表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
133/188

17 ルザ草採取


 森に入ってからは少し足を早める。

 のんびりしていたから、もう昼近いんだよね。


 帰りのことを考えると、余り遠くには行けない。野宿の準備してないもん。


 ザクザク森を進むが、周辺への注意は怠らない。


 と、あることに気付いて立ち止まる。


「どうして、付いて来るんですか?」

「あ、バレたか」


 振り返ると物陰からバーンが姿を現す。


「気付きますよ。それで?」

「別に。俺の行く先をあんたが歩いているだけだろ?」


 視線をすいっと逸らしてバーンが言う。実に嘘臭い。


「そうですかー」


 ほう、あくまで言い切りますか。


 即座に私は気配を消し、駆け出した。

 忍者の隠密。巻くのにはちょうど良いよね。


 適当に進んだところで止まる。

 さあ、これでは付いては来れないでしょ?


「…あんた、やっぱりスゲーな」


 バーンが数秒後にはやって来た。

 何故だ。隠密使って見つけられるとか、どういうこと?


「は? どうやって来たんです?」

「俺、八分の一犬が入ってるからな。匂いを追って? あんた匂いはほとんどしないからちょっと面倒だけど、そうとわかってたら見つけられるぜ」

「やっぱり、付いて来てるんじゃないですか!」


 犬が入ってるって言っても、見た目の犬要素皆無だよね。言われるまで考え付きもしなかった。嗅覚に特化したのか。便利のような、そうでもないような。

 でも、こんなに早く追い付いて来るんだから、便利なうちか。


「もう、勝手にしてください」


 ため息をついて、私はもと来た道を歩き出す。


「なんで戻るんだ?」


 バーンは私の後を付いて来る。


「さっき、ルガ草っぽいものを見かけたので」


 ここまで来る間に、視界に入ったんだよ。ルガ草が。

 最初から、ルザ草は目指さない。まず、ルガ草を見つけたら、近付いて確認。

 そして次に進む。


 この繰り返ししかないと思うんだよね。


 鼻先まで近付けば、微妙な匂いの違いがわかる。この体はかなり鼻が良いらしい。鼻だけでなく耳も目も良い。

 グルメではないが、味覚も発達しているはずだ。毒薬に関しては、舐めれば判るんじゃないかと思う。やらないけど。

 その流れで、毒薬の調合も出来るような気がする。絶対にやらないけど。

 暗殺者になるつもりはないのだから、毒薬関連は当分関わらないでおこう。


 さっき見つけたルガ草の群生に近付く。うーん、残念。ここにはない。

 今日はなかなか見つからないなあ。

 そして移動。


「俺、手伝ってやろうか?」


 バーンの鼻なら、ルザ草を見つけられるとは思うけど、その申し出を受けるつもりはない。


「いりません。私が受けた依頼ですから」

「意外に固ぇな」

「ズルはしないんです」

「ふーん」


 もう、お昼だね。

 昼御飯にしよう。


 真っ直ぐすこーんと空に伸びた木の根に腰掛けて、収納袋から昼御飯を出す。バーンは少し離れたところに座った。


 パンにハムとチーズを挟んで、無理矢理サンドイッチ。

 水気が足りない。今いちだなあ。

 やっぱりサンドイッチには、胡瓜とピクルスとかレタスとか挟みたい。野菜の水気は大事だ。

 宿屋で作ってはくれないかなあ。


 モグモグ。


 食べながらもたれている木を見上げる。


 上の方にしか枝がない。杉っぽい木だ。だとしたら春には花粉が飛び散るんだろうか。花粉症は?

 っていうか、この世界に花粉症あるのかな?

 どうなんだろ。


 ずーっと上の方を眺めていると、幹に何かがくっついているのに気がついた。


 なんだろ、あれ。


 平たいものがもしゃっとついている。

 宿り木とは違う。


 見たことあるな…えーと、確か猿の腰掛けみたいな?

