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中間テストが近い。
いくらなんでも、学園崩壊エンド回避のことばっかり考えている訳にはいかない。
勉強は勉強。
油断はできないよね。
学園崩壊回避しましたー!
落第しましたー!
じゃ、マジに洒落にならないし。
それに。
生物は点数下げたら、和泉先生が怖い気がする。
と、言うことで。
「中間テストがあるからしばらくこない」
ゲームセンターで言ったら、ディスプレイの向こうで高遠が目を見開いて私を凝視した。
「中間テスト? お前勉強とかしてるのか」
「してるに決まってんじゃん!」
いきなり何て失礼なことを!
「ちゃんと着いていけてるのか? 成績大丈夫か?」
「失っ礼な」
思いっきり心配そうな顔された。
前から思ってたんだけど、高遠は私に対してどんな認識があるんだろう?
著しく誤解してるのは間違いない。
「成績どの辺りだよ」
「大体、真ん中」
可もなく不可もなく…もうちょい上に行きたいところではある。
答えたら、高遠は不審そうだ。
なぜ?
「わざと真ん中にいるのか?」
「普通に真ん中だよ」
「普通…」
「普通だよ!」
だから、一体どういう認識?
普通じゃ駄目なのか?
その会話を聞いていたゲーム仲間が突然乱入してきた。
「ショウが普通? ないない」
「ショウが普通なの、身長と体重だけじゃん」
「体重? 普通じゃねーよ。痩せ過ぎだろ? もうちょい筋肉つけろよ。ちゃんと筋肉あるのかよ」
「生きてくのに必要な分はあるよ!」
だから、君たちは人をなんだと思ってる!
筋肉、ちゃんとあるよ。運動能力、人よりもある方だよ。
「お前の筋肉、ゲームすることにしか使ってないよな…」
「無駄遣いしてんな…」
「うっさいわ!」
思わず怒鳴ったら、まとめて笑い飛ばされた。そこは笑うところじゃないよ!
「ムカつく!」
のしのし歩いて出口に向かう私の背に、
「じゃーなー」
「テスト頑張れよー」
「またなー」
思いっきり他人事の、のんびりした声がかけられた。
あー気が抜けるったらない。
怒るのもバカらしくなって、結局はいつもの調子で、私は家に帰った。
◇◆◇
さて自分にゲーム禁止令を出した以上、気を入れて勉強しないと。
委員長キャラとしては、あんまり酷い点は取れないし。
真ん中は、死守ラインだと思うんだ。
大体、このキャラで成績が悪かったら、ハクがつかないよね。
後ろ指指されて笑われるよ。
それだけはイヤだーっ!
と、言う訳で勉強しよう。
地道に。
うん、地道って大切な言葉だよ。
家だとやっぱり誘惑が多いから、朝早く学園に行こうと思う。
って、夕御飯の時に言ったら、御幸ちゃんに心配された。
「勉強大変なら、俺が見てやるよ?」
「しぃちゃん、それがいいんじゃない?」
母さんにまで言われた。
星合高校の御幸ちゃんに手伝ってもらえたら、勉強もきっと捗るんだろう。
でも、そうなると御幸ちゃんの時間を私が使っちゃうわけで…
「とりあえず、まずは自力で頑張ってみる」
「大丈夫か?」
「…大丈夫」
答える私に御幸ちゃんは不満そうだ。
何か言いたそうな顔をしてる。
御幸ちゃんは意外と過保護だ。
日々、ビミョーなことをしでかす妹を、実に温かく見守ってくれる。
だからこそ、甘えちゃいけないと思うんだよね。
やっぱりさ。
まず、自分の力で頑張らないとさ。
「何かあったら、言えよ」
「うん」
結局のところ、御幸ちゃんは私の意思を尊重してくれた。
御幸ちゃんは、本当に優しい。
スクールバスは、朝は早い時間と通常の時間の二通りがある。
早い時間は、部活の朝練のためのもの。
でも試験期間中も早い時間のバスは運行されている。
私みたいに早くに登校して勉強する生徒のために。
せっかくだから、これを有効活用させてもらうことにする。
朝早い学園は、生徒もまばらだ。
試験前の一週間は試験勉強のために、部活も休みになるからなんだろうね。
人の少ない学園は不思議な感じ。まるで別世界に来たみたい。
いつもある人影が見えないだけで、こんなにも印象が変わるんだね。
新鮮だなあ。
まっすぐ図書室に向かえば、やっぱり生徒は疎らだった。
これくらい静かな方が集中できるよね。
ゲームで培った集中力には自信があるよ。
さてどこに座ろうかな?
