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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
118/188

2 森の中

定番、森の中!


 目を開けたら今度は森!

 森のど真ん中!


 待て、コラ、エセ神!


 異世界でのんびりして来いって言ったら、町じゃないのか。

 普通は町から始まって、装備を整えたり情報を集めたりするんじゃないの?

 人っ子ひとりいない森とか、何の嫌がらせだ!

 情報一つ、集まらないわ!


 しかも、生えている木や草はなんか見覚えのないものばかり。

 え、っていうことは植生が元の世界と完全に違う?


 っていうか、他の世界とか、勝手に? 送り込んでもいいの?


 …あ、なんか思い出してきた。


 そもそも、乙女ゲームの世界に私を捲き込んだの、エセ神じゃん。

 でもって、バッドエンドとループを回避したら、私の一生は安泰だったはず。

 それが、なんでまた、意識不明の重態なんてことになってるのさ?


 多分、事故か何かなんだろうけど、経緯がさっぱり思い出せないし。


 そもそもここ、どういう世界なわけ?

 元の世界の隣の世界、辺りで位置的には合ってるの?


 いや、それにしたってね。

 解らないことだらけなんだよね。


「あーもー全く!」


 事前情報くらい、くれてもいいじゃない!


 イライラと頭を掻く。…掻けなかった。


 ああ?

 なに、帽子でも被ってる?


 いやでも布巻いてあるような…ターバン?

 取り敢えず布をむしり取る。

 白い布の塊。

 ターバンではないらしい。どっちかと言うと頭巾?


 頭巾?

 白い…頭巾?


 なんか嫌な予感がする。

 恐る恐る自分の体を見下ろす。


 …………純白の忍装束……材質は不明。手触りからして、全く謎素材。

 でも、忍装束。


「マジか…」


 思わずその場に膝を着きそうなくらい、体から力が抜けた。

 視界を白い繊維みたいなものが揺れる。


 確かめるのが怖いけど、これ髪の毛なんだろうなあ…


 そう言えば、エセ神が言ってたよね。


『君の大好きなキャラの彼、能力そのまま全部使えるから。大抵のことは大丈夫だよ。大盤振る舞いさっ。僕、優しー!』


 とか、何とか。


 キャラとか思い当たるのひとりしかいないよ。


 格闘ゲームの持ちキャラ。雪影。白忍者の呼び名の通り、ひたすら白いキャラだ。忍者なのに、全く忍んでない!

 ゲームキャラなんだから、それはそれでいいんだけど。

 でもって瞳だけは黒。アルビノではない。公式発表ではそうだった。


 まさか、新しく作られたとか言う体のベースがその雪影とは…


 痛い、痛すぎる。

 ゲームキャラっていうのは、画面から見てる分にはどれだけ派手でも良いけど、自分がなるもんじゃないよ。

 マジ、恥ずかしい。


 い、いやいやいや、ものは考え様だ。

 白忍者、雪影。ニンジャマスターなのだ。

 そのままの力が使えるなら、戦闘能力はかなり期待できる。


 わざわざ、雪影を選んだと言うことは、この世界はそれなりの戦闘能力が必要だと言うこと。


 え、のんびり出来る要素がない。


 でも、まずは装備のチェックだ。


 最初は武器だ。背に負う忍者刀『吹雪』を鞘から抜く。


「う……」


 冴え冴えとした刀身に凄みのある波紋。

 ヤバいヤツだ、これ。


 そりゃそうか。

 この器ごと装備品もエセ神が作ったのなら、これは紛れもなく神刀だ。


 チートレア物だ。


 威力は…


 吹雪を構え、正面の木に意識を向ける。


「疾風斬!」


 力を貯めて、吹雪を降り下ろした。


 吹雪から放たれた力は、幹周り一メートルはありそうな幹を斜めに斬り倒していた。


 スパーンと、実に景気の良い音がした。


 ゲームで聞き慣れた音じゃなかった。

 ゲームだと、ズシャアッとか、バシィィッとか言ういかにも痛そうな音になるんだけど。対人じゃないからかな?


 ちなみにこの疾風斬は雪影の得意技だ。剣圧で対象を叩ききる。そんな遠距離攻撃の技だ。

 忍者刀は基本、一般的な刀より刀身が短い。そのため忍者は近接戦型なのだが、この疾風斬が攻撃の幅を広げてくれる。


 実に有難い技なんだけど…木を真っ二つとか、威力強すぎる。

 予想を超えたよ。ここまでとは思わなかったよ。


 ごめん、木! 悪気はなかったんだよ。

 木に駆け寄って、切れ味を確かめる。


 うん、すっぱり綺麗。鉋をかける必要なし。


 …いかんだろ、コレ。絶対にいかんだろ…


 これ普段使いは止めた方がいい。

 下手に使えば、周囲への被害も尋常じゃない。何を誰を巻き込むかわかったもんじゃない。


 そもそも、雪影って格闘キャラな訳じゃない?

 格闘ゲームってさ、キャラは基本チートなんだよね。育てるまでもなく、最初からチート。ストーリーはさっくり、だから戦闘は常に全力。必殺技の応酬は当たり前。

 たがら、力を抑えるっていう感覚がない。必要もない。

 重要なのは、いかにタイミング良く必殺技を放てるか。対戦相手のHPを効率よく削るか。

 だから、力を加減するとか、マジわからない。

 でも、解らないままでは、この先確実にヤバいだろう。


 常に全力…被害が想像もつかない。


 そうなると、まず十分の一かそこらに力を抑えることから始めた方がいいよね。


 でなければ、目立ち過ぎる。

 それは私の望むところではない。


 勇者でもない限り、目立ってもいいことなんかない。下手な権力者に目をつけられたら、面倒なことこの上ない。


 あー、やだやだ。

 戦争の道具とかに使われたら…寒気がする。


 目指せ、普通!


 心に誓ったところで、そそくさと吹雪を鞘に収める。

 吹雪を装備している限り、加減するのは難しい。

 何か弱い武器を手に入れよう。その弱い武器が壊れないようにすれば、きっと加減の仕方も覚えるんじゃないかな。


 そうしよう。じゃあ、他の装備をチェックしよう。


 この短刀は『時雨』か。これもチート武器だな。はい、仕舞う仕舞う。


 後は、クナイとマキビシと手裏剣と礫と針と糸。

 針と糸は裁縫に使うような可愛いものじゃない。

 針の太さは畳針レベルで長さは二十センチくらい。糸は繊維ではなく…鋼糸?


 んー、暗器ばかりゴロゴロ出てくる。


 すごい…どれだけ出てくるのか。


 袖やら襟やら裾やら懐やら…その他あちこちから……

 ありとあらゆる所に隠してあったよ。


 しかもその全部、ちゃんと仕舞えた…無意識レベルで隠し場所がわかっている…さすが忍者。えげつない。


 一通り装備を確認したところで、重大な事実に気付いた。


 私が持ってるの、武器ばっかりだよ!


 食料とか持ってないよ!

 何より、財布もないよ!

 無一文だよ!!


 力があっても、これじゃ生きていけないよ!


 こ・れ・で、どうやってのんびり暮らしていけと、言うのか!


 エセ神!


 ちょっとここに来て、説明してくれないかな!


 ちゃんと、説明してくれないかな!





エセなあの人も、基本テキトーです。

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