14 友達価格
「酒は飲むのか?」
「感覚が鈍るので飲みません」
「え、飲まねぇの?」
ということにしておく。単に、飲酒に興味ないだけなんだよね。
美味しいご飯は食べたいんだけどさ。
単純に酒の味を知らないのかも知れない。ってことは、本体も未成年なんだろうか?
多分、十九歳っていうのは、本当だと思う。
でもお酒は二十歳になってから。
こちらの世界では、もうちょい早くから飲めるみたいだけどね。
ギルに連れて来てもらったのは、大衆食堂だった。
中年のおじさんとおばさんが切り盛りしてる、賑やかな食堂だ。
食べたのは、肉と野菜の煮込みととにかく固いパン。煮込みはシチューっぽいけどなんか違う。ポトフでもないし…
味はシンプル。まあ、不味くはないよ。質より量って感じだよね。固いパンは細かく千切って、煮込みに混ぜ込んで食べた。
バーンは質より量で良いらしく、がつがつ食べている。
そんなにお腹減ってたの? ってくらい。
ギルが不思議そうに私の食べ方を見ていたが、マナー違反ではなかったようで、何も言わなかった。
言ったとしても、何か汁物に漬けて食べるよ。固いんだもん。
「話ってなんですか?」
一頻り食べたところで本題を切り出す。
「ああ…収納袋なんだが、まだ買ってないんだろ?」
「はい、これから道具屋で手に入れようと思ってます」
ないと不便だからね。もう、キノコとか背負いたくないよ。ただ道具屋の収納袋にキノコは入らないんだよね。でもないよりはマシ。きっとマシ。
「道具屋か…どれだけ入るのか聞いたか?」
「三つ目兎五羽くらいって話ですね」
「そうか」
ギルはふむふむと頷いた。バーンも似たような表情だ。
「無難な大きさだよな。そんなのでも結構高ぇし」
そうなんだよね。本当に高いよね。
「容量でかいのは、そうそう出回らねぇし」
「基本的に品不足だからな」
収納袋は便利だもんね。冒険者とか関係なしに持っていたいよ。
商人とか、絶対に欲しいんじゃないの?
「しかも、時間停止付きはバカ高い」
「時間停止?」
「袋の中では時間が止まるんだよ。だから、生肉とか腐らない」
「出来立ての料理が熱いままなんだぜ?」
「それいいですね」
腐らないのもいいし、熱いままもいい。
美味しいご飯が食べられるよね。
「時間停止付きは、普通の奴の十倍はするぜ」
「十倍なら買いだろ」
「つーて、買えねぇけどな」
「普通の収納袋が品不足だから、時間停止はもっと出回りませんよね?」「そうだな」
「そーなんだよな。空間魔法持ちがたまに持ってるくらいなんじゃねぇの」
空間魔法持ち…自分の扱う魔法で収納できるってことかな?
ちょー便利な魔法だね。
「滅多にいないぞ?」
「まあ、私は魔法の属性がないので、どうでも良いのですけど」
「属性ないのか?」
バーンが意外そうな顔でまじまじと私を見た。
「ないんですよ。属性とか加護とか」
「珍しいな。魔力はあるんだろ?」
「ありますよ」
「だよな。なかったら、冒険者の申請がその日に通らねぇよな」
そうそう。
かろうじて魔力はあったから、試験なしで登録出来たんだよね。
「適性試験受けたとしても、あんたなら通るだろうけどな」
「ま、そりゃそうだ」
ギルの言葉にバーンは頷いた。
評価してくれるのは嬉しいけど、なんか擽ったいよね。
「それで…何の話でしたっけ?」
なんだっけ?
魔力の話じゃないよね。
「ああ、そうだった。収納袋なんだが、良かったらテッドのを買わないか?」
「テッドの?」
「ああ、テッドの荷物をある程度捌いておきたいんだ」
デッドの荷物はアゴルの馬車に積んであったから、粗方無事だった。
でもその持ち主もういないんだよね。
遺品整理ということか…。
切ない。
「でも持ち主はテッドですよね?」
ギルが売買していいんだろうか。
「タグをギルドに返した時に、所有者登録を外したからそこは問題ない」
「そうなんですか。それで、容量は?」
「俺のより若干少ないくらいだな」
「先日の狼入ります?」
「…あの状態だと…尾を切り落とせば入ると思う」
尻尾分小さいのか、イメージしやすい。
確実に、道具屋の収納袋より容量は大きい。
それなのに、値段は道具屋のものよりちょっと高いくらいだった。
「え、安くないですか?」
「ギルドで引き取ってもらってもこんなもんだ。道具屋だと仲介料が入るせいかもっとするがな。あんたで儲けようとは思わないよ あと、まとまった金が欲しいしな」
言いながらギルは、麦酒をあおる。
冷えていないビールは美味しいのだろうか…まあ、ビールをキンキンに冷やすの日本くらいだって言うしね。
冷やすにしたって、魔力とか使うだろうし。
「まとまった…何に使うんですか?」
「テッドのうちに送るつもりだ。最後の仕送りになるが、一番下の妹ももうすぐ成人するから、なんとかなるだろう」
仕送り、ギルが代わりにするんだ。幼馴染みだもんね。
責任感強いんだね。
「そういうことなら、譲ってください。あ、もし良ければ剣も譲って欲しいんですけど」
「ああ、あんたが使ってくれるなら、テッドも喜ぶよ」
「こちらもありがたいです」
商談成立。実に良い買い物をした。お友達価格万歳。
収納袋と剣を手に入れた。
一番ありがたいのは収納袋。
もう、キノコを背負って運ばなくて済むよ。
次に遭遇するのが何時かは解らないんだけどさ。
「ところで」
さて、私の用件といきましょうか。
「過ごし易い宿屋、知りませんか?」
「宿屋? ああ、昨夜はアゴルさんのところに泊まったのか」
「はい」
「俺が泊まっているのは酒場の二階が宿屋になっている。そこそこ安いが…」
ギルが言い淀む。
うん、ちょっと予測できたよ。
「とにかく五月蝿い」
ですよねー。
飲んだくれが一階でくだ巻いてるのなら、静かなはずがないよね。
「却下ですね」
「だよな…そうなると…」
「どこかあります?」
「かなり静かなところがある」
一瞬、ギルの視線が泳いだ。
ん?
「…もしかして、曰くつきですか?」
事故物件みたいな?
あー、それはいくら静かでもちょっと遠慮したいかなあ。
事故物件なら、逆に静かでもない?
どっちだ?
ギルは苦笑混じりで首を横に振る。
「そういう訳じゃないが…行ってみるか」
ご飯も食べ終えたので、その宿屋を見に行くことにした。