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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
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 中間テストが近い。


 いくらなんでも、学園崩壊エンド回避のことばっかり考えている訳にはいかない。


 勉強は勉強。

 油断はできないよね。

 学園崩壊回避しましたー!

 落第しましたー!

 じゃ、マジに洒落にならないし。


 それに。

 生物は点数下げたら、和泉先生が怖い気がする。


 と、言うことで。


「中間テストがあるからしばらくこない」


 ゲームセンターで言ったら、ディスプレイの向こうで高遠が目を見開いて私を凝視した。


「中間テスト? お前勉強とかしてるのか」

「してるに決まってんじゃん!」


 いきなり何て失礼なことを!


「ちゃんと着いていけてるのか? 成績大丈夫か?」

「失っ礼な」


 思いっきり心配そうな顔された。

 前から思ってたんだけど、高遠は私に対してどんな認識があるんだろう?

 著しく誤解してるのは間違いない。


「成績どの辺りだよ」

「大体、真ん中」


 可もなく不可もなく…もうちょい上に行きたいところではある。

 答えたら、高遠は不審そうだ。

 なぜ?


「わざと真ん中にいるのか?」

「普通に真ん中だよ」

「普通…」

「普通だよ!」


 だから、一体どういう認識?

 普通じゃ駄目なのか?

 その会話を聞いていたゲーム仲間が突然乱入してきた。


「ショウが普通? ないない」

「ショウが普通なの、身長と体重だけじゃん」

「体重? 普通じゃねーよ。痩せ過ぎだろ? もうちょい筋肉つけろよ。ちゃんと筋肉あるのかよ」

「生きてくのに必要な分はあるよ!」


 だから、君たちは人をなんだと思ってる!

 筋肉、ちゃんとあるよ。運動能力、人よりもある方だよ。


「お前の筋肉、ゲームすることにしか使ってないよな…」

「無駄遣いしてんな…」

「うっさいわ!」


 思わず怒鳴ったら、まとめて笑い飛ばされた。そこは笑うところじゃないよ!


「ムカつく!」


 のしのし歩いて出口に向かう私の背に、


「じゃーなー」

「テスト頑張れよー」

「またなー」


 思いっきり他人事の、のんびりした声がかけられた。


 あー気が抜けるったらない。


 怒るのもバカらしくなって、結局はいつもの調子で、私は家に帰った。


◇◆◇


 さて自分にゲーム禁止令を出した以上、気を入れて勉強しないと。

 委員長キャラとしては、あんまり酷い点は取れないし。

 真ん中は、死守ラインだと思うんだ。


 大体、このキャラで成績が悪かったら、ハクがつかないよね。

 後ろ指指されて笑われるよ。


 それだけはイヤだーっ!


 と、言う訳で勉強しよう。


 地道に。

 うん、地道って大切な言葉だよ。


 家だとやっぱり誘惑が多いから、朝早く学園に行こうと思う。


 って、夕御飯の時に言ったら、御幸ちゃんに心配された。


「勉強大変なら、俺が見てやるよ?」

「しぃちゃん、それがいいんじゃない?」


 母さんにまで言われた。

 星合高校の御幸ちゃんに手伝ってもらえたら、勉強もきっと捗るんだろう。

 でも、そうなると御幸ちゃんの時間を私が使っちゃうわけで…


「とりあえず、まずは自力で頑張ってみる」

「大丈夫か?」

「…大丈夫」


 答える私に御幸ちゃんは不満そうだ。

 何か言いたそうな顔をしてる。


 御幸ちゃんは意外と過保護だ。

 日々、ビミョーなことをしでかす妹を、実に温かく見守ってくれる。

 だからこそ、甘えちゃいけないと思うんだよね。

 やっぱりさ。


 まず、自分の力で頑張らないとさ。


「何かあったら、言えよ」

「うん」


 結局のところ、御幸ちゃんは私の意思を尊重してくれた。

 御幸ちゃんは、本当に優しい。


 スクールバスは、朝は早い時間と通常の時間の二通りがある。

 早い時間は、部活の朝練のためのもの。

 でも試験期間中も早い時間のバスは運行されている。

 私みたいに早くに登校して勉強する生徒のために。


 せっかくだから、これを有効活用させてもらうことにする。


 朝早い学園は、生徒もまばらだ。

 試験前の一週間は試験勉強のために、部活も休みになるからなんだろうね。


 人の少ない学園は不思議な感じ。まるで別世界に来たみたい。


 いつもある人影が見えないだけで、こんなにも印象が変わるんだね。


 新鮮だなあ。


 まっすぐ図書室に向かえば、やっぱり生徒は疎らだった。


 これくらい静かな方が集中できるよね。


 ゲームで培った集中力には自信があるよ。


 さてどこに座ろうかな?