図書室って、そう言えば来たことなかったなあ。
さすが白月の図書室、市営の図書館みたいに大きい。
本棚を眺めながらとりあえず、進む。
お、あの辺りの棚は、SFっぽいタイトルだよ。気になる。
さすがに蔵書も凄いね、ここ。
逆に誘惑多いなあ。あの棚には近づかないようにしないと。
学校の図書室に危険地帯がある罠! 盲点だったよ。
あれ、あそこに座ってるのって…
「河澄君…」
思わず名前を呼んでしまった。
奥の席に座って勉強しているのは、河澄蓮君。
中等部の三年で同じクラスだった。今は隣のB組だったっけ。
私の声が聞こえたのか、河澄君が顔を上げた。
水色の前髪の間から覗く瞳が、怪訝そうに私を捕らえた。
うん、河澄君も水の守護者なんだ。
「委員長…」
「…今は、委員長ではないのですが…」
「ご、ごめんなさい」
河澄君は俯き加減でソッコー謝る。
変わらないなあ。河澄君。
気の弱さは中等部のままか。相変わらずの、草食系。
「別にいいですけど」
私が答えると、河澄君はほっと息をつく。
私が今現在でも、『裏委員長』とか呼ばれるのは、きっとこの辺りに原因があるんだろうなあ。
中等部の私って、そんな刷り込みになるくらい、インパクトあったのか。
そこまでか。
ちょっと反省。
「…委員長は…今日はどうして?」
私の返答を、そう解釈したのか…
結局、『委員長』は訂正なしですか、そうですか。
「テスト勉強をしようと思って…」
目的をそのまま話す。
「…ぼ、僕もです」
「そうですか…」
うん、そうだろうね。
見るからに勉強してるよね。
河澄君は成績上位だ。 やっぱり成績落とせない、プレッシャーとかあるのかな?
大変だなあ。
なんてことを考えつつ、私はテキストを広げた。
まず数学。
苦手教科を一つずつ押さえて行こう。
と、言うわけで数学。
黙々と問題を解いているうちに、視線を感じた。
どうも河澄君が、ちらちらと私の方を見ている。
何だろう?
けど、私は特に用事はないので、勉強を続ける。
地道に問題を解いていたら、引っ掛かった。
う…この辺解らない…
「っ…」
例題を見ても、繋がりが解らないんだけど。
うわあ、ここで躓くと後々引き摺りそうだなあ。クリアしてすっきりしたいなあ。
どうしようかと、顔を上げたら、河澄君とばっちり目が合った。
仕方ない。
ここは恥を忍んで。
「河澄君…」
「はいっ」
「この問題、解りますか?」
躓いた問題に丸をつけて、河澄君に見せる。
河澄君は問題を眺め、
「ああ! はい、解ります」
立ち上がると、私の方へと回り込んでくる。
「これはですね…」
河澄君が始める説明を黙って拝聴する。
おお、河澄君の説明、解りやすい。
「なるほど…」
教えられたまま、問題に取り掛かる。
さっき引っ掛かったところも、説明を思い出して進めていくことができた。
助かるー。
これで、出来なかったもやもやを引き摺らないで済んだ。
「ありがとうございます」
「い、いいえ…役に立てたなら…良かったです」
河澄君の応対は何ともたどたどしい。
「河澄君…普通に話して頂いて構いませんが…」
「え…でも…委員長も…」
河澄君の丁寧語について言ったら、私の言葉遣いについて返された。
まあ、確かに私も万事丁寧語だ。
「私は…この方が楽なので」
「僕も! です」
「そうですか…河澄君が良ければ、私は構いません」
「はい、このままでお願いします」
頭を下げられてしまった。
別に、お願いするほどのことでもないと思うんだけど…
いいか。
河澄君がそれでいいのなら。
そろそろ始業時間だから、教室に行かないと。
「今日は、ありがとうございました」
改めてお礼を言って、私は図書室を後にした。
このペースで、中間テスト頑張ろうっと。