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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
129/188

13 茸は珍しいらしい


 歩くエリンギを背負って、イサドアに戻ると門番のふたりにぎょっとされた。


 怪しいよね、確かに。

 この、ぶらんぶらんする足が特にさ。


「お、おう。ご苦労さん」

「うわー、オレ初めて見たわあ」


 土佐犬みたいなおっちゃんでさえ、引いてるんだけど。

 兄ちゃんは興味津々。門番の仕事がなかったら、着いて来そうだ。


「はい、お疲れさまー」


 適当に答えて、門を潜る。

 大通りを歩いていても、行き交う人がいちいちビビる。


 まだ、昼過ぎたくらいだから、夕闇に紛れてとか無理だしね。でかいキノコを背負った姿が、日の光の中で目立つ目立つ。


 ひそひそ声が耳より、心に痛いよ。

 いや、軽蔑とか侮蔑ではないんだけど。

 しかし、進むしかないのだ。


 見せ物になりながら、ようやく冒険者ギルドに着いた。


 扉を大きく開け放して、中へ入る。


「お帰りなさいっ!?」


 ベスの声は、最後の方は裏返っていた。


「え、あんたそれ…」

「あれ、ギル…」


 ギルがいる。

 依頼を見に来たって感じでもない。

 暇潰し?

 情報収集ってやつ?


 ま、何していてもいいんだけどさ。


 後で、宿屋教えて貰おうかな。

 コスパ的に良さげなとこ。

 ギルドで聞いた方がいいのかな?


 ギルは呆れたような目で私を眺めた。


「そいつ…倒したのか…」

「いきなり出て来たんですよ。もう気持ち悪いったら!」

「いや、それはどうでもいいんだけどな…」

「そうですか?」


 気持ち悪いかどうかって、大事だと思うんだけどなあ。


「うわ、やっぱり着いて行けば良かった!」


 何故かバーンまでいて、残念がっている。

 いや、なんでいるの?


 興味津々のバーンの前を素通りしてデニスのところに向かう。


「それ、歩行茸だね!」


 デニスは手ぐすね引いて待ってた。

 大丈夫か、おじいちゃん。そんなに興奮してたら心臓止まっちゃうよ?


 わざわざ、カウンターの戸を開けてくれたので、素直に従う。


「奥の台に置いてくれるかね」


 急かされるように大きい方の台に歩くエリンギ、歩行茸を下ろす。


 蔦を短剣で切り、マントを開く。

 中から、でろりと歩行茸が姿を現した。

 うーん、やっぱり気持ち悪い。


「ほうほうほう! これは、無傷なのかね!」

「まさか。この辺切っちゃいましたよ」

「これくらいなら問題ないよ。っていうか、切り口はここだけ? これで、どうやって倒せるんだね? お、小さな傷があるなあ。まさか針か!」


 デニスは張り付くように歩行茸を見ている。

 検死官のようだ。刑事ドラマでこんな風に解剖してるよね。しかもヤバい系。

 うん、デニスもなんだか気持ち悪い。


 デニスは小さいが良く切れそうなナイフを取り出し、歩行茸を開いていく。


「なんと、胞子嚢がほとんど無傷とは!」

「あ、その胞子ピリピリするやつです」

「麻痺系かね。いやいや充分、充分」

「麻痺系とか、何に使えるんですか?」


 素材を引き取って貰えるのは有難いんだけど、何に使うの?


