4 冒険者
リクエストありがとうございます。引き続き募集しております。
リクエストの返信につきましては、作者の主観がダダ漏れになりそうなので、とりあえず控えさせて頂きます。
「ギルさんとテッドさんを助けてください!」
ララルは私にすがり付く。
「ギルサン? テッドサン?」
首を傾げる私に、猫おじさんが悲壮な顔で言葉を続けた。
「ギルとテッドは、護衛に雇った冒険者です」
ほう、冒険者。
ここは、猫獣人だけじゃなく、冒険者もいる世界なのか。
つまり、シューティングと言うより、RPGな世界?
RPGかあ。守備範囲外だわあ。むしろ、苦手の部類だわ。
私は基本、格ゲー一択、たまに落ゲーだもん。短時間に勝負がつくのがいいんだよ。
ん? 落ゲーの世界ってなんだろう? 常に何かが落ちてくるんだろうか。
いかん、話を戻そう。
「その護衛はどこに?」
護衛が対象から離れたら駄目だよね。
護衛失格だよね。
と、猫おじさんは首を横に振る。
「…魔狼が突然襲ってきたんです。御者台にいたテッドが真っ先襲われたらしく、森へ引き摺って行かれました。ギルはその後を追ったんです。恐らく、魔狼がこちらに戻って来ないようにするために…」
冒険者を一気に引き摺って行く狼か。
ちょっとヤバい相手みたいだね。
「そうしたらです!」
猫おじさんのトーンが変わる。
うを、なに!
何故にいきなりヒートアップ?
「後からゴブリンが襲ってきたんです! 五セムもあるゴブリンが! 通常四セムほどの背丈しかないゴブリンなのに、五セムですよ! しかも奴らは魔狼と連携していました。あり得ないことです!」
えーと、五セムって長さの単位?
でもって、緑怪人がゴブリン? ってことは、RPGもしくはシミュレーション決定。
百五十センチくらいで五セムってことは、一セムは三十センチくらいか。一尺みたいなものでいいか。
で、通常百二十センチしかないはずなのに、今回襲ってきたのは、百五十センチ。
そりゃ、大変だ。
「突然変異ですか?」
「わかりません。亜種なのかもしれません…そもそも他の魔物と連携を取ることなど、尋常ではありませんから」
「そうなると、魔狼と言うのも、亜種の可能性があるわけですね」
互いの利害関係が一致しないと成立しないし。
魔狼が護衛を潰す、もしくは引き付けているうちに、ゴブリンが本陣を襲う。
合理的ではあるね。
「……わかりました。要望に沿えるかは確約できませんが、よろしいですか?」
「行ってくださるのですか?」
「行くだけは」
「お願いします!」
ララルは震えながら私に向かって頭を下げる。 その小さな頭を撫でて、私は森に向かった。
気配の方向も距離も大体わかっている。
魔狼の戦闘力が解らないから用心しないとね。
さすがに短剣だけじゃヤバいかな?
猫おじさんの短剣、持ったままなんだけど。
森を進むと、剣が落ちていたので拾った。
鉄の剣。まあまあ使い込まれ、手入れもされている。
汚れや錆はない。
つい最近まで、誰かが持っていたと言うことだ。
ああ、これはいよいよヤバい。
冒険者が自分の武器を落とすなんて。
気配が強まる。
追い付いた。
前方に灰色の狼。あれが魔狼か。
うーん、子牛くらいの大きさなのは、デフォなのか特殊なのか。足元には倒れた人間。
前方右にゴブリン三体とその向こうに人間。
猫おじさんの話からすると、魔狼側がテッドでゴブリン側がギルか。
「っ! くそっ!」
ギルはゲギャゲギャ言いながら、錆びた剣やら槍やらで攻撃してくるゴブリンに応戦しながら悪態をついている。
もうちょっとは持ちそうだ。
私は標的を魔狼に据える。
やっぱり、強いほうを先に潰しておくかな。
パワーとスピードを持った相手を後回しにはできないよね。
短剣をベルトに差し、手近な石を拾う。ソフトボールくらいの石。
それを思い切り魔狼に向けて投げつけた。
石は魔狼の頭に見事ヒットする。
ダメージはなさそうだ。
魔狼は石が投げられた方へと首を向ける。
もちろん、私はもうそこにはいない。
魔狼の死角を突くように一気に距離を詰める。
魔狼の頭のすぐ下に身を滑り込ませ、首に短剣を叩き込む。
魔狼が仰け反る。
が、その魔狼の背を踏み台に飛び上がった私は、落下の勢いを込めて今度は上から長剣で以て魔狼を切りつけた。
首から血を噴き出させ、魔狼は倒れた。
魔狼の下敷きになったテッドは身動ぎもしなかった。
手遅れなのは見なくてもわかった。
辛うじてヒトの姿を留めているだけなんだから。
私は黙祷を一瞬だけで済ませると、短剣と長剣を引き抜きゴブリンへと反転する。
ゴブリン三体はこちらに向かってきていた。
さすがに魔狼が倒れたのに気付かないってことはないか。
剣を持ったのが二体、槍を持ったのが一体。
魔狼と連携を取ったとは言え、細かい役割分担まではできないのだろう。
三体はゲギャゲギャ言いながら私に切りかかってくる。
まず槍ゴブリンに短剣を投げつけた。顔面に短剣が突き刺さると、槍ゴブリンは仰向けひっくり返った。
避けないんだ。っていうか、当たると思わなかったんだ…
そうか、やっぱりゴブリンって、その程度なのか。
うん、先に魔狼を潰しておいて正解。
残りは剣ゴブリン二体。
一体はざっと距離を詰めた瞬間に袈裟斬り。
残りの一体が慌てて剣を降り下ろすが、それを手甲で受け払い、体が大きく開いたところに一撃。
呆気なく、ゴブリンたちは地に沈んだ。
「やれやれ…この程度で良かった」
小さく息をついて、ギルの元に向かう。
ギルは木に凭れるように座り込んでいた。
傷だらけ、血だらけだけど、致命傷はなさそうだ。
「生きてますね?」
「っ…あんた、はっ?」
焦げ茶色の髪のギルは、気安い感じのお兄さんだ。年は二十五、六。チラ見したテッドも同じくらい。テッドはスポーツ刈りくらいの髪だったけど、ギルはそれよりは長い。
今はぐちゃぐちゃになってるけど。
「ララルさんにお願いされて来ました」
「お嬢、さんに…アゴルさんは大丈夫なのか…?」
アゴル?
