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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
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22 森を抜けたらイーサンの村


 東門に行くとバーンがいた。

 気配を消してないから、ここに私が来ることはわかっていたらしい。

 なんか、ビミョーな能力だよね。ストーカーされてる気分。


 それはさておき、今日の夕方はアゴルのところに行かなければならない。


 帰る時間を合わせないと。


 そうなると、いつもみたいにルザ草を探しながら森を進むのではなく、まず森の奥までざっと進み、帰りながらじっくりルザ草を探した方がいいかな。

 目安はお昼ちょい前くらい。

 そこを折り返しとしよう。


 当然、当たり前のような顔をして後ろから着いてくる誰かは放っておく。

 いちいち気にしてるのも馬鹿らしいから。


 と、言う訳で森を進む。ぐんぐん進む。どんどん進む。脇目も振らず進む。特に気配は消していないから、誰かはやっぱり着いてくる。


 あれ?

 村に来ちゃった。

 丁度、目安の時間帯なんだけど。

 脇目も振らずにばく進すると、村に着いちゃうのか。ちょっと予定外。

 街道を行かなかったからかな。所謂、ショートカットってやつ?

 ちなみに、私は周辺の地図を持ってはいない。

 どこに何があるのかは解らないんだけど、方向とか距離感とか解るからどんな森でも迷うことなく帰って来られるんだよね。

 これも忍者の能力なねかな。もとから、まあまあ方向感覚はあった方だったけど、それがグレードアップしたのかな。


 ま、その辺はいいか。


 見る限り普通の村だけど、初めて来た村だからちょっと観光して行こう。


 木の柵に囲まれている村に入ると、壮年のおじさんが速足でやって来た。あれ顔が必死だよ。


「冒険者さんですか? リトはもう冒険者ギルドに到着したんですか!」

「え?」


 なんのこと?


「お、どうした?」


 追い付いてきたバーンが首を突っ込む。

 なぜわくわくしてるのかね。


 不思議そうな顔の私たちに、おじさんによく似た青年が口を開く。


「父さん、いくらリトだって無理だよ

「そうよ、今頃イサドアに着いたくらいよ」


 青年に続いたのは、もう少し年下の女性。私と同じくらいの年齢かな。


「ああ…そうか…そうなると冒険者さんたちは…」

「すみません、話がよく解らないのですが、私は採取依頼のために森を抜けて来たんです。この人はオマケです」

「そうだったんですか…」


 おじさんは見てわかるほどに落胆した。


「何かあったんですか?」


 さすがに聞かずにはいられなかった。

 何しろ、村の空気はピリピリしている。

 実に居心地の良くない雰囲気だ。

 よそ者を受け入れない、みたいな排他的な感じではなく、何かを警戒している、そんな感じなのだ。

 間違いなく、近畿事態だろう。


「実は…」


 おじさんはため息をつくと話を始めた。


◇◆◇


 この村は、イーサンの村と言うらしい。で、おじさんは村長のラント。話に出たリトは次男で、ラントの隣にいるのが長男のロニと妹のルリ。みんな顔立ちが似てる。遺伝子、仕事したなあ。


