27 ギルドへの報告
ゴブリンたちの魔石を回収して、イサドアの町に向かう。
ゴブリン相手に少々時間を取ったので、ルザ草採取は諦めた。
とりあえず、一株採れたからいいや。
町に入り、ギルドに行くと、昼過ぎだと言うのに、えらい人だった。
この時間にこれだけの人がいるところなんて見たことないよ。
ほとんどが冒険者で武装している。
ぎすぎすして雰囲気悪いわあ。
「ショウさん!」
カウンターの向こうでベスが私の名を呼んだ。何やら涙目になっている。
「ギル、イーサンの村はどうだ?」
むさくて怖いおじさんたちがギルに詰め寄った。
スキンヘッドとか隻眼とかマッチョとかただふっといだけとか。おじさんばっかり、むさ苦しい。暑苦しい。
ああ、もしかしてこの人たち、今回のゴブリン騒動の待機組か。
村がどうなったか解らないから、焦れてぎすぎすしてるのか。納得。
「とりあえず、落ち着いた。ディーたちが森を見回っている」
「…落ち着いた?」
ざわめきが一瞬途絶えた。驚きと言うより戸惑いの気配が強い。
「そんな数だったのか」
「肩透かしかよ」
「いや、単純に五十は越えていたな」
毒づくおじさんに、ギルはしれっとした顔で返した。
「五十!」
「それでなんで、一晩で落ち着くんだよ!」
再びギルド内がざわついた。
五十は越えたかも知れないけど、実際は解らない。数えてないから。
まあ、報告はギルに任せるとして、私は奥のカウンターへ向かう。
「無事だったようだねえ」
デニスは顔をしわくちゃにして笑って迎えてくれた。こちらを気遣ってくれているのが解る。嬉しいね。
「とりあえず、怪我もありませんよ」
答えながらルザ草を取り出す。
「残念ながら、今日は一株です」
「…もしかして、ゴブリンとは出会さなかったかね?」
怪我もなく、ルザ草採取をしてきたのが意外だったのか、デニスが首を傾げている。
「いえ、ど真ん中でしたよ。夜中に森を駆け回るのは大変でした。村の方はバーンに任せられたので良かったのですけどね」
それでもやっぱり夜はちゃんと休むべきだよね。
まだ疲れが抜けてない気がするよ。これは、ゴブリンリーダーのせいもあるか。
「……今ひとつ、話が見えないんだけど…」
「え、そのままですよ。夜中にゴブリンが村に攻めて来たので、バーンと村の人が村で迎え討ちつつの、私は森でまだ分散して纏まってないのを個別攻撃しつつ、って感じですか?」
「ギルが五十はいたと言っていたけど…?」
「いたかも知れませんね。数える暇はありませんでしたけど」
「………………お疲れ様」
数秒の沈黙の後、デニスはため息混じりに労いの言葉を紡いだ。
考えるのを拒否したらしい。
「本当に疲れました」
受領札を受け取って、ベスのカウンターに移動する。
ギルはまだおじさんたちに捕まっているが、ここはスルー一択で。
ベスは泣き笑いの表情でカウンター越しに私を見上げた。
「無事で良かったです」
「心配をお掛けしました」
礼を述べて受領札を差し出す。
その次に魔石をカウンターに置いた。
ゴブリンの魔石は八つあった。単純に三倍して森に転がっていたのは二四匹? それだけにいたっけ? いたかも知れない。村を襲ったのが何匹か逃げ出したのかも知れない。正直、私もよく解らない。
まあ、あの双子が渡して来たのだから、今回の騒動に関わっていたのには違いない。
別にそれでいいや。
「ゴブリンが…八匹。ショウさんの攻撃値が高いですね」
「止めを刺したのは双子です。とりあえず三当分した取り分です」
「三当分…え、と…双子って、トールさんとソーラさんですよね。はい、確認できました。お二人と話がついているのでしたら、買い取りは問題ありません」
「はい、お願いします」
そうか。双子の魔力もチェックできるんだね。そんなこと、言ってたもんね。
「なっ! ゴブリンリーダー!」
ベスが悲鳴じみた声をあげた。
あ、あれも一緒に出しちゃったか。
「ゴブリンリーダー!?」
ギルを取り囲んでいたおじさんたちが一斉に見た。
うわ、圧力半端ない。
こっち見んな。
「ゴブリンリーダーが出たのか?」
「ゴブリンを率いていた奴か」
あ、そうか。
リーダーって付くくらいだもん。ゴブリンの群れを率いていてもおかしくないか。
「…帰りがけに遭遇したんだが、その可能性もあるか…だとしたら、もう一匹か二匹いるかも知れないな」
ギルも同じ考えに至ったようだ。
失敗したなあ。
それに気付いていたら、ディーに知らせに戻ったのに。
「よし、第二陣出発だ。ゴブリンリーダーが出たのなら、悠長に構えてられないぞ!」
「おう!」
おじさんたちは、直ぐ様ギルドから出発した。
急げば夜にかかる頃には村に着けるんじゃないかな。
着いてすぐ、ゴブリンリーダー探しは無理だろうけど。
ほとんどがパワー系だから、何かあっても問題はないでしょ。
あのおじさんたちと比べると、ディーのパーティーはほんとスピード系だね。
むさ苦しいのがいなくなると、ギルドは一気に広くなった。
心なしか酸素も増えた。
「すげぇな、ギル。ゴブリンリーダー殺ったのかよ」
残った若手は三番隊なのか賑やかしなのか、ギルの背中をばしばし叩いた。
「殺ったのは俺じゃなくて、ショウだよ」
「え?」
再び視線が私に集中した。
「確かに、魔力はショウさんのものしか確認できません」
ベスが肯定するように言葉を続ける。
「え、ゴブリンリーダーを一人で?」
「こいつ一体何者だ?」
「確か…冒険者登録した日に、バーンを沈めてた…」
「登録って、まだ駆け出しなのかよっ」
口々に何か言ってる。
そうだよ。駆け出しですけど、何か?
「周りのゴブリンをギルが引き受けてくれたお陰ですよ」
あれは助かった。
雑魚のこと考えなくて、ゴブリンリーダーに集中できたからね。
二度手間にならなくて済んだもん。
「お疲れ様でした」
ゴブリンとゴブリンリーダーの魔石を換金した分を手渡しながら、ベスが労ってくれた。
「ありがとうございます」
さて、宿に戻ろうかな。
なんてことを考えながら振り返ったら、ゼルスがいた。
「お帰りなさいませ」
「!」
ギャース!
いきなり目の前にいたよ。びっくりだよ。
気配した?
気配なかったよね?
忍者に気配を気取らせない執事って何者?
「ゼ、ルスさん…」
うわ、心臓ばくばく言ってる。
「あ…昨日は夕食に伺えなくてすみませんでした」
そだそだ。謝らなくちゃ。
「いえ、事情が事情ですので、旦那様も理解しておいでです。それよりショウ様がご無事でようごさいました」
「あ、ありがとうございます」
アゴルは怒ってないのか。良かった。社交辞令かも知れないけど、とりあえず真に受けておく。
ドタキャンした事実は変わらないけど、ちょっとほっとした。
「それで、明日はお時間はおありですか?」
「大丈夫だと思います。ええ、多分」
絶対とは言えないけどね。
そこは自信ないや。
「では、そのようにお伝えいたします」
ゼルスは相変わらず隙のない礼をして、ギルドから出て行った。
「では、私もこれで…」
宿に戻ろう。
今日の晩御飯は、高枝平茸の料理だもんねー。
楽しみー。