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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
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31 ルザ草完了


 高枝平茸はさておいて、ルザ草は予定数にまだ二株足りないので、今日はこれを集中的に攻めることにする。

 今のところ、プラスアルファは考えない。

 依頼数以上とか、ちょっと大変だよね。


 まずは依頼クリアをしないとお話にならない。


 歩く茸に遭遇するのは嫌だけど、これはもう仕方がない。

 探索方向は固定する。

 ガンガン進めば、ルザ草一株ゲット。やっぱり、こっちかあ。

 なんの違いだ?

 湿気とか?

 微妙に植生がちがうのかね。

 ちょっと良く解らないんだけど。

 薬草採取専門の人たちなら、何か知ってるかもね。もし会う機会があったら聞いてみよう。

 お弁当を食べて間もなく、二株目のルザ草をゲットする。

 ようやく気分に余裕が出来たから、高枝平茸を探してみるか。

 とりあえず、すっきり伸びた木の上方を注意して見上げる。


 うーん、なさそうだなあ。

 以前見た、もしゃっとしたものが見当たらない。

 あれ、本当にラッキィだったんだなあ。


 たらたら歩いていると、例によって怪しげな気配が…


 来るかあ、来ちゃうかあ。


 針を構えていると、歩くエリンギが姿を現した。


 やっぱり出たかあ。


 ってことは、湿度か。

 茸に湿気は必須だもんね。


「ギシャアアア!」


 歩くエリンギは奇声をあげて向かってくる。

 うん、行動も予測通り。


 あれだね。威嚇して、相手にうっかり攻撃させるってのはもう遺伝子に刻まれてるんだね。

 いきなりあんなの向かって来たら怖いもんね。条件反射で攻撃しちゃうかもね。


 で、胞子を撒いて…


 エグいっすねー。


 まあ、私も攻撃はするけどね。

 勿論、刃物は使わないよ。


 一点集中!


 デニスに教えてもらったポイントを狙って針を放つ。


 口っぽい所の下辺りね。そこが歩く茸の弱点だから。


 針がざっくり刺さると、歩くエリンギは壊れた人形みたいに後ろにひっくり返った。


 ふむ。すっきり終わったな。物足りないくらいだ。

 魔石を取り出して、本体を収納袋に詰め込んで、今日のお仕事は終了!


 では、町に帰りまーす。


◇◆◇


 ギルドに着くと、真っ直ぐデニスの所に向かう。


「ただ今戻りました」

「はい、お帰り」


 カウンターにルザ草を置く。

 デニスはさらっとルザ草を見て、一つ大きく頷いた。


「これで、ルザ草の依頼は完了だね。追加は採ってくるのかい?」


 デニスの言葉に私は首を横に振った。


「それは止めておきます」

「そうかね」


 引き留められるかと思ったら、デニスの返答はあっさりしたものだった。


 まあ、基本の依頼は完了してる訳だしね。


「じゃあ、次は何をするんだい?」

「三つ目兎ですね…」

「順番からすると、そうだねぇ」


 デニスはちょっと微妙な表情になった。


 言いたいことは解る。


 ラザ草採取とか、三つ目兎とかは駆け出し冒険者の定番依頼だ。

 この辺りをこなして、次にゴブリンに行ってと、通常は段階を踏んでいくものだ。つか、地道に腕を上げようと思ったらそれしかない。


 私の場合、その辺りすっ飛ばして、初討伐がゴブリンだもんなあ。


 順番が逆なのだ。


 しかし、いかに順番が逆であっても、私が駆け出し冒険者であることは間違いない。


「あ、その前に…」

「うん?」

「歩く茸がまた出たんですよ」

「ああ、なるほど」


 頷いたデニスに促されて、カウンターを回る。作業台に、でろりと歩く茸を引っ張りだした。


「ふむ。麻痺系だね」


 デニスはナイフを取り出し、茸の腹をさくっと切り裂いた。


「胞子嚢は問題なし。さすがだね」

「ちょっと聞きたいのですけど」

「うん? なんだい」

「歩く茸は食べられるんですか?」


 気になるよね。茸だもん。

 日本人は茸好きだし。


「食べ…られなくもないけど、筋張ってて噛みきれないよ。この辺りがまあまあ柔らかいとは思うけど」


 言いながら、デニスは茸の胸の辺りを三十センチ四方ばかりさくさく切り分けてくれた。

 厚みは五センチくらいだ。

 弾力はかなりある。


 茸と言うより座布団みたいだ。


 た、食べられるのかな?


