終章
夢での説明だったけど、私がどうしてこの世界に転生したのかは、とりあえずわかった。
実に、迷惑な話だった。
エセ神としては他に方法がない、八方塞がりな状況だったんだろうけどね。
でも、そのせいで、私は向こうで転生する機会を失った。
もしかしたら、姉貴のところに転生していたかも知れないのに。さもなけりゃ、ご近所のどこかかも知れなかったのに。
こちらにいる限りは不可能だろう。
そう思うと、恨めしい気持ちがないとは言えない。
まあ、仕方ないと諦めもつくくらいには、いろいろ吹っ切れてはいるんだけどね。
あと、心配なのはエセ神が私の人生に介入してこないかどうかだ。
なんか、幸せにするってえらいテンション高かったんだけど。はっちゃけないでくれることを願うばかりだ。っていうか、さっさと落ち着け、冷静になれ。
…いや、あれがデフォだったよ…初めて会った時から、大体あのテンションだったよ。
あれが、平常運転かあ…うざっ。
さて、エセ神のことはもういいとして、新年度だよ。
待ちに待ってた二年生だよ!
これから先は、ゲームの知識なんて関係のない世界さ。
何が起きるか、全くわからない。
今までだって、いろいろ脱線して訳の解らない方へと行ったりしていたけどね。
それでも、何か強制的にシナリオに引き戻されてイベントとか、遭遇したなあ。主に私が!
おかしくない?
やっぱ、エセ神のせい?
それにしてもゲームの強制力って、ハンパないのね。
仮にも、神様が七転八倒するくらいだもんね。
簡単に基本シナリオが変更できるなら、エセ神だって七転八倒しないよね。
ともあれ、新学期。
私は二年生だ。
世界が壊れる心配はもうしなくて良いのだから、学園生活を満喫するぞー!
心の中で、高々と拳を振り上げ声に出さずに宣言する。
さて、二年生になったら何をしようかなあ。
なんてことをお気楽に考えながら、スクールバスを降りて昇降口に向かう。
おっと、その前に校舎の外に張り出されたクラス表を確認しないと。
なんてことを考えながらご機嫌に歩いて行くと、行く手に立ちはだかる者がいた。
「あ…あれ?」
制服はうちのなんだけど、なんか見覚えがあるような?
えっと、新入生……?
「やっと来た!」
新入生は私を見て、やけに尊大な態度で言い放った。
え、ちょっと……待て。
「遅いよ! 僕を待たせるなんて!」
「いや、スクールバスなんてこんなもん……って、冥記っ!?」
そう、私の目の前に立ちはだかったのは、冥記だった。
なんで、あんたがうちの制服着てるんだよ!
つか、新入生!?
「新入生とか、マジ?」
「そうだよ」
「なんで」
「あの後、学園に話をしに行ったら入学できることになったんだ」
「裏口より、酷い話だった!」
聞くんじゃなかった。
いや、学園側の対応も解るよ。苦肉の策ってやつだよね。
だって、闇の守護者だもん。野放しにはしたくないよね。今回の一件で、守護者の重要性は認識できた筈だから。
その辺、きっちり対応するとなると……あーつまりそういうことか。
目の届く範囲にってやつだよね。
その為にはひとりくらい、新入生枠に捩じ込むとか、できるだろうけど…
無茶しやがって…
「そもそも、どうしてこの学園に来たのさ?」
「君が言ったんじゃないか」
「何を」
「僕の居場所を一緒に探してくれるんでしょ」
「待て待て待て待て」
ヤバい。
こいつも、人の話を聞かない系だった!
居場所を探すとは確かに言ったけどね。
それはまず、自分で探してからって言ったよね?