 あれ、平たい茸が生えてるんだよね。

 …また、茸か…


 いや、猿の腰掛けだとしたら、漢方だし結構高いはず。お婆ちゃんがお茶にして飲んでた。高いってぼやいてた。


「と、なると、あれが猿の腰掛けだったら、高く買い取ってもらえるかもね」


 なら、このままスルーはなしだね。


 残りのパンを口に放り込み立ち上がると、茸かも? までの距離を計る。

 んー、四階よりちょっと高い、かな。


「なんかあるのか?」


 バーンも何かしらを食べていたようで、口をモグモグさせながら私の視線を追う。


「何であるかは、解らないんですけど」


 近くで見ないと、何とも言えないよね。

 普通に登るには、幹がかなりぶっといし、下の方に枝がないため無理だけど、方法は他にもある。


 クナイを取り出し鋼糸を結ぶ。そして茸かも? の上にある枝目掛けてクナイを垂直に投げた。

 クナイと共に鋼糸が枝に絡みつく。

 よし。

 鋼糸を伝い、木を登る。

 凄いわー、体が軽いわー。猿みたいにするする行けるわー。鋼糸だけで登るなんて、本来の私には絶対に出来ないことだよね。

 ニンジャマスター侮り難し。


「おおー」


 足下で、バーンが感嘆の声をあげている。


 さて、たどり着いた茸かも? は、茸だった。

 舞茸にそっくり。

 テレビで見た。天然の舞茸はそれはそれで高いのだ。

 念のために暫し観察。

 毒茸は洒落にならないからね。迂闊に手は出せない。


 じーーーっ。


 取り敢えず、触ったら皮膚が爛れると言うことはなさそうだ。

 ヤバい感じもしない。自分のと言うか、『雪影』の危険回避能力は信用できると思ってる。

 それがアラーム出さないんだから、大丈夫でしょ。


 舞茸もどきに手を伸ばしむしる。

 ベキッて音がした。

 固い、これ固い。舞茸だと思ったら木でできたレプリカだったくらい固い。

 え、レプリカ?

 いや、本物だ。これレプリカだったら仕掛けた人、おかしい。


 いいや残りも採っていこう。

 デニスに見てもらえばはっきりするや。

 掌二つ分のと一つ分の大きさの舞茸もどきを収納袋に捩じ込むと、地上降りた。


「何があったんだ?」

「茸、みたいな?」


 歩み寄るバーンに茸の欠片を見せる。

 鼻をひくひくさせて、バーンは首を傾げる。


「何だろうな? でも、金の匂いがする」

「そうですか?」


 ま、高く売れたら良いよね。


 さて、ルザ草採取を再開しよう。


 何だか、茸のお陰で流れが変わったらしい。

 すぐにルガ草を見つけた。

 がさがさがさ、ここにはない。


 次。

 がさがさがさ、一株発見!


 次…一株、あった…


 やっと二株見つけたよ。だけどそろそろ帰らないと。

 西の空が赤らんで来たら、あっという間に夜になっちゃうからね。

 夜の森は危険だよ。


 収穫はゼロじゃないんだから、これ以上欲は出さない。


 よし、帰ろう!


「もう上がるのか?」

「この辺りでやめておきます」


 バーンは結局、私の周りでうろうろしているだけだった。


「バーンは何しに来たんですか。退屈でしょうに」

「いや、割りと面白かったぜ」


 一体どこに面白要素があったんだろう。


 巻こうとして巻けなくて、木に登って茸採って、ルザ草を二株ようやく見つけた。


 私個人は、十分なんだけど、見ている方は退屈なんじゃないの?


