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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
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8 冒険者ギルド

ありがちなギルド


 ギルドの入り口は、重くて硬そうな扉だ。

 両開きになっているけど、通常開けるのは片方だけのようだ。


 ギルに続いて扉を潜る。


「登録と初心者用の受付はそこだ」


 ギルが指差した先のカウンターにいるのはポニーテールの女の子。藍色の髪だけど人間。

 なんかテニスと似合いそうだなあ。

 この世界にテニスがあるかどうかは知らないけど。


「ベス、そいつを頼む」


 ポニーテールの子に声をかけて、ギルは奥のカウンターに向かった。


 私はベスのカウンターに歩み寄る。


「こんにちは」

「こんにちは、冒険者登録をしたいんですけど」

「はい、ではこのプレートに手を置いてください」


 石のような金属のようなプレートがカウンターの上に乗せられる。

 B5のノートくらいの大きさだ。厚みは一センチくらい。


 何かの診断かな。

 手を乗せようとした時、奥から大柄な男がのしのし歩いて来た。年齢はまあ、若い。

 身長はニメートルにはちょい足りないくらいか。まあまあのマッチョだ。

 存在だけで圧迫感がある。暑苦しい。


「おいおい、兄ちゃん。そんなにひ弱でやってけると思ってんのか?」


 低く掠れた声で男はそう言い、私に向かってずいと無遠慮に手を伸ばした。


 いきなり絡んで来るとは面倒な。


 私はその手をかわすと、背後に回り込み男の左腕を掴み捻あげる。

 右手はアゴルにまだ返していない短剣を持ち、切っ先を男の首筋に当てた。

 うん、さすが雪影の反射神経。


「何でいきなり絡んでくるんですか。鬱陶しいので、この腕千切ってもいいですか?」


 ため息混じりに呟けば、男がじたばた暴れるが、関節キメているので動くに動けない。無理に動くと肩が外れるよー。


「千切るのはマズいだろ」


 ギルが呟く。

 腕は駄目なのか。じゃあ。


 仕方がないので、男の膝裏を蹴り、膝かっくん状態から床に押さえつけ、背中から肩にかけて踏みつける。左腕はそのまま背中側で固定する。


「じゃあ、指にしましょう。指は十本ありますからね。一本くらいなくなっても困りませんよ、多分」

「ま、待て、待ってくれ!」


 男は床の上でじたばたした。

 うるさいなあ。

 喧嘩売ってきたのそっちじゃない。


「ショウ…そいつは…バーンは根は悪いやつじゃない。勘弁してやってくれ」


 疲れたように、ギルが言いながらこちらに歩いてくる。ギルの用件は済んだらしい。依頼完了の報告なのだから時間がかかる筈もないか。


「わかりました」


 私はすぐにバーンを解放した。

 あっさり解放したものだから、ギルが目を見開く。


「え、いいのか?」

「あれでしょう? ちょっと脅かされたくらいで、逃げ出すようなら冒険者には向かないってことでしょう?」


 要はごく簡単な適性検査だよね。さもなければ、軽い気持ちで冒険者になるつもりなら止めておけとか言う、篩掛け。


「わかってたのか」

「の、割にはマジだったよな」


 バーンは左肩を擦りながら立ち上がると恨めしそうな声をだした。


「前提はさておき、バーンが弱い者苛めしたいだけだったら、本気で指一本いってましたよ。ギルが助け船を出したので、それはないだろうという判断です」

「俺が入らなかったら?」

「誰も庇わないなんて、つまりそういう人なんですよね?」


 そんな人間に喧嘩を売られたのだから、こちらもそれなりの対応をしても良いよね?


