表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
139/188

23 襲撃


 柵の補強は順調だ。っていうか、ぐらついているところもあったらしく、見直しをしておかないと逆にヤバかった。

 武器の確認もしておいて良かった。止め口がぐらついているものが幾つかあったから。そんなの使っていざって時に折れたら、目も当てられない。

 ナイフも弛まないように木の棒にきつく取り付ける。簡易な槍の完成だ。

 日頃使いなれたものなので、加工も危なげなく終わる。

 慣れない武器は、持っても役に立たないからね。

 力加減だけでも、持ちなれた農具の方が断然楽だろう。


 集会所も避難の準備は済んだ。

 今は少々早い夕御飯の準備をしている。

 時間に余裕があるので、みんな心持ちのんびりしていた。

 村に来たときのピリピリ感は多少薄まっているようだ。

 でも、油断は禁物だよ。


 簡単な夕御飯を済ませたところで、集会所への避難が始まる。

 そちらはルリに任せて、男性陣は襲撃に備えての打ち合わせだ。


「基本は三人から四人一組で行動して下さい。単独行動は絶対禁止です。武器はバランスよく鍬、鋤、槍で。小柄な人は槍がいいかも知れませんね。まず、慣れた人でグループを作ってください」


 言うと、三四人のグループが幾つかできた。

 手にする武器も、交換して私が言ったようなバランスになる。

 これなら、ゴブリンの襲撃にも持ちこたえられるだろう。


 戦い方や役割分担をしっかり決め、軽く予行演習をして、夜まで交替で休むことにした。


 戦い方は、バーンがなにやらコツのようなものを教えている。

 ここ、絶対狙え。みたいな。


 致命傷を与えられるかどうかはわからないけど、ポイントが絞れるのはよいよね。


 さすが、中堅。思ってた以上に頼りになったね。


◇◆◇


 仮眠をとって目が覚めたのは、夜も更けた頃だった。


 日は跨ぐかどうかの時刻だ。

 結構、寝た…


 気配察知があるから、別に油断した訳じゃないよ。

 何かあったらすぐ気がつくよ。


 自分に言い訳しながら、村長の家を出て村の入り口に向かった。


「どんな感じですか」

「ああ、ショウさん…静かなものですよ」


 ラントがのんびり答える。

 村の主力は集まっているが、緊迫感はない。


「肩透かしだな」


 村のおじさんががははと笑った。だるまみたいなおじさんだ。

 自己紹介は済んでいるのだけど、さすがに村人全員の名前は覚えられない。

 村長一家がせいぜいだ。まあ、顔は覚えてるからそれでいいよね。


「折角、柵も補強したのにな」

「いいじゃないですか。柵も鍬も鋤も、修理補強するのにはいい機会ですよ」


 どれもやっておいて損はない。今夜はどうでも、後々の日常に役立つんだから。決して無駄にはならない。


「大体、こういうのは取り越し苦労でした。っていうのが一番良いじゃないですか」


 後から笑い話にできるもん。

 折角準備したのに、無駄になったねー。

 で、済ませられるのが一番だよ。


「それもそうだよな」


 おじさんは再びがははと笑った。


「俺は暴れてぇけどな」


 バーンはやる気満々だ。

 ああ、うん。

 戦力は当てにしてるよ。


「あんたは本当に面白ぇな。いきなり、ゴブリンの襲撃だとか。普通は森突っ走っただけじゃあ、ぶち当たらないぜ」

「そうですけど…なんか私からトラブルに当たって行ったみたいに言わないでください」


 遺憾である。


 別に、自分から進んでトラブルに遇いに行ってる訳じゃないんだけど。

 当たり屋みたいに言わないでくれる?


 そんな軽口を叩きながらも、静かな夜が更けていく。


 …静か、過ぎない?