それでも駄目だったら、手伝うってそういう話だったよね。
「それで、自分では探したの?」
「ひとりより二人の方が早いし、確実だよね?」
「真ん中、ごそっと抜きやがった…」
なに自分、良いこと言ったって顔してるんだ。
ただの横着者なのか、それとも単独で動くと言う意識が存在しないのか。
「はあ…とりあえず、他の守護者から、守護関係のことちゃんと学びなさいよ」
ほら、むっとした顔しない。
あんたも守護者なら、必要なことでしょうが。でもって、自分の重要性をアピールしときなよ。
「仕方ないな…」
「仕方ないじゃない」
「わかったよ。全く、僕に命令出来るのは君だけだよ」
やれやれ、みたいにため息をつく頬を思わず摘まむ。
「生意気なことを言うのは、この口かね?」
「いひゃい」
冥記が非難の声をあげる。が、無視をする。
「本当にもう、わかってるの? っていうか、ヒロは知ってるの?」
「ヒリョ?」
冥記は不思議そうに首を傾げた。
なんか、ヒロの苦労がちょっとわかった気がする。こんな感じで、人の話も聞かないで、ぶっ飛んで行くんだろうなあ。
しかも、マイナスのベクトルの方に。
ヒロは口が達者な方じゃないから、仕舞いには説得とか説教とか面倒くさくなったのかも知れない。
そんな気がしてきた。
いや、多分、それで間違いない。
「…ヒロのこともう少し大事にしなよね」
ヒロが不憫になってきた。
相変わらず、冥記はきょとんとした顔してるし。
そうやって、私を見ていた冥記だが、ふと考え込む。数秒考えて後、私に手招きした。
「なに?」
私は冥記に歩みより、頭半分の身長差を埋めるため心持ち身を屈める。
と、冥記はずいと私に向かって手を伸ばし、眼鏡やら髪ゴムやらを突然奪った。
「な、ちょ、冥記っ」
眼鏡がなくなり、頭はばっさばさ。
なのに冥記は、満面の笑みだ。
「やっぱり、こうじゃないと」
「何言ってんだ!」
慌てて冥記に手を伸ばすが、眼鏡しか取り戻せなかった。
仕方なしに眼鏡をかけたところで、アヤが来た。
「おはよう、ミーシャ。二年生になったからイメチェンするの?」
「しません!」
ソッコー否定すると、アヤだけじゃなく半歩後ろにいた河澄君まで残念そうな顔をした。
「別にいいんじゃないの、今さらだし」
土屋君の言葉に、アヤと河澄君が同時に頷く。
「ショウはこうじゃないと、ショウじゃないよね」
「あ、こいつ」
「確か…冥記…君?」
機嫌良さそうな冥記に、河澄君と土屋君が気が付いた。
二人は冥記のことを知っていたようだ。
当然か。
守護者には話を通しておくよね。
アヤも話を聞いて、ああと小さな声を漏らした。
「とりあえず、先輩とは思っておくよ。ショウ以外はね」
何故、ここで喧嘩を売るようなことを言う。
「もう、いいから。教室に戻りな」
「じゃあ、また後でね」
冥記はにっこり笑って、一年生の昇降口に向かった。
「はあ、新学期早々…」
「なんか、ミーシャ懐かれたみたいね」
「わかります」
呆れたような息をつくアヤの隣で、河澄君が大きく頷いた。何をひとりで解っているのか…
「思ったほどヤバくはなさそうだけど…」
確かに封印云々については、心配なさそうだ。
だが、私的には同じくらい面倒くさい事態だ。
「まあ、明宮の場合は今さらだろ?」
「何が、今さら?」
「だって、侑ちゃんとか圭ちゃんとか、雅さんとか高遠とか、面倒くさい奴ばっかりじゃん」
「え、その話の流れだと、その面子懐かれてるの?」
なにソレ、初めて聞いたよ。
「あ、いや…俺が悪かった…」
思わず聞き返したら、土屋君はチベットスナギツネみたいな顔で、首を横に振った。
「え、良くわからないんだけど」
「とりあえず、ミーシャ。教室に移動しよう。私と蓮君と一緒なのよ」
「俺だけ外されたー!」
いつの間に、クラス表を見たんだろう。
土屋君がひとり嘆いている。
「守護者は基本、別のクラスだから…」
河澄君の説明に納得する。
守護者全員まとめる訳にはいかないよね。
アヤが河澄君と同じクラスなのはルールから外れるような気がしなくもないけど、元々光の守護者は想定されてないだろうから良いのだろう。
「とりあえず、教室に…ああ! 髪ゴム持って行かれたままだった!」
冥記から取り返してないよ。
どうすんの、こんなボサボサの頭で。
「今のミーシャもいいよ?」
「格好良いです」
「もう、諦めたらいいんじゃね?」
「ええ…」
なぜ、二年生の新学期でイメチェンデビューしなくてはならないのか…
解せぬ。
しかし、まあ…
私は私で良いのかも知れない。
もう、ゲームだとかモブだとか、フラグとか関係ないんだし。
どうやら、寿命尽きるまで、幸せは保証されてるらしいし。
こんな私でも、アヤは親友でいてくれるらしいし。
………………いや、いきなりはムリだわ。落ち着かないわ。ハードル高いわ。心の準備不足だわ。
「…アヤ、髪ゴム持ってます?」
「シュシュならあるけど」
「貸してください」
「はい」
ふわふわピンクシフォンのシュシュで髪をまとめる。
「…これはこれで違う気がする…」
ダメだ。
軌道修正ができない。
「大丈夫、ミーシャはミーシャだよ」
アヤは私の左腕に抱き付いてそう言った。
「アヤ…」
お墨付きをもらったと言うのに、私は大変複雑な気分だった。
なんか…
いろいろ、方向性が違くない?
私の気のせい?
釈然としないまま、アヤを左腕にくっ付けて、教室に入る。
新しい生活が始まる。
本番は、これからだ! …………多分ね?
終わり
これにて完結。
長らくお付き合い下さいましてありがとうございました。
書き始めた頃は、50話位で終わるだろうと思っていたら、まさかの100話越え。
ろくにプロットを立てず、頭の中だけで書き続けるとこうなると言う見本ですね。
ともあれ、ありがとうございました。
次は、違う話でお会いできたら嬉しいです。
では。