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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
130/188

14 友達価格


「酒は飲むのか?」

「感覚が鈍るので飲みません」

「え、飲まねぇの?」


 ということにしておく。単に、飲酒に興味ないだけなんだよね。

 美味しいご飯は食べたいんだけどさ。

 単純に酒の味を知らないのかも知れない。ってことは、本体も未成年なんだろうか?


 多分、十九歳っていうのは、本当だと思う。

 でもお酒は二十歳になってから。

 こちらの世界では、もうちょい早くから飲めるみたいだけどね。


 ギルに連れて来てもらったのは、大衆食堂だった。


 中年のおじさんとおばさんが切り盛りしてる、賑やかな食堂だ。

 食べたのは、肉と野菜の煮込みととにかく固いパン。煮込みはシチューっぽいけどなんか違う。ポトフでもないし…

 味はシンプル。まあ、不味くはないよ。質より量って感じだよね。固いパンは細かく千切って、煮込みに混ぜ込んで食べた。

 バーンは質より量で良いらしく、がつがつ食べている。

 そんなにお腹減ってたの? ってくらい。


 ギルが不思議そうに私の食べ方を見ていたが、マナー違反ではなかったようで、何も言わなかった。

 言ったとしても、何か汁物に漬けて食べるよ。固いんだもん。


「話ってなんですか?」


 一頻り食べたところで本題を切り出す。


「ああ…収納袋なんだが、まだ買ってないんだろ?」

「はい、これから道具屋で手に入れようと思ってます」


 ないと不便だからね。もう、キノコとか背負いたくないよ。ただ道具屋の収納袋にキノコは入らないんだよね。でもないよりはマシ。きっとマシ。


「道具屋か…どれだけ入るのか聞いたか?」

「三つ目兎五羽くらいって話ですね」

「そうか」


 ギルはふむふむと頷いた。バーンも似たような表情だ。


「無難な大きさだよな。そんなのでも結構高ぇし」


 そうなんだよね。本当に高いよね。


「容量でかいのは、そうそう出回らねぇし」

「基本的に品不足だからな」


 収納袋は便利だもんね。冒険者とか関係なしに持っていたいよ。

 商人とか、絶対に欲しいんじゃないの?


「しかも、時間停止付きはバカ高い」

「時間停止?」

「袋の中では時間が止まるんだよ。だから、生肉とか腐らない」

「出来立ての料理が熱いままなんだぜ?」

「それいいですね」


 腐らないのもいいし、熱いままもいい。

 美味しいご飯が食べられるよね。


「時間停止付きは、普通の奴の十倍はするぜ」

「十倍なら買いだろ」

「つーて、買えねぇけどな」

「普通の収納袋が品不足だから、時間停止はもっと出回りませんよね?」「そうだな」

「そーなんだよな。空間魔法持ちがたまに持ってるくらいなんじゃねぇの」


 空間魔法持ち…自分の扱う魔法で収納できるってことかな?


 ちょー便利な魔法だね。


「滅多にいないぞ?」

「まあ、私は魔法の属性がないので、どうでも良いのですけど」

「属性ないのか?」


 バーンが意外そうな顔でまじまじと私を見た。


「ないんですよ。属性とか加護とか」

「珍しいな。魔力はあるんだろ?」

「ありますよ」

「だよな。なかったら、冒険者の申請がその日に通らねぇよな」


 そうそう。

 かろうじて魔力はあったから、試験なしで登録出来たんだよね。


「適性試験受けたとしても、あんたなら通るだろうけどな」

「ま、そりゃそうだ」


 ギルの言葉にバーンは頷いた。


 評価してくれるのは嬉しいけど、なんか擽ったいよね。


「それで…何の話でしたっけ?」


 なんだっけ?

 魔力の話じゃないよね。


「ああ、そうだった。収納袋なんだが、良かったらテッドのを買わないか?」

「テッドの?」

「ああ、テッドの荷物をある程度捌いておきたいんだ」


 デッドの荷物はアゴルの馬車に積んであったから、粗方無事だった。

 でもその持ち主もういないんだよね。

 遺品整理ということか…。

 切ない。


「でも持ち主はテッドですよね?」


 ギルが売買していいんだろうか。


「タグをギルドに返した時に、所有者登録を外したからそこは問題ない」

「そうなんですか。それで、容量は?」

「俺のより若干少ないくらいだな」

「先日の狼入ります?」

「…あの状態だと…尾を切り落とせば入ると思う」


 尻尾分小さいのか、イメージしやすい。


 確実に、道具屋の収納袋より容量は大きい。

 それなのに、値段は道具屋のものよりちょっと高いくらいだった。


「え、安くないですか?」

「ギルドで引き取ってもらってもこんなもんだ。道具屋だと仲介料が入るせいかもっとするがな。あんたで儲けようとは思わないよ あと、まとまった金が欲しいしな」


 言いながらギルは、麦酒をあおる。

 冷えていないビールは美味しいのだろうか…まあ、ビールをキンキンに冷やすの日本くらいだって言うしね。

 冷やすにしたって、魔力とか使うだろうし。


「まとまった…何に使うんですか?」

「テッドのうちに送るつもりだ。最後の仕送りになるが、一番下の妹ももうすぐ成人するから、なんとかなるだろう」


 仕送り、ギルが代わりにするんだ。幼馴染みだもんね。

 責任感強いんだね。


「そういうことなら、譲ってください。あ、もし良ければ剣も譲って欲しいんですけど」

「ああ、あんたが使ってくれるなら、テッドも喜ぶよ」

「こちらもありがたいです」


 商談成立。実に良い買い物をした。お友達価格万歳。

 収納袋と剣を手に入れた。

 一番ありがたいのは収納袋。

 もう、キノコを背負って運ばなくて済むよ。

 次に遭遇するのが何時かは解らないんだけどさ。


「ところで」


 さて、私の用件といきましょうか。


「過ごし易い宿屋、知りませんか?」

「宿屋? ああ、昨夜はアゴルさんのところに泊まったのか」

「はい」

「俺が泊まっているのは酒場の二階が宿屋になっている。そこそこ安いが…」


 ギルが言い淀む。

 うん、ちょっと予測できたよ。


「とにかく五月蝿い」


 ですよねー。

 飲んだくれが一階でくだ巻いてるのなら、静かなはずがないよね。


「却下ですね」

「だよな…そうなると…」

「どこかあります?」

「かなり静かなところがある」


 一瞬、ギルの視線が泳いだ。

 ん?


「…もしかして、曰くつきですか?」


 事故物件みたいな?

 あー、それはいくら静かでもちょっと遠慮したいかなあ。

 事故物件なら、逆に静かでもない?

 どっちだ?


 ギルは苦笑混じりで首を横に振る。


「そういう訳じゃないが…行ってみるか」


 ご飯も食べ終えたので、その宿屋を見に行くことにした。





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