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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
121/188

5 町に向かう

設定はふわっと。


 アゴルたちのところに戻ると、心配そうに待っていたララルがギルに駆け寄る。


「ギルさん、テッドさんは?」


 ギルはゆっくりと首を横に振った。


「…そう…ですか……」


 それだけで事情を察したララルは何も続けることが出来ずに涙をこぼした。

 優しい子なんだね。


「アゴルさん、申し訳ない」


 ギルはアゴルに頭を下げる。いきなり馬車から離れたことを言ってるんだろう。


「仕方ありません。亜種が出るなんて、誰も思っていませんでしたから…あ、ゴブリンの魔石は抜いておきましたよ」


 ギルの謝罪に首を横に振ったアゴルは私に視線を移すと、革の巾着を差し出した。


「あ、ありがとうございます」


 わざわざ取っておいてくれたんだ。ありがたい。

 礼を述べて、巾着を受けとる。

 中には魔石が二つ。先刻ギルから手渡された四つも巾着の中に入れた。


 これが今の私の全財産かあ。

 仕舞っておこう。


 いそいそと懐に巾着を仕舞う。この巾着ごともらっていいんだよね?


「え、ゴブリン?」


 怪訝そうな顔のギルは、地に転がる二体のゴブリンを見つけるとぎょっとして私を見た。

 自分が馬車から離れた隙にゴブリンに襲われたことを知らなかったんだから、この反応は当然だ。


「まさか、あれもあんたが?」

「はい。行き掛かり上?」

「いやあ、凄かったんですよ。あっという間にゴブリンたちを倒したんです。瞬きする暇もありませんでした」


 まあね、確かに瞬殺しちゃったけどね。

 なんか、思ったより簡単だった。

 数が少ないのもあるのかな。

 でも、格闘ゲームの対戦相手より、遥かに弱いんだもん。

 一撃必殺の攻撃仕掛けて来ないだけでも、対応は楽だよね。

 間合いとか、気にしなくていいんだから。


 アゴルの話を聞いて、驚いていたギルの視線は次第に疑惑の色を孕らんでいく。


「これだけのことが出来て、冒険者じゃない? あんた、何者だ?」


 なんか疑われてる。

 そんなに怪しいかなあ?

 服装は怪しさ大爆発だけどさ。

 今はチュニックとか外套で誤魔化せてるよね。多分。


 そもそも冒険者ってどういう職種?

 今回は護衛だよね。あとは、魔物を狩ったり?

 職種としては何になるの?

 傭兵みたいな?

 ちょっとよくわからないなあ。


「…通りすがりと言うか、まあ、旅人です。あ、まだ名乗っていませんでした。私はショウといいます」


 今までの会話の内容から、私はみんなの名前を知ってるけど、私自身は名乗ってなかったからね。

 名乗ったところでギルの疑惑は払拭されなかった。


 無名の怪しい人から、名乗った怪しい人になっただけみたい。


 仕様がないけど。

 詳しいことは話せない訳だし。

 異世界から来ました! とは言えないよね。


 他の世界から来たっていうのは、よくあることなのか珍しいことかも解らないから、黙っておいた方がいいと思うんだよね。


 よくあることなら、話は聞いてみたいけど。  滅多にないことなら、用心しておいた方がいいからね。


 向こうが私に不審を抱いているように、私も彼らを信用しきれない。


 でも、今はさ。


「……取り敢えず、ここから離れた方がいいんじゃないですか?」

「はっ、そうです。またいつ魔物が襲ってくるかわかりません!」


 私の言葉に、アゴルは慌てて出立の準備を始める。


 別に話を逸らした訳じゃないよ。


 本当に危ないと思ったんだよ。

 あの亜種とか言う、突然変異? がまた出たら面倒じゃない?


 それは当然、アゴルたちも考えているようで、一旦逃がした馬を連れ戻したりと忙しない。


 さて、私はどうしよう。


 バタバタするアゴルたちを眺めながら考える。


 特に予定もあてもないしなあ。

 ただ、森からは脱出したいんだよね。


 町まで乗せて貰えないかなあ。

 ちょっと交渉してみよう。


「ところでなんですけど。御者とか護衛の穴埋めとかご入り用ではありませんか?」


 多分御者の真似事が出来ると思うんだ。

 忍者だもん。

 所謂、スパイだもん。いろんなところに潜り込むためのスキルはあると思うんだ。

 可もなく不可もなく、程度だとは思うけど。


「それは願ってもないことですが…」

「戦力は…確かに必要だ……」


 ギルは呻いていたが、反対はしなかった。

 決めるのは、雇い主のアゴルだからだ。


 戦力の補強、今はこれが最重要事項だ。

 護衛はひとり減ってしまったし、残ったギルも万全とは言いがたい。

 アゴルも多少は戦えそうだけど、先刻のゴブリン先を鑑みるに甚だ不安。ララルは間違いなく戦力外。

 並の魔物ならふたりでなんとかなっても、亜種では分が悪い。

 また出ない、という保証はない。


 なら、それなりに使えるのを補充したいよね。

 でもって、その『それなり』が今目の前にいる訳で。


「町に行けるのでしたら、私としても有難いです」

「それでは、お願いします」


 アゴルもギルも実の方を優先することにした。こういったところは冷静だね。


 交渉成立。

 割りとあっさり話が決まって、私としてもありがたい。


「了解しました」


 準備が整ったので、私は御者台についた。


 さあ、出発しよう。





ドナドナ。

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