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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
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10 アゴル邸


 アゴルの屋敷に着くと、ごつい扉のごついドアノッカーをゴンゴンと鳴らす。ノックの音は結構響いた。


 鳴り終わるのとほぼ同時に出てきたのはゼルスだ。


「お待ちしておりました」

「ええと、すみません」


 この場合、なんて言うのが正しいんだ?


 お招きありがとうございます? なんか違う気がする。

 内心でまごまごしてると、ゼルスが扉を大きく開いた。


「旦那様もお嬢様もお待ちです。どうぞお入りください」


 私は軽く頭を下げて屋敷の中へ入る。


「お邪魔します」

「こちらへ」


 先を行くゼルスに続いて、きれいに磨かれた廊下を進む。


 あれ、なんだ?


 さっきは気付かなかったけど、ゼルスの物腰…隙がないって言うか?

 ヤバい人の気配がする。


 もしかして、ファンタジーでよくある、戦う執事?

 これは戦闘力ハンパないと、私の中の勘がアラームを点滅させている。


 うわあ、怖い人だよ、この人絶対に。

 敵対しないように気を付けよう。

 多分、そんなことにはならないはずだから。


 案内されたのは応接室だった。

 ふかふかの絨毯、ふかふかのソファ、ローテーブル、サイドボードの格調も高い。なんか、一杯彫刻が施されてるよ。アンティークってやつ?

 派手さはないけど、どれもこれも高そうだ。


 ソファではアゴルとララルが寛ぎながらお茶を飲んでいた。


「旦那様、ショウ様をお連れしました」

「ああ、よくお出でくださいました。どうぞお座りください」

「はい」


 頷いて、マントを外すとさらりと流れるような動作でゼルスに受け取られた。

 おう、さらっと感すごい。なんて然り気無い。さすが戦う執事。ちょっと関係ないか。


 ソファに座ると、メイドさんがカップを私の目の前に置いた。


 一口、お茶を飲む。紅茶のようだ、香りが良い。

 クッキーも美味しいよ。

 口に入れたらほろっと崩れるこの繊細さ。


「登録の方はどうでした?」

「無事にできました。F2になりましたよ」

「まあ、登録したその日にF2ですか?」

「それはすごい!」

「いえいえ、それほどでも」


 謙遜する日本人だもん。心ではドヤ顔してても表にはださないよ。


 ギルドの不思議、FランクだけF1、F2、F3の三段階に別れている。なんでも、Fで躓いてE前で離脱する比率が一番大きいんだって。

 ギルドとしても、登録冒険者がほいほい止められてはお話にならないので、考えた据三段階にしたそうな。

 F3からF2に上がるのは割りと早く、F2からF1がちょっとかかって、次にEに上がるのにもうちょいかかる。

 トータルのポイント数は変わらないんだけど、ランクアップが見て解る形になるとモチベーションも違うらしい。

 で、そこまでしてEに上がると離脱率はいくらか改善されたため、そのまFランクのみ三段階は定着した。

 依頼する側からもメリットはある。Fは確かに駆け出しだけど、F1となれば多少は信頼性がアップするから、依頼を任せやすい。

 まあ、そんな感じ?

 だったらGとか作ればいいのに、と思わなくもかいけど、試しにとFを分けたところから始めてしまったので、今さら変更できないらしい。

 試験方法を間違えたね、始めの人。


 私的にはF2でもGでも、別にいいけどね。


 FってファーストのFみたいな意味っぽくて覚え易いし。ま、私限定なんだけど。


「いやあ…登録初日でF2なんて、さすがですねえ」


 アゴルがしみじみ言った後にララルが続く。


「ショウさん、今日は夕御飯食べて行ってくれるんですよね」

「はい、ぜひ」


 即答した。

 美味しいご飯が食べたいのさ。さっきのクッキーからも期待できそうなんだもん。


「ぜひ今夜は我が家にお泊まりください」

「あ、いえ…それは…」

「もうどこか宿屋の手配を?」

「まだですけど…」

「ならば、ぜひ!」


 えらい歓待されてるんだけど…

 一泊分浮くのはありがたい。

 ここは申し出を受けてしまおう。


「ありがとうございます。それではお言葉甘えて…」


 こうして、私はアゴル邸に泊めてもらうことになった。


 案内された部屋は、間違いなく客室だ。


 広い!


 何畳なんだー!

