11 夕御飯
しみじみと短剣を見下ろす。
この短剣でゴブリンとか切ったんだよね。
思い出してもやっぱり忌避感はない。
ゲームではざくざく切り合う仕様だったからかなあ。
ゲームの場合、ざくって言うより、ザシュウッ! とが、ギャガアァ! みたいな効果音ばっかりだったけど。
なにコレ、めっちゃ固っ! みたいなね。
そんな音はしなかったね。
良い刃物は、するっと『入る』んだよね。手応えも感じないくらい。
この短剣はそうでもないけど、多分『吹雪』や『時雨』はするっと行くんだろう。
短剣のこととかつらつら考えていたら、メイドさんが呼びに来た。
待ってました、夕食だよ。やっほう!
ご飯、ご飯。楽しみだ。
にっこにこで、ダイニングルームに着く。
心の中でスキップ、スキップ。
「おや、寛いだ姿もお似合いです」
「ゆったりしていて、落ち着きます」
示された椅子に着くのを、ゼルスが見ていたが、視線が疑わしげだ。
んん? 暗器仕込んでるのバレたか。千里眼でも持ってるのか。
戦う執事、流石だ。
知らん顔してようっと。
夕食は、何だかよく判らないスープとよく判らない肉とよく判らない魚。サラダはまあ野菜だよ。パンもパンだよ。
原材料が判らないけど、見た目は普通のディナーだね。
いただきます。
テーブルマナーは、とアゴルとララルの様子を伺う。
うん、マナー自体問題なさそうだ。
ナイフとフォークでちまちま静かに食べてれば大丈夫だね。
肉は豚肉に近い。ってことはあの猪かな。結構ステーキもジューシー。なんか豚カツ食べたい、っていうか、カツ丼食べたくなってきた。いい感じの卵が半熟のやつ。モグモグ。
魚はサーモンみたいなムニエル。味はサーモンだけど白身魚だった。不思議。スープはコーンと南瓜の中間みたいなポタージュ。どれも美味しい。普通に洋食、米はなかった。
この辺りに米はないのかな?
日本人なら、米と出汁だよねー。
「ショウさんは綺麗に食事をなさいますね」
「そうですか?」
アゴルにテーブルマナーを誉められた。
綺麗にと言うことは、合格点もらったってことだよね。
食べ方は間違ってなかった、よかった。
「やはり、護衛で食事の席に控えることがあるのでしょうか」
んん?
それは、護衛対象に付いてレストランとかで客の振りするとか?
そんなこともあるのかなあ?
知らんけど。
「私は年齢が足りないので、そのようなお役目はありませんでしたね」
実際のところ、普通のお役目もやってないけどね。
てきとー、てきとー。
「確かに、ショウさんのお年では酒の席などは無理でしょうね」
「? 基本飲みませんが、飲めない訳ではありませんよ?」
「でも、お年が……」
戸惑い気味にアゴルが繰り返す。
ん? なんか話が噛み合わない?
「私は十九ですよ?」
「えっ!」
アゴルだけでなく、ゼルスを含め、その場にいた全員に驚かれた。
何故だ。
「十九歳…申し訳ありません。十五、六歳くらいかと…」
アゴルは言葉を濁した。
海外で若く見られる日本人。その特性そのままか!
いや、この姿だからか。
「私の血筋は若く見られますが…」
十五、六かあ…
この十代の三、四年は大きいよ。
中学生か高校生と、大学生もしくは社会人だもん。
かなり大きいよね。
「いや、すみません」
「別に構いませんよ」
にっこり返す。
怒ることじゃないしね。
それにしても、アゴルは出来た人だねえ。
相手が子供と思いながらも、丁寧な態度を崩さなかったんだから。
大人ですなあ。
始めから子供扱いされていたら、さすがに反発していたかも知れないしね。
「ショウさんは、大人の男の方なのですね」
戸惑うアゴルとは逆に、ララルの瞳のキラキラが増した。テンション上がってるよ。
…私は一体、何を求められているんだろう。
ちょっとお兄さんかと思ったら、ララル的には大人の男の人だったってこと?
ええと、それの何がよかったのか、解らないんだけど。
心の中で、盛大に首を傾げながら、食後のお茶を啜る。
「あ、そう言えば、まだ短剣をお借りしたままでした」
そうそう、これを忘れちゃいけないよ。
借りパクよくない。
「短剣ですか? 構いませんよ、どうぞショウさんがお持ちください」
「でも…結構、良いものですよね?」
「あれの良さが解りますか。では、なおさらショウさんがお持ちになるべきでしょう」
アゴルの機嫌が殊更良くなった。
自分の持ち物を誉められると嬉しいよね。
センスを誉められているようなものだもん。
「では、お幾らですか?」
お勉強してくれると嬉しいなあ。
定価だったら、持ち合わせ足りないかも知れないもん。知人割引を希望する。
と、アゴルは目を目を見開いた。猫耳がピクピクしている。驚いている、のか?
「ショウさんから、お代は頂けませんよ」
「そう言う訳にはいきません」
「あの短剣を、あれほど見事に使ってくださっただけで、充分です」
うーむ。
どうしても、助けに入った時に戻ってしまうらしい。
それだけ恩に感じてもらっている訳だけど、私、ただの通りすがりに過ぎないんだけどなあ。
感謝され過ぎで、逆に心苦しいよ。
甘えるにも限度がある、主に私のメンタル的に。
チュニックとかマントとか、譲ってもらっただけで、十分有難いんだもん。
「遠慮はご無用です」
尚も力強く言われてしまった。
これ以上断るのは逆に失礼になりそうだ。
「…わかりました、大切に使わせて頂きます」
深く頭を下げて、私は短剣を頂いた。
有難い。
あの短剣は出来るだけ大切にしよう。
その後は、流れで護衛の報酬についての話になり、私的には充分な金額を支払われた。
アゴルは後追いでの依頼をギルドに出そうかと言ってくれたけど、F2の私は本来護衛などの依頼は受けられない。そのため、報酬だけになった。
ポイントが付けられないのは勿体ないけど、それは仕様がないよね。
お金が手に入るだけでも充分だよ。
欲張りは禁物。
何事も、ほどほどが一番。
こうして、アゴル邸での夜は更けていった。