「調合で麻酔にできるんだよ」

「へえ」


 麻酔ってあると、助かるよね。ってことは睡眠系も麻痺かな。幻覚系もあるんだろうか。

 歩行茸もいろんな種類がありそうだ。


「普通は魔法で倒すからねえ」

「その方が、早いですよね」


 炎だったら一瞬で倒せるよね。

 魔法、いいなあ。


 そう言ったら、デニスは首を横に振った。


「しかし、胞子は熱に極端に弱いし、氷付けだと半分はやられるしね。素材としてはほとんど使い物にならんのだよ」


 胞子って、そんなに熱に弱いんだ。

 でも、不用意に切ったら冬虫夏草コースだから、本当に針みたいな武器がないと大変だと思うよ。


 あ、それよりも。


「デニスさん。私の受けた依頼はラザ草なんですよ」

「ラザ草?」


 そんな面倒くさそうな顔しなくても…


「見てくださいって!」


 台に無理矢理、ラザ草を並べる。

 デニスは気のなさそうに台の上のラザ草を眺める。


「うん、うん。ちゃんとラザ草だよ」


 うわー、扱いが雑。適当過ぎるよ。

 ラザ草がメインの依頼なのにい。


 デニスは木の札に、何かを書き付けて渡してくる。

 二枚ってことは、一枚は歩行茸の分か。

 再び、歩行茸の方に向かおうとするので、慌てて止める。


「まだですって! これ、これも見てください!」


 次に推定ルザ草を出す。


「これは…」


 デニスの顔色がちょっとだけ変わった。


「ルザ草で合ってますか?」

「確かに…ルザ草だね…」


 呟きながら葉を一枚ぽいと台の下に捨てた。

 あれ、匂いを確かめたやつだ、一緒に持ってきてたのか。

 って言うか、一目で判るデニスが凄い。


「ルザ草が二株…間違いないね」

「ちょっと自信がなかったので、合っていて良かったです」


 これで次からは、自信を持ってルザ草を採れるよ。


 新たに木の札を一枚もらったところで、私は鑑定カウンターから離れた。


「すげーな。針ってなんだ?」


 カウンターから身を乗り出して、査定の様子を見ていたバーンが、わくわく顔で聞いてくる。

 ほんと、なにしてんのよ。


「内緒です」

「歩行茸、ほとんど無傷なんだろ? ほんと、あんたは面白ぇな」

「そうですか?」


 そのまま、ベスのカウンターへ向かう。バーンが後ろから着いてくる。


 え、ストーカー?


 ストーカーは相手にしちゃ駄目なんだよ。


「ベス、お願いします」

「はいっ」


 相変わらず、元気が良くてよろしい。


 木の札を手渡し、歩行茸の魔石も出す。


「ラザ草採取の依頼完了と、ルザ草、歩行茸の後追いの依頼完了ですね」


 ルザ草は後追いで依頼完了ポイント取れると思ったら、歩行茸もなんだ。

 ラッキーだなあ。


「今回の依頼完了で、ショウさんのランクはF1になりましたよ。おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 やったね。

 歩行茸がポイント高かったのかな。


 面倒がらずに倒しておいて良かった。


 よし、大分余裕ができたぞ。

 ここは、頑張って収納袋を買いに行こう!


 道具屋に向かおうっと。


 あ、その前に、ギルに宿屋のことを聞かないと。

 顔を上げると、待っていたかのように、ギルがこちらにやって来た。


「話があるんだが…いいか?」

「いいですよ。私も話があるんです」

「そうか…ちょっと早いが夕飯にするか」


 時間は四時くらい。確かにちょっと早いけど、軽くすればいいかな。


「いいですねぇ」


 ご飯は美味しいところにしてよ。


「それ、俺も行っていいか?」

「は?」

「バーン、お前昨日あれだけ転がされて、来るのかよ?」

「だからだろ。あれから落ち着いて考えたら、俺をあっさり転がしたんだぜ。すげーじゃん」


 メンタル強いな。

 恥をかかされたって言うのに、それが逆に面白くなってるとか。


「それに、亜種の魔狼も殺ったんだろ? そこそこ噂になってるぜ?」

「あれか…あれは、洒落にならんな」

「ギルはその場にいたのか?」

「いた、ゴブリン三匹に苦戦していた時だ」

「三匹? 三匹くらい軽いだろ?」


 バーンが不思議そうに首を捻った。


「その前に魔狼に体当たり食らったからな。立て直しにもたついちまった」


 なるほど。

 ゴブリン三匹にやけに手間どってると思ったら、あの時ギルも万全ではなかったんだ。


「ショウの加勢がなかったら、ちょっとヤバかったな」

「へえ」


 バーンは半歩後ろ歩く私を振り返る。


「想像付かねえよな。こんなひょろいのに」

「身軽さは半端ないけどな」

「それが私の売りですから」


 身軽じゃない忍者とかいる訳ないでしょ。


 っていうか、忍者から身軽さを引いたら何が残るんだ?


 剣戟の重さが足りないのだから、アドバンテージを失うよね。


「やっぱ、組もうぜぇ」

「嫌です」

「…ソロでやっていくのか?」

「今はまだソロで、ちまちまやって行きたいですね。大体、ギルドの依頼、薬草採取しかしていないんですよ」

「ああ、そうだっけ」


 私の言葉に、ギルは思い出したと宙を仰いだ。


「出だしがおかし過ぎて、さっぱりピンとこないな」

「そうですか?」


 冒険者がどんなものなのか、わかってないのは私の方だと思うんだけどね。


「そうだよ。ラザ草採取で歩行茸背負って帰ってくるなんて、あんただけだぜ。俺、まともな姿の歩行茸、初めて見た」

「確かに。大抵、黒焦げだもんな」

「火が一番効率が良いんですよね?」

「効率はいいけど、魔石以外売れるところはほとんどないからな」

「消し炭じゃあなあ」

「氷付けで、半分。それも運が良ければ、だからな」

「割りに合わねぇよ」

「なるほど」


 歩く茸は割りに合わないのか。

 勿体ないなあ。

 胞子嚢無事だと、まあまあの値段なのに。


「針か…」

「針だってよ…」

「え、実演しませんよ。こっちを見ないでくれません?」


 物欲しそうに見られても、ここで針出したりしないよ。


 暗器はね、隠し持つことに意味があるんだからね。





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