 十二畳くらいはあるのか。もっとか!

 私の部屋は六畳だから、その倍…以上だ!

 庶民の私にはもはや落ち着かないレベル。

 ちんまりと四畳半でもいいんだけどな。


 この屋敷で、客室が四畳半の訳がないしね。


「クロゼットに着替えも用意させていただきました」

「え、着替え?」

「お湯の準備もできておりますが」

「お湯? お風呂ってことですか?」


 お風呂ー!


 テンションMAX! お風呂入りたい。


「奥の扉が、浴室でございます。手伝いの者を用意致しますので…」


 手伝い? お風呂に入る手伝い?

 いりませんって。


「あ、あの、ひとりで大丈夫です。むしろひとりでお願いします!」

「畏まりました。では、御夕食の準備が整いましたらお知らせします」

「はい、ありがとうございます」


 ゼルスは一礼すると、部屋から出て行った。

 クロゼットに然り気無くマントを掛けて行ったのはさすがだ。


「ふわー」


 ふかふかベッドに座り込む。


 風呂に入る手伝いとか、金持ちはすごい。

 背中流してもらうだけじゃないんだろうなあ。


 しみじみ考えながら、クロゼットから着替えを取り出す。


 ゆったりしたズボンとチュニック。うーん、なんて肌触りがいいんだ。ちょっと贅沢な部屋着と言ったところか。


 着替えを手に浴室に向かう。

 猫足のバスタブにお湯が張ってある。

 手を入れると、丁度よい湯加減だ。

 バスタブの底のタイル張りは、もしかして魔石かな?

 温度調整のための魔石なのか、幾つかの魔石を模様のように配置してあるなんて、金かかってんな。


 傍らの瓶もお湯だ。

 流し湯用?

 排水溝の位置からして、外に流してもいいのかな?

 ただ、一段低い訳でもないし、溝がある訳でもないから、日本のお風呂のようにざぱざぱ流してたら駄目な気がする。


 その辺りを注意すれば、まずいことにはならないでしょ。


 忍装束を脱いで、脱衣籠らしき籠に入れていく。ついでにあちこちから出てくる暗器も…小山がてきるくらいあるんだけど…


 そうして、真っ裸になった訳だけど。

 身長丈の姿見を見て私は項垂れた。


 凹凸のない体。

 上半身にも下半身にも…

 わかってた、わかってたけどね。エセ神が別れ際に、


『君の性別、魂の形に引っ張られて、どちらでもないから気をつけてね〜』


 とか言ってたし。

 トイレとか、何度か行ったし。


 だから、ちょっと現実から目を背けてたんだけどさ。


 男でも女でもない、無性別(セクサレス)とか、意味解らないんだけど。しかもそれが魂の形に由るとか、私の魂どうなってんのさ?


 湯船に浸かって悩んだって、答えはあやふやな記憶の向こうなんだよ。


 何だソレーー!

 とか思いながら、もう仕様がないよね、とかも思う辺り、そもそもの私はこの事実を受け入れているっぽい。


 我ながら謎だ。

 一体、どんな人生を送っているんだ、私。何となく思い出される学園生活は…なんかいろいろあったような気がする。


 えっと、なんだっけ? 乙女ゲームみたいな? ヒロインちゃんと友達になったみたいな?


 後は…バッドエンドは無事に回避できたんだよね? 確か。


 うーん、他にもあった筈なんだけど。


 波乱万丈…なのか?


 うわ、ノーサンキューだよ。

 これ以上波乱に満ちてなくていいよ。小波程度で充分だよ。


 ……この世界にいる時点で、大波被っている気が…しなくもない……


 そっか…平穏じゃないんだねん、ぐぬぬ。


 しょっぱい気分で湯から上がり、部屋着を着る。

 う…落ちつかない。

 暗器がないと…落ち着かない。


 部屋着がゆったりしているのを良いことに、暗器を半分近く仕込んだよ。それ以上は無理だった。隠しポケットとかないんだもん。


 一般的な部屋着に隠しポケットがわんさかあったら、その方が問題だよね。


 残った暗器は、忍装束にくるんで、バッグの中に詰め込んだ。


 それでようやく人心地ついたので、客室に戻り窓際の椅子に腰を下ろした。


 あ、そうだ、短剣返さないと。

 夕食時に持っていくのはアレだから、食事の後にしよう。





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