「?」

「ショウさん、どうかしましたか?」


 不意に黙り込む私に、ラントが声をかける。


「準備、してください。かなりの範囲の虫の声が止みました…不自然です」


 数秒くらいなら解らなくもない。

 だけど、もう結構長いこと止んでいる。


 何かがいると言うことだ。

 気配察知の範囲を広げる。

 範囲を広げると精度が落ちるが、存在の有無は解るからこの場合は問題ない。


 気配察知に引っ掛かるものがあった。しかもかなりたくさん。


「いるな」

「ですね」


 バーンも気配には気付いていた。いや、匂いかもしれない。


「残念なことになりました。弓隊、構えてください!」


 弓に自信のある数名は、屋根に登っている。私の声を聞いて、弓を構えた。


「来ますか?」

「来ますね。皆さん、準備はいいですか? 打ち合わせ通り、慌てず騒がず単独行動はせずに、落ち着いて確実に。ですよ」

「わかってる!」


 口々に声があがる。


 先刻までののんびりした空気は完全に消えた。

 散々打ち合わせをしたから、慌てなければ大丈夫のはずだ。

 数も多目に想定したしね。

 少なく見積って多かった場合、パニックに陥るけど、逆の場合は余裕が生まれる。それを油断に持っていかないことだ。


 ただ、多目に想定した数と余り変わらない気はするんだよね。


 皆が入り口の前で構えていると、気配がどんどん近づいてくる。

 入り口の向こう側にゴブリンの姿が目視出来るようになった。


 うん。

 正に予定通りの数。ちなみに、想定した数は三十である。


 あの感じだと、三十は行くよね。でもって、まだ集まってくるなら三十は越えるか。

 早いうちに削っておかないと。


「弓、放て!」


 柵の向こうにゴブリンが集まりだしたところで、弓を射る。


 いちいち狙っている暇はない。大体の範囲に射るだけだ。

 ゴブリンが密集していれば、それだけで割りと当たる。まあ、半分までは減らせなかったけど。それは仕方ない。


 弓隊は矢を全て射たところで、屋根から降りてきて、それぞれの武器を構えた。


 入り口にゴブリンが押し掛けてくる。

 門は閉じていない。


 下手に閉じて、柵によじ登られたら面倒だからだ。少数ならいいけど、一斉に多数がよじ登ったら、柵が壊れてしまう。


 柵がなくなり、ゴブリンが散らばって攻め込む方がよほど危険だ。


 入り口が開いている状態なら、そこからしかゴブリンは攻め込んでこない。


 ゴブリンが単純で良かった。わざわざ死角を突いてくるような真似はしない。

 あとは、入り口から突っ込んでくるゴブリンを冷静に潰していくだけだ。


 とは言え、わざわざ待っている必要はない。


 私は剣と礫を準備する。明るいうちに小石も拾っておいた。

 心置きなく使おう。


「ちょっと掻き回してきます」

「お、おいっ!」


 問いかけを受ける間もなく、私はゴブリンの頭上を飛び越え、柵の向こう側の集団に飛び込んだ。


「バーンはそちらで迎撃よろしく!」

「無茶苦茶だなっ!」


 文句は受け付けないよ。

 着地を待たずに礫を放つ。

 顔は狙った。

 目が潰れてくれるのが理想だけどどうなっただろうか。


 確かめるようなことはしない。

 時間の無駄だ。今やるべきことは、一匹でも多くのゴブリンを負傷させ、行動に制限をつけることだ。

 一撃で仕留められれば一番良いけど、数が多いので一撃に力を込められない。

 時間をかけて反撃を食らう訳にはいかないのだ。


 だから、隙を突くように礫を放ち、剣を奮う。


 手応えはあった。


 ただやはり、一撃必殺とは言い難い。


 仕様がない。

 そもそも忍者は集団戦には向かない。基本は一対一、しかも背後からさくっと仕留めるのが得意なのだ。


 こんな集団の中で剣を振り回すなんて、無作法この上ない。

 仕方ないんだけど。やるしかないんだけど。


 とりあえず柵の近くのゴブリンたちには、最低でも一撃は食わせたので、森の奥へと向かう。


 あとはバーンが何とかしてくれるでしょ。


 森の奥からも、バラバラ来るんだもん、戦力は削いでおかないとね。


 リーダーとかいるんだろうか。

 指示するものがいないと、ここまでまとめて村を襲ってはこないと思うんだよね。


 まあいいや。


 探す暇はない。

 まずのは目の前のゴブリンを仕留めるのみ。


 集団じゃないから、もうちょい確実にいけるかな。


 暗闇で動けるのは、お前たちだけじゃないんだよ。


 夜目は利くんだよ、忍者だから。


 この村に、忍者が居たのが不運だったよね。


 しかも只の忍者じゃないんだよ。雪影は忍者マスター(笑)なんだよ!


 さあ、忍者の本領発揮といきましょうか。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