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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
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6 猪退治


 馬と驢馬の中間くらいな馬に引かれて馬車はのんびりゴロゴロ進む。


「ショウさんはイサドアで冒険者登録するんですか?」

「できればですけど」


 アゴルの問いかけに、私は頷いた。

 イサドアっていうの、今向かっている町の名前。アゴルたちはアステルと言う町を出て、イサドアへ帰るところなんだそうだ。

 アゴルはイサドアに拠点を持った商人だそうな。アステルにも支店があるらしい。

 意外と手広くやっている。


「とにかく、ギルドに行けばいいんだよ」


 なんでそんなことも知らないんだと、言わんばかりにギルに睨まれた。


 だって、知らないんだもん、仕様がないでしょ。

 私、他所の世界から来たばっかりなんだよ。

 元の世界に冒険者ギルドとかないから。

 ついでに、RPGは守備範囲外だから。格ゲー一択だから。


 でも、端から見たら相当な物知らずだよね。そこは反論できない。

 怪しさ倍増なレベルで。

 田舎から出て来ました。なんて言うには、私の身体能力はちと異常だ。

 加減したつもりだったけど、ゴブリン五体と魔狼はやり過ぎたか。

 でもやらなかったら、誰かが死んでたよ。

 そこはまあ、自分的に折り合いは付けられるんだけどね。


 なんか適当な理由つけて、物知らずを正当化できないかなあ。

 しばらく設定など考えてみる。

 うーん、あまり詳しくするとボロが出るから、その辺もふわっとした感じで。


 頭の中で設定を捏ねくり回して、丁度よさそうなところを見つけた。


 よし、これで行こう。


「あのですね…詳しいことは、ちょっといろいろ障りがありまして……ザクッと言いますとね…」


 私が話し始めると、ギルたちの意識がこちらに向くのがわかった。視線がザクザク背中に刺さってくる。


「私はつい先日まで、さるお方に仕えてまして…主に影ながらの警護なんですけど」

「ああ、なるほど」

「それでか…」


 影ながらの警護で、何となく察したのかアゴルとギルが頷いている。


「そのお方が、引退されまして、あまつさえ隠居までされまして…それで大幅な人員削減もありまして…まあ、次の就職先なんかも斡旋はしてもらえたんですけど。どうせなら、何か他のことやってみたいなあ、なんて」


 うーん、なんてざっくり。

 仕方ない、全て口から出任せだしね。

 さるお方とか言っておけば、追求はしてこないでしょ。

 なんて、目論見もあったりして。


「それで、冒険者か? 随分ぶっ飛んだな」

「いやあ、皆さんが感じられている通り、私いろいろ物を知らないじゃないですか。必要なかったんですよね。任務遂行以外、何も気にしなくて良いし考えなくて良い。そういうものでしたから」


 あ、そろそろ設定が苦しい。お願い、これ以上説明させないで。

 任務に忠実なあまり、一般常識が疎かになったんだって言いたいんだけなんだよ。

 わかってくれたかなあ、このニュアンス。


「そのようなお仕事でしたら…あり得ますね……」


 ほっ、アゴルは納得してくれたようだ。助かった。


「多分、人員削減とかなかったらそのままだったんでしょうけど、別の職場に移るなんて話が出たら、なんて言うんですか? もっと別のことしてもいいんじゃないかなって思えて来て……ただ私は出来ることが少ないので、普通に再就職したら結局同じような職種になりそうでしたので、いっそ冒険者なら少しはやっていけるんじゃないかなって」

「確かに冒険者の受ける依頼はかなり幅があるからなあ…」


 なんだろう、ギルの視線から疑わしさが消えて、同情めいたものが含まれているような気がする。


 え、私、可哀想なの?


「冒険者として、一から学べば少しは常識も身に付いて行くのでは、と」


 どうよ。

 これで、私の物知らずも仕方ないって方向で落ち着いたんじゃない?


