軒は店を構えているはずです。ウクレイはメイダ商会があります。そちらを訪ねて頂き、このバッチを見せれば便宜を計ってくれます」

「なるほど。そこでアゴルさんのところに送ってもらえばいいんですね」


 そりゃ便利だ。

 助かる。

 私が荷造りとかしなくてもいいってことだよね。


「では、預からせて頂きますね」

「あと、餞別と言っては何ですが…」


 アゴルか言うと、ゼルスが音もなく姿を現した。


 あ、相変わらず凄い執事だ。なんで気配を消していたのか、三行で説明してくれませんかね?


 ゼルスが手にするトレイにはナイフか乗っていた。

 短剣より一回り小さなナイフ。柄に彫刻かしてあり青い石が埋め込まれている。


「これは…?」

「水の属性が付与してあるナイフです。どうぞお待ちください」

「え、いいんですか?」


 属性付与のアイテムは高いって聞いたよ。

 そんなものを餞別にくれるなんて、太っ腹。さすが。


「ありがとうございます」


 喜んで、私はナイフを受け取った。


 水属性のナイフ。これで解体が捗るよ。

 さっぱり練習してないけどね。


 練習しなくちゃだよね。

 ギルは解体が上手いらしいから、教えてもらいかあ。


「それでは、まだ買いたいものもありますので」

「お気をつけて」


 私は、アゴルの元を後にした。


 あと買うものは、携帯食料。かったいパンみたいなクッキーみたいなもの。ドライフルーツっ干し肉。蒸留酒の小瓶をひとつ。蒸留酒は消毒とかの代わりに。


 それらを収納袋に入れて、木苺亭に戻った。


 翌朝、私は木苺亭を出立した。

 朝早いのにガトーはお弁当を作ってくれた。


「お世話になりました」

「おう、気を付けてな」

「はい、では行ってきます」


 ガトーとセリナに見送れて東門へと向かった。




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