 私、間違ってないよね。


「こいつ、やべえ…」


 バーンは若干青ざめて、まだ肩を擦っていた。が、危機感でも感じたのか、ギルドから逃げ出した。

 その背を見送ってギルとの会話を続ける。


「大体絡むなら、相手を確かめるべきでしょう? 私がもう少し気が短かったら、初めの時点で肩を千切ってましたよ」

「それはまあ…その通りだな。ただあんたは見た目と中身が違い過ぎる。バーンが悪いばかりでもねぇよ」

「釈然としませんが、そういうことにしておきますよ」


 ここでギルと言い争っても仕方がない。

 人は見掛けに依らないんだと、わかってもらえば今日のところはいいや。


 一旦落着いたので、ベスに向き直る。


「お騒がせしました。登録を再開してもらえますか?」

「は、はいっ!」


 ぽかんと私たちのやり取りを見ていたベスは正気に返る。すぐさま立ち直るのはさすがプロだ。


「このプレートに手を乗せるんですよね?」

「はい、お願いします」


 プレートはひんやりしていた。


「…登録に問題はありませんね」


 手を乗せて五秒くらいしか経っていないんだけど。


「今ので、何がわかるんですか?」

「魔物ではないこと、生命に関わる病気ではないこと、最低限の魔力があることです」

「魔物?」

「ごく希に、人に擬態する魔物が出現するんです。私はまだ見たことはないのですが、力の強い魔物が擬態した場合見分けるのは難しいそうです」

「はあ、なるほど」


 人に化ける魔物かあ。

 確かに面倒臭そうだね。後でバレた時に揉める案件だ。


「では、こちらに記入をお願いします。登録料は銀貨一枚になります」

「お金…」

「後で返してくれ」


 ギルが銀貨をカウンターに置いた。


「ありがとうございます」


 次に出されたのは、羊皮紙? 紙じゃないよね。初めて見る材質だ。


 なになに。

 名前と出身地と登録職種かあ。


「出身地、書かなくてもいいですか?」

「構いません」

「ではこれで」


 名前欄にショウ。登録職種に忍者を記入してベスに渡した。

 この登録用紙、記入する意味はあるんだろうか? っていうか、私が書いた文字は通用する? 日本語なんだけど。


 登録用紙を見たベスは目を丸くする。

 そして、私を心配そうに見た。


「あの…クラスを忍者としていますが、忍者は成長が遅いので、レベルアップにかなりの時間がかかりますよ? 剣士もしくは侍でレベルを上げてからのクラスチェンジの方がよろしいのでは?」


 あ、通用した。

 日本語でしか書けなかったんだけど、どこかで変換されたのかな。ニュアンスが微妙に違ってる気がするから、そういうことなんだろうな。

 日本語でOK。実に有り難い。

 でも侍とかあるんだ。和洋折衷? 不思議な世界だ。でも侍見た覚えがないからレア職なんだろうね。


「私はそれしか出来ないので、そのままで大丈夫です」


 むしろ、今から剣士とか侍をやる方が大変だよ。


「そうですか…」


 心配そうな顔をしつつも、ベスは引き下がる。

 もしかして、こんなやり取りのための用紙記入なのかな?


 分不相応な登録をしちゃう前に、わざわざアドバイスしてくれるとか、親切。


 冒険者ギルド、思っていた以上に親切。バーンのあれは回りくどすぎて、マイナス評価だけどね。


 ベスはカウンター下からタグを取り出し、先刻のプレートに乗せる。

 そして、こちら側からは見えない操作をした。

 多分、プレートが読み取った個人情報をタグに書き込んでいるんじゃないかな。

 おう、原理は解らないけどハイテク!

 いや、先刻魔力って言ったよね。と言うことは魔法だよ、魔法!

 ファンタジーだ!