「ショウさんの能力でしたら、すぐにトップクラスまで駆け上がれますよ」

「いえ、別にそこまでは求めていませんから…」


 何だか熱いララルの言葉に、若干引いてしまう。何故、そんなに目をキラキラさせているのか。

 期待されても、トップとか目指しませんよ。

 まずこの世界の一般常識を覚えてからだよ。その後のいろんなことは。


「ええぇ、ショウさんなら絶対なのに」


 はい、そこ、がっかりしない。


「仕方ない…イサドアに着いたら、俺に出来ることがあれば手を貸すぜ」

「ぜひお願いします」


 ギルの申し出を有り難く受ける。

 よーし、これであらかた心配事は片付いた。


 良かった、良かった。


 馬車をゴロゴロ進めていたが、前方の様子に馬車を止める。


「どうした?」


 荷台から顔を出すギルに手綱を押し付ける。


「前方に何やら良くない感じのものがいるので、片付けて来ます」

「お、おいっ!」


 私は馬車から飛び降りると、街道を駆ける。


 前方に立ちはだかっているのは猪だ。

 上顎から二本、下顎から二本牙が生えている。

 あれで噛み付かれたら痛いだろうなあ。

 肉、抉り取られるよ。気をつけないと。


 猪は私の方に向かって駆け出した。


 おう、猪突猛進。本当にまっしぐらに突進してくるんだ。


 やっぱり狙うところは首なんだけど、猪の皮は丈夫そうだね。

 馬車に乗っても持ったままの短剣と長剣でどこまでできるか。


 あんまり考えてもいられない。

 自分の運動神経を信じることにしよう。


 突進してくる猪をギリギリまで引き付け、あわや激突と言う瞬間に飛び上がる。

 飛び上がり様に、首目掛けて長剣を突き立て、その柄を踏み台にするように蹴りつけその勢いのまま飛び上がりくるりと一回転して着地した。


 おー、アクロバティック!

 シルクドなんとかに、入れるかも知れない。


 さすが格闘ゲームのキャラだよ。

 あり得ない動きするなあ。

 まるで他人事のように思ってしまう。


 まあ、半分は他人事なんだけど。

 本来の私が、こんなことできる訳がないもん。


 おっと、猪、猪。


 猪はどうなった?


 振り返ると、猪は倒れていた。

 首に長剣がぐっさりと刺さっている。

 角度的にもいい感じの刺さり具合だ。


 蹴ったのが良かった。よしよし。


「もういいですよ」


 長剣を引き抜き血を払ってから声をかけると、馬車がゆっくりと近付いてきた。


「すごい、すごい、すごーい! ショウさんすごい!」


 荷台から身を乗り出してララルがすごいを連発している。


「ありがとうっ!」


 きらーん。

 って感じで爽やかにお礼を言っておいた。


「きゃっ」


 ララルは頬に両手を当て顔を真っ赤にしている。

 初々しい。

 はにかむ猫耳少女、可愛いすぎる。


「…これで、冒険者じゃないとか…」


 一体何度目なのか、ギルが呻く。


 いや、だから、町についたら登録するって言ってるでしょ。


「ところで、魔石? を回収するんですよね?」

「ああ、魔石の位置、教えてやるよ」


 ギルが馬車から降りて来ると、短剣を取り出し、猪をひっくり返して胸の辺りに突き刺した。


「魔石は大体心臓の辺りにあるんだよ。ほら」

「なるほど」


 さくさく切り開いて、魔石を取り出す。

 心臓の近くね。

 覚えておこう。

 次からは自分でやらないといけないしね。


 に、しても。


「その短剣、良く切れますね」

「水属性が付いてるからな。解体する時にかなり助かるぜ。血が刃にこびりつかないんだ」

「だから、スルスル入って行くんですね」


 この短剣も欲しいなあ。

 収納袋と水属性の短剣は、冒険者の必須アイテムだね。


 メモメモ。


 取り出してもらった魔石を巾着に仕舞っていると。


「この四つ牙猪ですが…私に譲って頂けませんか?」


 アゴルも馬車から降りて来て、猪を覗き込む。


「倒したのはショウだから、ショウの好きにすればいい」

「通常だとどうするものなんですか?」

「ギルドで引き取って貰うな。顔馴染みの店に持ち込む場合もあるが、店でダブついていると、引き取って貰えない場合もあるし…ギルドだったら盗品でもない限り、引き取り拒否はまずないぜ」

「ここでアゴルさんに譲るのは問題ないんですね。では、アゴルさんに…」

「ありがとうございます。いやあ、これだけ立派な四つ牙猪は滅多にお目にかかれませんよ。皮も肉も損傷は少なそうですし。正直、これほど綺麗に仕留められたものは久しぶりです」


 立派ってことは、通常の猪よりは大きいんだな。ただ、亜種と言うほどではない、と。


「では、アゴルさんよろしくお願いします」


 買ってくれるって言うなら売っちゃえ、売っちゃえ。


 今の私はお金がいるのだ。

 当座の生活費がいるのだ。

 切実なのだ。


 アゴルさんは猪を割りと良い値で引き取ってくれた。

 良い値と言うのは、ギルの話だ。

 特に疑ってはいない。


 現金が手に入ればいいのだ。


 ああ、ちょっとだけ懐が温かい。


 ほくほく。


 ちなみに猪は、血抜きした後、ギルと二人がかりで荷台の後ろに括り付けた。

 結構、重かった。


 猪括り付けたまま、馬車を走らせて大丈夫かと思ったけど、血の臭いを誤魔化す香料みたいなものがあるらしい。

 割りと臭いが、この臭いが、獣や魔物たちの鼻を騙すらしい。


 ただ、血に反応するものなので、通常時では獣避けにならないとか。


 使い勝手はあまり良くないね。





とりあえずでっち上げておくスタイル。

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