 図書室って、そう言えば来たことなかったなあ。


 さすが白月の図書室、市営の図書館みたいに大きい。


 本棚を眺めながらとりあえず、進む。


 お、あの辺りの棚は、SFっぽいタイトルだよ。気になる。


 さすがに蔵書も凄いね、ここ。


 逆に誘惑多いなあ。あの棚には近づかないようにしないと。

 学校の図書室に危険地帯がある罠! 盲点だったよ。


 あれ、あそこに座ってるのって…


河澄(かすみ)君…」


 思わず名前を呼んでしまった。


 奥の席に座って勉強しているのは、河澄蓮(かすみれん)君。


 中等部の三年で同じクラスだった。今は隣のB組だったっけ。


 私の声が聞こえたのか、河澄君が顔を上げた。

 水色の前髪の間から覗く瞳が、怪訝そうに私を捕らえた。

 うん、河澄君も水の守護者なんだ。


「委員長…」

「…今は、委員長ではないのですが…」

「ご、ごめんなさい」


 河澄君は俯き加減でソッコー謝る。


 変わらないなあ。河澄君。

 気の弱さは中等部のままか。相変わらずの、草食系。


「別にいいですけど」


 私が答えると、河澄君はほっと息をつく。


 私が今現在でも、『裏委員長』とか呼ばれるのは、きっとこの辺りに原因があるんだろうなあ。


 中等部の私って、そんな刷り込みになるくらい、インパクトあったのか。

 そこまでか。

 ちょっと反省。


「…委員長は…今日はどうして?」


 私の返答を、そう解釈したのか…


 結局、『委員長』は訂正なしですか、そうですか。


「テスト勉強をしようと思って…」


 目的をそのまま話す。


「…ぼ、僕もです」

「そうですか…」


 うん、そうだろうね。

 見るからに勉強してるよね。

 河澄君は成績上位だ。 やっぱり成績落とせない、プレッシャーとかあるのかな?


 大変だなあ。


 なんてことを考えつつ、私はテキストを広げた。


 まず数学。

 苦手教科を一つずつ押さえて行こう。

 と、言うわけで数学。

 黙々と問題を解いているうちに、視線を感じた。


 どうも河澄君が、ちらちらと私の方を見ている。

 何だろう?


 けど、私は特に用事はないので、勉強を続ける。


 地道に問題を解いていたら、引っ掛かった。


 う…この辺解らない…


「っ…」


 例題を見ても、繋がりが解らないんだけど。


 うわあ、ここで躓くと後々引き摺りそうだなあ。クリアしてすっきりしたいなあ。


 どうしようかと、顔を上げたら、河澄君とばっちり目が合った。

 仕方ない。

 ここは恥を忍んで。


「河澄君…」

「はいっ」

「この問題、解りますか?」


 躓いた問題に丸をつけて、河澄君に見せる。

 河澄君は問題を眺め、


「ああ! はい、解ります」


 立ち上がると、私の方へと回り込んでくる。


「これはですね…」


 河澄君が始める説明を黙って拝聴する。


 おお、河澄君の説明、解りやすい。


「なるほど…」


 教えられたまま、問題に取り掛かる。

 さっき引っ掛かったところも、説明を思い出して進めていくことができた。


 助かるー。

 これで、出来なかったもやもやを引き摺らないで済んだ。


「ありがとうございます」

「い、いいえ…役に立てたなら…良かったです」


 河澄君の応対は何ともたどたどしい。


「河澄君…普通に話して頂いて構いませんが…」

「え…でも…委員長も…」


 河澄君の丁寧語について言ったら、私の言葉遣いについて返された。


 まあ、確かに私も万事丁寧語だ。


「私は…この方が楽なので」

「僕も! です」

「そうですか…河澄君が良ければ、私は構いません」

「はい、このままでお願いします」


 頭を下げられてしまった。


 別に、お願いするほどのことでもないと思うんだけど…


 いいか。

 河澄君がそれでいいのなら。


 そろそろ始業時間だから、教室に行かないと。


「今日は、ありがとうございました」


 改めてお礼を言って、私は図書室を後にした。

 このペースで、中間テスト頑張ろうっと。





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