 内心ワクテカで感動しているうちに、ベスが冒険者についての説明を始める。

 犯罪は禁止。殺人は戦争や盗賊討伐や正当防衛は認められる。強盗殺人は完全アウト。窃盗や詐欺なんかもアウト。

 バレたらどれだけランクがあっても資格を取り消される。ちなみに、タグに犯罪記録も残るので隠すことはほほ不可能。

 タグは個人の戦歴なども自動的に記録される。その記録から魔物討伐などの依頼が完了したか判断できる。

 タグの再発行は小銀貨一枚かかる。

 他人への貸与は禁止。 町にはギルドと提携している武器屋や道具屋などあるのでそこに行くと幾分割り引いてくれる。

 大体、こんなとこかな。


 犯罪については、同業者から魔石や装備品を盗むとすぐに解るらしい。魔石にも、装備品にも持ち主の魔力痕が残るのでそこからバレるんだって。ちなみに、魔力痕は半年持ち主の手元か離れると消えてしまうので、半年を見据えて盗難を企む窃盗団みたいなものもいるので、要注意だとか。あくどい。


 大物を手にした場合は周囲に漏らさないようにだって。宝くじ当たった時の心得みたいだね。


 でもって、冒険者のランクはF3から始まる。F3、F2、F1ときて、Eとランクアップしていく。最高ランクはAじゃなくてS。Sは英雄クラス、世界規模で数人いるとかかつていたとか。伝説かよ!


「大雑把なところは解りました。あとは追々覚えていきます。その際はよろしくお願いします」

「いつでもご相談ください」


 ベスはにっこり笑った。爽やかな笑顔だ。

 さっぱりした感じかいいね。


「頑張ってください」

「はい、頑張ります」


 受け取ったタグには鎖がついている。ペンダントになっているので、すぐに首に掛けた。


 まずは、タグを確認する。


ランク:F3

名前:ショウ

年齢:19

出身地:

職種:忍者

属性:

称号:


 え、私、十九歳!

 あれ、それは合ってるんだっけ? 実際の年齢、同じだっけ? 思い出せないなあ。記憶があやふやなんだよね。

 まあ、忍者になってるんだから、本来の私とは別物なんだけど。


 出身地は書かなかったから未表示でもいいけど、属性とか称号とかなに?


「この属性と称号と言うのは何ですか?」

「属性は魔法属性が記されます…通常は風火土水光闇の六つのどれか一つ以上がもしくは加護などありましたら表示されるのですが…」

「未表示と言うことは?」

「魔法属性も加護もないと言うことですね。非常に珍しいのですが」

「えーと、そうなると私は魔法が使えないとか?」

「…………」


 ベスは重々しく頷いた。


 ぐはあ!

 マジか! マジなのか!


 いや、『雪影』は魔法使うキャラじゃないから、使えなくても当然なんだけどさ。

 なんか地味にショックだ。

 折角のファンタジー世界なのにい。


 ……それで…称号は……もいいいや。


 多分、あれだよ。厨二的なリングネーム的なあれだよね。

 そんなのなくてもいいや。


 気を取り直して。

 これで私も冒険者。冒険者としてやって行くのだ。


 F3だけどね。でも、F3からF2に上がるのは早いらしい。早いってどれくらいの話?


 浸っていたら、ギルが隣にやって来た。


「登録終わったな。じゃあ、持っている魔石を出せ」

「魔石をお持ちなんですか?」

「ああ、はい。イサドアに来る途中で…」


 ゴブリンとか魔狼を倒しました。

 あれ?

 カウントに入るの?


「お出しください。特殊な討伐でなければ、後追いの依頼完了で承認される場合がありますから」

「そうなんですか」


 ゴブリンとか魔狼とか四つ牙猪とか、下位魔物は常時依頼の討伐対象魔物なんだって。

 そういうのは、後で纏めて申請できるんだって。


 しかも、登録時はそれまでに倒した魔物は、魔石があれは依頼完了として承認してくれるんだって。


 魔石に刻まれた魔力痕は半年で消えるから、半年前しか遡れないけど。


 私が倒したのは今日の出来事だから、充分依頼完了としてもらえるね。


 私は差し出された謎素材の皿に魔石を置いた。




始めに絡まれるのはテンプレ。

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