 怪訝そうに首を傾げる私に、バーンはひらと手を振る。


「あんたは動きとかが普通の奴と違うから、それだけで面白ぇよ。普通の奴は、あんなとこ登らないしな」

「でしょうね…」


 私だって、雪影の身体能力がなかったら登らない。危ないから。


 バーンにとってはそういうのが面白いんだろうなあ。


 私は今日の採取を切り上げると、とっととイサドアに帰ることにした。


 夕暮れの町を抜けてギルドに向かう。


「ただいま、戻りました」

「お帰りなさい、ショウさん。…と、バーンさん?」


 ベスが首を傾げる。


「あ、彼は全く関係ないので」

「そうですか」


 ベスはいつも明るい。返事があるとなんかほっとするよね。


「それで…どうでした?」

「ああ、すみません。なかなか見つからなくて…」

「そうですよね! 仕方ないですよ。ルザ草は難しいって…」

「二株しか採れなかったんですよ」

「え、二株?」


 ベスは私の報告を聞いて、きょとんとした。

 あれ、何か私変なこと言った?


 ま、いいや。


「デニスさん、お願いします」

「ほいほい」


 奥のカウンターに進むと、デニスが待っていた。

 目の前にルザ草を並べる。


「うん、ルザ草だね。間違いないよ」

「それと…」

「他にもまた何かあるのかね?」


 デニスが身を乗り出してきた。

 昨日の歩行茸からテンションおかしい。


「いえ、歩かない茸なんですけど」

「なんだ…」


 あからさまにがっかりされたよ!

 そんなに歩く茸が好きなのか。


「そんな顔しないで見てください。毒ではないと思うんですよ」


 取り敢えず、大きい方の舞茸もどきを取り出す。


「こ、これは!」


 デニスの目の色が変わった。

 どうやら珍しい茸のようだ。


「どうですか?」

「高枝平茸だよ」

「高く売れます?」

「高いよ! 高級珍味だよ! わしも取れたて見たのは久し振りだよ!」

「へえ」


 デニスが興奮するくらい珍しいもののようだ。念のため採っておいて良かった。


「珍味って、どうやって食べるんです?」

「わしもそれは知らんなあ。とにかく下処理が大変で、料理人の腕次第らしいしの」


 料理の下処理なんてさっぱり解らない。このかちかちの茸を食べられるくらいにするんだから、手間かかるんだろうなあ。


「これギルドで買い取っていいのかね」

「いいですよ。私がどうこう出来ませんから」


 料理の腕はからっきしだからね。

 他に売り捌けるツテないし。

 ギルドでいいよ。


 ご機嫌のデニスから札を受け取ってベスの元に移動する。


「お願いします」


 札とタグを受け取りながらベスはため息ついた。


「高枝平茸なんて…私も食べたことありません…高級レストランでも幻の逸品なんですよぉ」

「美味しいんですか?」


 珍味だもんね。

 食べる人を選ぶとか、ざらだよね。

 好きな人にはたまらないとか、第三者には判断できないもん。


「美味しいんですって。深いこくがあって…一度食べたら病みつきになるとか…」

「…………なんだかよく解りません」


 味さえも想像できなかった。


「まあ、私にとっては夢のお料理です」


 ため息をついて、ベスはタグを私に差し出した。


「ショウさん、明日も採取に行かれるんですか?」

「明日は朝いちから森に行こうと思います」


 今日はなんか出遅れた感があるんだよね。

 明日は、採取にじっくり時間をかけたい。


「そうですか。でしたらルザ草採取の依頼は継続中ですから、朝は真っ直ぐ森に向かわれた方がいいですよ」

「そうですね…そうします」


 いちいちギルドに顔を出さなくてもいいんだ。

 じゃあ、明日は宿屋からすぐに森に入ろう。


「と、言う訳でバーン。私に付いて来ないでくださいね」

「ええ、ダメかよ。高枝平茸とか俺初めて見たのに。あんた、面白ぇもんばっか見つけるじゃん」

「知りませんよ、そんなこと」


 たまたま遭遇するだけだもん。


「自分の依頼を受ければいいでしょう? 二日も遊んでないで」

「二、三日くらいどうってことねぇよ」

「そういう問題じゃないので」


 とりあえず゛バーンに念を押し、ルザ草と高枝平茸の代金を受け取って、私はギルドを後にした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