ああ、猫おじさんの名前か。
「アゴルさんもララルさんも無事ですよ」
「そうか…」
ほっと息を付くと、ギルはベルトのポーチから小瓶を取り出し中の液体を一気にあおる。
回復薬的なものなのかな?
血が止まったみたいだから、そうなんだろう。
一本では足りないらしく、もう一本を飲み干したところで大きな息をついた。
「…テッドは……」
「…間に合いませんでした」
ギルは立ち上がると、幾分ふらふらしながらテッドの元へ向かう。
魔狼の下のテッドを覗き込み、その場に膝をついた。
「畜生っ!」
ギルは拳で地面を殴った。
かける言葉はなかった。
もう少し早ければ、とも言えない。
それくらいでは、到底間に合わなかっただろう。
数分の間項垂れていたが、顔を上げた。
そしてテッドに向かってもう一度身を乗り出した。
何をするのか見ていると、まず首にかかっているタグを手に取った。
身分証みたいなものだろうか。
次にポーチのような小物。
遺品ってことか。
その二つを自分のポーチに捩じ込むと私の方を振り返る。
「あんた…魔石は回収したのか?」
「魔石?」
魔石ってなに?
短剣は回収したよ?
首を傾げると、ギルは唖然とする。
「魔石を知らないのか? 冒険者じゃないのか?」
「はい、冒険者じゃないですよ。なりたいとは思っていますが」
「マジか…ってことは収納袋も持ってないのか…」
「収納袋?」
収納袋なんてないよ。それどころか、闇器以外手荷物一つ持ってないんだよお?
笑うー。うえうえ。
ギルはため息を一つついた。
「この魔狼の亜種は捨てるのは惜しい…あんた、今すぐアゴルさんのところに戻って、俺の収納袋を持って来てくれ!」
「……わかりました?」
なんだろう? 何がそんなに重要なんだろう?
よく解らないから、取り敢えず言うことは聞いておこう。
私は頷いて、アゴルさんたちの元へ戻った。
「おお、どうでしたか?」
馬車に脇で寄り添うように立っていた、アゴルとララルはひとりで戻ってきた私を見て、表情を険しくする。
「もしかして…」
「ギルはまあまあ元気です。それで、収納袋? を取ってこいと言われたんですけど」
「ギルさんの収納袋はこれです」
ララルが荷台からドラムバッグみたいな袋を引っ張り出した。
受けとるとかなり軽い。中身入ってるの?
中を見るつもりはないけど。
「ありがとうございます。では、もう一度行ってきます」
収納袋の紐を肩に掛けて、私は再びギルの元へと駆けた。
ギルは何でか、魔狼を捌いていた。
近く穴掘って、魔狼の内蔵を捨てている。
「戻りました」
「ああ、貸してくれ」
収納袋を差し出せば、袋の口を開けて捌いた魔狼の体を突っ込んだ。
ええええ?
明らかに許容量オーバーしてるよ!
なんで、ドラムバッグに子牛サイズが入るの!
「ギリギリ入ったな」
あ、ギリギリなんだ。
ってことは内蔵を捨てなかったら入らなかった?
「すごいですね、その袋」
「ダンジョンで運良く手に入ったんだよ。収納袋は冒険者の必需品だ。買うと高いけどな」
「なるほど」
私も冒険者になるのなら、手に入れたいなあ。
あの見た目で、子牛一頭分入るなら、すごい便利だよね。
「あと、これ」
空豆くらいの濁った、石を四つ手渡された。一つはピンポン玉くらいの大きさだ。
「?」
「魔狼とゴブリンの魔石だ。ついでに取り出しておいた。魔石は一日で魔物の中で溶けちまうからな」
「はあ、ありがとうございます」
それで、この魔石は何かの役に立つんだろうか。
「魔石は売れるぜ。レベルの高い魔物の魔石は属性補助にも使える」
「へえ、そうなんですかー」
つまりこれは、現在の私の稼ぎと言うことですか。
大事、大事。
「アゴルさんの馬車に戻ろう」
えっと、テッドは…そのままでいいの?
って言っても、木陰に移動してるけど。
「収納袋に人間は入らないんだ。ここに置いて…行くしかない…」
私の視線に気付いて、ギルは呻いた。
「そうですか…」
それが、ルールと言うのなら、私が口出しできることはない。
一番口惜しいのは、きっとギルなんだから。
私は口を噤むと、まだ幾分足取りがふらついているギルの後に続いた。
主人公はRPGの世界の恩恵は特に受けてはいない模様(笑)