表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
148/188

32 金色いがいが


 次の常時依頼は三つ目兎だ。

 最低三羽だそうだ。


 大きさは中型犬くらいはあるし、結構すばしっこいらしい。

 ちなみに三つ目と言っても本当に目、眼球が三つある訳ではない。

 所謂、額の辺りに赤い石のようなものが付いていて、それが第三の目扱いされているのだ。

 でもこの第三の目は別に魔石じゃないらしい。

 上位種の第三の目は宝石並に珍重されるみたいだけど。それ以外はただの赤い石。ものによっては死後変色してただの石ころレベルになるとか。


 三つ目兎の上位種って、どんなの?


 ま、いいや。

 普通のを狙おう。


 狩り方は石礫一択。小物だから、礫の方が効率良いと思うんだ。


 見つけたら、逃げ出す前に礫を放つ。

 事前動作がないので三つ目兎は逃げないと言うか逃げる暇もない。

 多少の距離もあるからなおさらだ。

 場合によっては襲い掛かってくることもあるらしいが、そんな隙は与えない。


 基本、一撃で仕留めることを目標とし、びしびし礫を放つ。


 三羽を狩るのは予想通り簡単だった。


 うーん、ゴブリンや歩く茸を相手にしていたせいかな、すんごい楽。

 いやいや、油断は禁物。小物だからこそ、気を緩めてはいけない。


 獲物は収納袋に放り込み、さっさと帰ることにする。


 帰る途中、いがいがをを発見した。

 おー栗だよ、栗。異世界にも栗があるんだ。


 大きな栗の木に近付き、落ちているいがいがを確認。

 うん、魔物の擬態じゃなくて栗。

 いがいがを足先で踏んでぎゅむぎゅむと中身を出す。

 大振りな栗に笑えてくる。これは豊作だ。


「栗ご飯がいいなあ。栗おこわとか」


 栗ご飯食べたい。けど、米がない。

 どこかにはあるのかも知れないけど、イサドアでは見たことがない。

 

「ご飯は無理かあ…じゃあスイーツかな」


 栗きんとんはどうなんだろう。

 ガトーはお菓子作れるんだろうか。

 栗のケーキでもいいんだけどさ。

 モンブラン、美味しいよね。マロングラッセよりは栗きんとんが好きだなあ。


 そんなことを考えながら、いがいがをぎゅむぎゅむして栗を拾う。

 平均的なザル一杯取れたところで変なものを見つけた。


「金色……?」


 なんかこのいがいが、金色なんだけど。


 ただ黄色ってわけじゃないよね?

 拾い上げて木漏れ日に翳せば、キラキラしている。やっぱり、金色のいがなんだ。

 金色の栗…美味しいんだろうか。


 とりあえず、拾っておこう。いがいがの中が普通の栗だとこの不思議さが伝わらないので、いがいがごと拾って収納袋に入れた。

 一応、周囲をひと調べしたけど、金色の栗はこれ一つきりだった。

 残念。


 さて、帰りますか。


 この栗、なんか美味しいものにならないかと思いを馳せながら、ギルドに戻る。


「ただいま戻りました」

「お帰りなさい」


 ベスに挨拶して、デニスの元に向かう。


「お帰り、早いね」

「三つ目兎、獲ってきました」


 三つ目兎はまあ小さいので、カウンターに置く。


「はいはい、間違いなく」


 デニスは大して兎を見もしないで、あっさり兎を受け取った。

 いいのか。そんなにテキトーで。

 今回は大変スムーズに査定を終えた。これが普通なんだよねえ。

 ベスに依頼達成確認をしてもらい、礼金を貰うとさっさとギルドを後にした。


 金色の栗はデニスに見せなかった。珍しいものであるのだろうけど、依頼絡みではなさそうだったので。しかも一つしかないし。


 なので、アゴルのところに行くことにした。

 高枝平茸はさっぱり見つからないしね。

 この金色の栗で、誤魔化しておこうと言う訳じゃないよ。歩く茸だけじゃ悪いしさ。


 アゴル邸を訪ねると、アゴルは留守だった。

 商人だもんね。

 そんなに暇じゃないよね。

 失敗、失敗。


「申し訳ありません」


 ゼルスが分度器で計りたいような見事な礼をする。


「いえ、突然訪ねたのは私ですので」

「それで、ご用件は…」

「高枝平茸がなかなか見つからないのですが、ちょっと変わったものを見つけましたので」

「ほお…では、こちらへ」


 ゼルスの一存ではあるが、応接室に通される。

 長居するつもりない私は、ソファには座らず応接室のテーブルに金色の栗を置いた。


「これは黄金栗!」

「コガネクリ…珍しいものなんですよね?」


 いつも沈着冷静なゼルスが珍しく驚きを表情に出している。

 やはり珍しいもののようだ。


「年輪を重ねた大樹に一つ実るかどうかと言われている、幻の栗です」

「大樹に一つ…確かに周囲を見て回りましたが、一つしか見つけられませんでしたね」


 あんな大きな木に、一つ実るかどうかなのか。

 うん、よかった。レア物だ。


「高枝平茸は当分見つけられそうにないので、とりあえずこれをアゴルさんに渡しておいてください」

「よろしいのですか?」

「はい、そのつもりで持って来ましたので」

「預からせて頂きます」


 ゼルスは金色の栗を恭しく高そうな布の貼ったトレイに移動した。

 すこいシュールな絵面だ。


「代金になりますが…」

「相場が判りませんので、お任せします」


 いがいが一つだもん。幾らになるかなんて、さっぱりだよ。


 後はアゴルの誠意に期待しよう。


「アゴル様に伝えます」


 ゼルスの表情が引き締まる。

 こちらが信用して、全てを任せたことは当然理解している。

 ちゃんと取り扱ってくれるだろう。


「では、これで失礼します」

「こちらから後日、報告に伺います」

「お願いします」


 金色の栗はゼルスに丸投げして、私は木苺亭に戻った。


 普通の栗は、ガトーに渡した。


 なんかお菓子を作ってくれるらしい。


 楽しみだね。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