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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
外伝 隣の異界と白忍者
117/188

1 エセ神と私

外伝始めます。


 ふと気がつくと、草原のど真ん中に立っていた。


 見覚えのあるような、ないような草原だ。

 芝生くらいの丈の短い草しか生えていない。

 ただひたすらに広いと言う意外に、これと言った特徴もなかった。


 だだっ広さは北海道の、なんとかの丘レベル。だけど、あんな起伏もない。

 草原だけを挙げるなら、雰囲気はゴルフ場が一番近い。けど、起伏が全くないので、ゴルフ場とも違う。

 ここがゴルフ場だったら、盛り上がらないから絶対に人気ないよ。


 それはさておき。


「ここ…どこ?」


 さっぱり解らない。


 大体、どうして私はこんな所にいるんだろう?

 取り敢えず歩いてみるかと一歩を踏み出したのに進めなかった。


 左手が引っ張られて、進めないのだ。


 ふと左手を見てみる。

 少年がくっついている。

 不思議な格好の少年。狩衣って言うの? そう言うのを着ている。

 一体、いつの時代の人?


「えーと、誰?」


 見覚えがあるようなないような。何かもう、さっきから記憶が曖昧なんだけど。この少年、知っているような気がするんだよねえ。

 大体、髪や衣装を引っ括めて全身真っ白な少年なんて早々忘れないはずなんだけど。


 そんな少年が私の左手をがっちりと握っていた。


 ぶんぶんぶん。


 振り解こうと振り回してみてもできない。


 おおう。

 それどころか、もっとがっちり握られたよ。

 いたた。

 少年のくせになんて握力なんだ。


 少年はニコニコ笑いながら私を見上げる。


「駄目だよー。手が離れたら、君死んじゃうよ?」


 少年は物騒なことを言った。


 ちょっと! 表情と言ってることが合ってないんだけど。


「死ぬって、どういうこと?」

「やっと、話ができるようになった…あのね。今君は魂が身体から離れている状態なんだ」

「幽体離脱?」

「そんなものかな」

「じゃあ、すぐに身体に戻らないと!」


 幽体離脱って、あれでしょ? 長く身体から離れているとヤバいんだよね。


「今はちょっと無理」

「なんで!」

「今の君の身体、死にかけ状態だから」

「死にかけ!」


 なんじゃ、そらー!


 なんで死にかけな状態になってるんじゃあ!


「事故みたいなもので、それで意識不明の重態なんだよ。記憶もあやふやでしょ? それくらいのことがあったんだよ。だから一旦、魂を離したんだ。そのまま身体に残しておくと、死にかけの身体に引っ張られて死んじゃいそうだったから」

「ふ、不穏なことをさらりと言うね…」

「本当のことだもん」


 少年はけろりとした顔で答える。


 なんだこの、他人事感…地味にイラっとくるわ。


「つまり、身体が持ち直すまでこのままってこと?」

「そう、と言いたいけど、僕も忙しいんだよね」


 子供のくせに忙しいだと?

 生意気!

 思わず睨むと、少年は笑う。


「だって僕、こう見えても神様だし」

「神様? 誰が?」

「僕が」


 えーー、神様だとか急に言われてもさあ。


「嘘だあ」

「本当だって。だから、身体から魂を離しても、君、昇天しないんだよ。本来なら、生命力の著しく弱った身体から魂を離したら、すぐに昇天しちゃうんだからね」


 つまり昇天しないのは、少年がずっと左手を掴んでいるから。

 でも、忙しいからずっとこの状態ではいられないと言う。


「え、つまり、このまま昇天するってこと?」

「それだったら、今こうして手を掴んでいる意味ないでしょ」


 じゃあ、なんなのさ。


「昇天しないためには、重石を付けるとかどこかに仕舞っちゃうとか」

「どっちも、ビミョー」


 重石とか仕舞うとか、糸の切れた風船じゃないんだから。


「でね、僕は仕舞う方を考えたんだ」

「え、仕舞うの? マジで?」

「うん。ただ、箱の中にって訳にはいかないから、別の器を作ってみたよ」

「器?」

「要するに、依代ね。それだと君も結構自由に動けるよ」

「別の身体に一時避難でOK?」

「うん、その認識で合ってるよ。その身体でさ、本体がもうちょっとマシな状態になるまでのんびりしていてよ」


 うーん。

 選択肢、ないよね、最初からないよね。


 この自称神様の言う通りにする意外、どうしろと言うのさ。


「別の身体で…ドッペルゲンガー的には大丈夫?」


 ドッペルゲンガーに会うと、死んじゃうんだっけ?


 それもヤバいんじゃない?


 神様はうんうんと首を縦に振る。


「うん、元の世界には戻せないよ。本体あるのに魂が別の形で近付いたら、混乱だけで済まないかも知れないから」


 やっぱり、ドッペルゲンガー的にヤバいらしい。


「だから、取り敢えず別の世界に行っていて」

「別の世界?」

「うん。そこでのんびり生活できるように、君の器、大好きなゲームの彼と同じスペックにしておいたから」

「は?」


 大好きなゲームの彼って…格闘ゲームのあれ?


 そんなの、具現化していいのか?


「大丈夫、大丈夫。僕、神様だもん。それにさ、君の大好きなキャラの彼、能力そのまま全部使えるから。大抵のことは大丈夫だよ。大盤振る舞いさっ。僕、優しー!」

「うわ、今までで一番、胡散臭い!」


 すんごい、他人事っていうかテキトー。もやっと感倍増! さらに倍!


 まあ、本当に神様なら、完全に他人事だよね。ちっぽけな人間の事情なんて、本当ならどうでも良いのかも知れない。


 どうして、こんな風に関わっているのか、さっぱり解らないんだけど。

 その理由はあやふやな記憶の中にあるのだろうか。


 いや、それは後でいいや。

 今、重要なのは。


「そんな能力付けて、どうしろと?」

「別に好きにすればいいよ…あ、ちょっとくらい引っ掻き回してもいいけどね」


 あ、今笑みが黒かった。何か企んでる。


「ま、そう言う訳だから、行ってらっしゃーい」


 いきなり、私はどこかに突き飛ばされた。


「え、え、ええーっ!」


 ろくな説明もないまま放り出された。


 マジか。


 あり得ない。


「あ、そうそう。君の性別、魂の形に引っ張られて、どちらでもなくなってるから。で、好きになった相手に引っ張られるから気をつけてね〜」


 遠く、自称神様の声がのほほんと響いた。


 なにソレ。どういう意味なのさ。

 突っ込みどころばっかりで、どこを突っ込んでいいかも解らないしよっ!


 質問しようにも、もう目の前には誰もいない。


 なんてこったい!


 奴は、奴はエセだ。神様とか言ってもエセだエセに違いない。


 あんの、エセ神ーー!


 私の叫びだけが虚しく響いた。


 こうして、私は避難と言う名目で、いきなり放り出された。


 ちょ、どこかくらい言っときなさいよー!





とりあえず、外伝というか、そんな話です。

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