「とりあえず、いただきます」


 茸座布団を収納袋に仕舞う。


 それから、依頼完了の届けを出し、歩く茸と込みで討伐料をもらい、木苺亭へと戻った。


 木苺亭のフロントには今日も怖いおっさんが睨みを利かせている。ガトーだ。


「おう、帰ってきたな」

「はい、ただ今戻りました」


 ぶっきらぼうな挨拶を受けて返す。

 部屋の鍵を受け取ったが、部屋には上がらない。


「なんだ?」

「突然ですが、歩く茸は料理できますか?」

「ああ? 歩行茸なんざ胞子で汚染されて、場合によっちゃ、食ったら死ぬぞ」

「胞子は大丈夫です。胞子嚢破ってませんから」


 そか。

 胞子にまみれてたら、食べられないよね。

 つか、食べないよね。

 危ないもん。


 だから余計に食用対象じゃないのか。なるほど。


「…見せてみろ」


 カウンターを回って厨房に入る。

 真ん中の調理台に茸の座布団を置いた。


「きれいなもんだな。汚染されてないってのは本当か…つっても、歩行茸だからな…」

「デニスさんは噛みきれないって行ってました」

「ああ、この手の茸は煮ても溶けねえな」


 確かに。

 エリンギは煮溶けない。榎茸も溶けない。でもあのしゃきしゃきが美味しいんだ。


 だけど、茸の強みは他にもあるわけで。


「天日で半日くらい干したら、いい出汁とか出ませんか?」

「干すのか?」

「はい。私の国では、別の茸ですが、きちんと手間かけて干したものは高級食材ですよ。良い出汁が出るんだそうです。確か、茸全般干すと良いらしいです」

「ほお…」


 ガトーは興味津々だ。

 こちらでは茸は余り干さないのかな。


 確か、冷凍してもいいって、テレビの特集で言ってた。

 干しても良し、冷凍しても良し。凄いよね、茸。しかもカロリーゼロ。

 ちなみに私は椎茸が好きだ。肉厚の椎茸を網で焼いて醤油を一滴。あー椎茸食べたい。醤油が恋しい。

 じゅるり。

 …いかん、いかん。涎が垂れそうになった。


「これ、試してもいいか?」

「いいですよ。ガトーさんならいろいろやってくれるんじゃないかなあって、思ってたんです」

「お前には、平茸の借りがあるからな」


 高枝平茸の借りって、私も美味しいもの食べられたんだから、チャラでいいのに。


 でも、干茸にチャレンジしてくれるなら、こんなに有難いことはない。


「よろしくお願いします」


 茸座布団の扱いについては、全面的にガトーに任せることにした。


 美味しくなってくれるといいなあ。


 さて、結論だが。


 歩く茸は干すと実に良い出汁が出ることが判明した。

 繊維を細かく切れば、食べることもできる。干して旨味成分倍増なので、珍味で片付けられない出来だった。


 さすがに座布団状態では上手く干せなくて、厚みを半分にスライスしたそうだけど。


 ガトーは歩く茸の新たな調理方を商業ギルドに提出したとか。


 これから歩く茸も人気が出てくるんだろうか。

 胞子嚢をいかに破裂させずに採取するかに全てがかかっているのだけど。


 チャレンジする価値はあると思う。

 歩く茸は高枝平茸よりは入手しやすいしね。


 あと、余談だけど干した歩く茸を豆腐一丁ほど分けてもらい、アゴルに渡しておいた。

 受け取ったアゴルは、微妙な顔をしていたけど、詳細はガトーに聞くように言っておいた。


 多分、私の言葉よりガトーの言葉の方が信用できるだろうから。


 一応、高枝平茸の代わりでもあるので気に入ってくれたら私も嬉しい。


 別にお茶を濁した訳じゃないよ。





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