表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
144/188

28 礫の補充


 ギルドを出て歩いていると、ギルが追い掛けて来た。


「ショウ」

「なんですか?」


 はて、何か用があっただろうか?


「このまま帰るのか?」

「いえ、帰る前に礫の補充をしようかと」


 今回派手に蒔いたからね。

 クズ鉄の礫は基本使い捨てだし。

 まめに補充しないと。

 やっぱり、あると便利なんだよね。

 今回の一件でそれがよくわかったよ。


「それ、付いて行ってもいいか?」

「別に構いませんけど…」


 ロダの店に着くと、ギルは感心したように店を見上げた。


「よくロダに礫を作らせたな」

「わりと楽しそうでしたよ?」

「へえ」


 ロダって見た目からすると、礫みたいなもの作ってくれなさそうだよね。

 でも、判りにくいけど、結構ノリノリだったと思う。

 棘着けて改良しようとしていたし。

 そうなると高くなるから止めてもらったけど。


「こんにちは」

「おう、あんたか。何やら大変だったらしいな」

「ええ、まあ…」


 ゴブリン騒動はロダも知っていた。

 もしかして、ギルドに顔を出したのかな。

 いや、この町でそれだけの騒ぎだったと言うことか。


「それで、使ったのか?」

「ああ、はい。礫だけでは足りなくて小石を使いました」

「…足りなくなった…?」


 ロダは唖然とした顔で私を凝視する。


「外したって訳じゃないよな」

「とりあえず、仕損じてはいないと思いますよ。とにかく、数が多かったんです」

「あれで足りなかったのか…」


 ロダは呆れたように何度か頭を振った。

 そうか、数までは話に出て来ないか。


「それで追加発注なんですけど」

「とりあえず、三十は作っておいたが」


 奥から革袋を掴んでくる。

 あ、追加してくれたんだ。顔に似合わず優しい。


「ありがとうございます」

「次は五十くらい作っておくか?」

「そうですね…」


 五十くらいはあっても構わないんだけど、それだと仕事の合間っていうのを越えちゃうんじゃないの?


「それ…通常業務を圧迫しません?」

「それほどでもねぇよ。切って軽く削るだけだしな。ま、そこまでだがな」

「それならいいんですけど」

「…できれは俺も幾つか欲しいんだが」


 ロダと話していたら、ギルが割り込んだ。


「ギルも礫を使うんですか?」

「使ったことはないが、あんたが使うのを見て面白いと思ったんだ」

「これ結構難しいですよ?」


 弾くのも簡単じゃないし、それを的に当てるのはもっと大変だよ。的に当てた後も、それなりのダメージが与えられないと意味ないし。


「見ていたからわかっている。だけど、やってみる価値はある」

「はあ…では、これ半分持っていきますか?」

「いいのか?」

「いいですよ。早々ゴブリン騒ぎのようなことも起きないでしょうし」


 むしろ、あんなのが頻繁にあるようじゃ、いろいろヤバいよ。


「それじゃあ、半分分けてもらう」

「はいどうぞ」

「これからギルの分もいるのか? さすがにそこまではこなせねぇぜ」

「ですよねー」


 一人分と二人分では、やっぱり違うよね。

 そもそも手の空いている時に作ってもらう予定だったし。


 こんなクズ鉄丸めただけのものだけど、数が嵩めば本業を圧迫してしまう。

 それは私の本意ではない。


「とりあえず、ロダさんができる範囲で。それをギルと分ければいいですよね」

「俺はそれで構わない。しばらくは特訓だろうからな」

「わかった。その辺りは適当にやらせてもらう」

「はい、お願いします」


 礫の追加注文をして、私たちはロダの店を後にし、店の前で別れた。


 ギルは多分これから礫の練習をするんだろう。


 木苺亭に帰ると、フロントでガトーがにやにやしていた。


「よお、大変だったな」

「なんか、皆さん知っているんですね」

「夜中に討伐隊が出ることは滅多にないからな」


 それほどの騒ぎだったってことか。

 そりゃ、みんな知ってるわ。


「あ、お帰りなさい。怪我はしてない?」


 話していると、奥からセリナも顔を出す。


「昨日、うちにゼルスさんが来た時はびっくりしたわね」

「ゼルスさんが?」

「ああ、夜になってもお前が来ないが、帰って来ているのかってな」

「まだ帰ってないって言ったら、ギルドの方に行ったみたいよ」


 なるほど。

 ゼルスがギルドに行く前に、ここで私の不在を確認したのか。

 ぬかりないね。

 さすが、出来る執事。


「そうなんですか。ゼルスさんがギルドで話をしてくれたお陰で、調査隊の出発が早まったんですよ。助かりました」


 ギルドで後押しをしてくれたデニスのお陰もあるんだけどね。


「何にせよ、無事で良かった」

「ありがとうございます」

「飯は食うんだろ。前に言ってたやつ、仕込んであるぜ」

「!」


 はっ。

 そう言えば、夕御飯は煮込みハンバーグだった。あの平茸で煮込みハンバーグ。

 やばい、想像したら涎出そう。

 じゅるり。


「楽しみです、一休みしたら頂きます」

「おう、楽しみにしてな」


 ニヒルな笑みを浮かべるが、内容は煮込みハンバーグについてなんだよね。

 シュールだ。


 ま、いいや。


 夕御飯を楽しみに、休憩してこよう。


 それから。

 食べた煮込みハンバーグは、とんでもなく美味しかった。


 はあ…、満足。


 なんて幸せに浸っていたら、バーンが飛び込んできた。


「置いてきぼりとか、ひでーよ!」


 食堂に入ってくるなり、盛大に文句を言われた。騒がしいことこの上ない。


「起こしちゃ悪いと思って…」

「起こせよ! そういう時は叩き起こせよ!」


 強く詰られた。

 そうかー、起こした方が良かったのかー。


「まあ、次回はそうします」


 そんな機会が再びあるかはわからないけど。


「絶対だぞ」


 私の返事に念を押して、ひと区切りついたところでバーンは鼻をひくつかせた。


「…ところで、なに食ってるんだ」

「煮込みハンバーグですよ」

「普通のと違うよな?」


 首を傾げながら、バーンは私の正面に座った。


 帰るつもりはないのか。っていうか、君、出禁じゃいないのかね。


「この間採った茸が入っているんです」

「あの、バリバリのやつ?」

「高級食材らしいですよ」


 お預けされた犬みたいにハンバーグを凝視するのに圧し負けた私は、ひと切れフォークに刺して差し出す。

 迷いなくハンバーグを口に入れたバーンは、零れ落ちんばかりに目を見開いた。


「なんだコレ! 滅茶苦茶美味ぇ!」

「ちゃんと調理すると、こんなに美味しく…ちょっと、あげるとは言ってません」


 ハンバーグの残りを食べようとするバーンから、フォークを奪い返す。


 誰がやるか。


「ちょっ、ガトーさんっ。俺もコレくれっ!」

「悪いな、バーン。これは泊まり客用の夕飯だ」

「マジかよっ!」


 バーンは絶望した。


 この頃には、あちこちで歓喜というか狂喜の声があがっている。


「ひ、ひでぇ」

「出禁食らった、過去の自分を恨め」


 項垂れるバーンに、ガトーは容赦がない。


 これ以上、歓喜の声と料理の匂いに耐えられかったバーンはしおしおと木苺亭を後にした。


 可哀想ではあるけど、私も自分の取り分を分けてあげる気にはなれないので仕方がない。


 とりあえず、目の前のハンバーグを堪能することにしよう。


 うまうま。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