 村がピリピリしているのは、この数日の間にゴブリンの目撃率と遭遇率が増えてきたからだそうだ。


 たまに遭遇する二三匹のゴブリンなら、村人でも充分対処はできるが、数や遭遇の頻度が増えるとそうもいかない。

 もしや、ゴブリンが大量発生しているのではないかと言う懸念のもと、次男のリトがイサドアのギルドに調査の依頼をしに出発したのが今朝なのだ。


 ゴブリンやオークは時々、大量発生するので、それらの調査と討伐は冒険者ギルドの役目なんだそうだ。村は依頼を出すだけで、依頼料はギルド持ちになる。

 それくらい、ギルドは下位魔物の大量発生に重きをおいている。


 まあね。

 下位魔物は、増える時は爆発的に増えるらしいから油断大敵なんだよね。


 魔物じゃないけど、イナゴとかさ。数匹程度なら大したことないけど、大量発生したら土地の作物は壊滅状態に陥るもんね。

 それが他所の土地まで移動したら、被害甚大。

 ゴブリン、オークはイナゴと違って人間を襲うから、なおさら対応は迅速さが必要になる。

 対応が遅くなって、村が全滅した。なんてことは、別に珍しいことではないんだとか。


 そりゃ、焦るわ。

 ラントの必死さもよくわかる。


「今頃、ギルドに依頼を出して、調査隊が作られるのは夕方か明日の朝一番か、くらいでしょうな」

「まず、人を揃えないといけないですからね」

「まあ今の時間、すぐには集まらないだろうな」


 バーンの言う通りだ。

 今の時間帯、ギルドに詰めている冒険者は少ない。

 大抵、朝方に依頼を受けてそれぞれ出ているだろうから。


 残っている冒険者で調査隊が組めるなら、夜くらいには村に着くかも知れないけど多分無理だ。早めに帰って来るのは、簡単な依頼を完了した初心者冒険者になるから。そうなると、それなりの冒険者たちが帰ってきてから、調査隊を編成するだろうから、明日の朝一番に出発の流れになるだろう。


「そうなると、今夜を無事に乗り越えれば、なんとかなりそうですね」

「そうなりますね」


 今夜が山場か。

 なるほど。


「私で良ければ、明日まで村に留まりましょうか?」

「良いのですか?」

「私のは急ぎの依頼ではないので、大丈夫ですよ」


 なんかさ。

 このまま帰るのって、私が落ち着かないんだよね。

 ゴブリンはどうなったんだろう、村は大丈夫かなとか考えながらルザ草を探すなんて、絶対集中できない。

 自分の精神安定のために、事の顛末を見届けたい。


「大量のゴブリンと遭遇したことはありませんが、少しは役に立てると思いますよ」


 私だって冒険者。いないよりはましでしょ。


「俺も手を貸すぜ」


 バーンは不謹慎にも楽しそうな顔を私に向けた。


 バーンが何を言いたいかはわかる。


 どうせ、また変わったものを引き当てたとか思っているんだろう。


 偶々、だから。狙ってる訳じゃないから。


 しかしまあ、今回に限り、バーンがいるのは有難い。戦力はないより有った方がいいに決まっている。

 バーンは私より経験豊富だからね。きっと頑張ってくれるだろう。

 きっちり当てにさせてもらうよ。


「よろしくお願いします」


 ラントが頭を下げた。

 ロニもルリも反論はないようだ。


「とりあえず、万が一に備えた準備をしておきましょう。武器は何がありますか?」


 まず、装備の確認。これ鉄則。

 ゴブリンは素手であしらえる相手じゃないからね。


 と、三人は互いに顔を見合わせた。

 ん?

 なにやら雲行きが…


「こんな村に武器なんてないよ」


 ため息混じりにロニが言う。


「そりゃ、ないだろうな」


 当然だと、バーンが頷く。


「剣を作るより、鍬や鋤を作りますから」

「弓矢は狩りに使うから、あるけれど…」


 それもそうか。

 鉄だって貴重だもんね。剣に使うより、鍬とか作りたいよね。


「鍬や鋤でも構いませんよ。ナイフはありますか? それを槍に加工しましょう。大事なのは、近接戦に持ち込まないことです。あと、村の周りの柵も補強してますか? もしゴブリンが来なくても、柵の補強は無駄にはなりませんしね」

「ああ、そうですね。柵の補強、すぐにやりましょう」


 ラントは慌てて村の男たちに声をかけに行った。


「バーン、着いて行って補強の確認してください」

「おう、わかった」


 一つ頷いて、バーンはラントの後を追う。

 それを見送って、私はロニに向き直る。


「じゃあ、ロニ。私たちは武器の確認しておきましょう。鍬を使うにしても、いきなり壊れたら話にならないですからね」

「わかった」


 ロニが残った若手たちに声をかけに行く。


「あ、あの冒険者さん。私は何をしたら…」


 ルリが強張った顔で聞いて来る。


「そうですね…念のために子供や女性、お年寄りは避難しておいた方がいいのですが…いい場所がありますか?」

「…集会所なら…みんな入れると思うけど…」

「では、避難の準備をしておきましょう。夕方からの避難で良いと思いますが…」

「わかったわ。みんなに話をして来るわね!」

「村長さんにも話はしておいてくださいよ」

「うん!」


 ルリも村の中へと駆けて行く。みんな動き出すと早い。

 多分、わざわざ私が言わなくても、そのうちにやっているだろうけど、準備は早い方がいい。


 さて、これで最低限の準備だけはできると思うんだけど。


 関わってしまった以上、被害は出したくないしね。


 本当は、取り越し苦労で済むのが一番いいんだけどなあ。


 そうならないかなあ。





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