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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
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あと少しーー。



 光と闇の奔流にふっ飛ばされた衝撃はあったが痛みはなかった。


 えーと。


 私、死んだ?


 よく解らないんだけど。痛くないってことは、そういうこと?


 そっかー。

 今回も短い人生だったなあ。

 そう言えば走馬灯とかなかったなあ。何が見えたのかちょっと気になるんだけど。

 私の場合、走馬灯には何が映るんだろう?

 前のと今回ので二人分になるのかな。

 なんか、二人分だと走馬灯も忙しない気がする。十六倍速くらいになるのかな?


「…宮さん。明宮さんっ」


 何だか私を呼ぶ声は必死だった。

 耳元で五月蝿いなあ。

 おちおち死んでもいられない。


 あれ、声が聞こえると言うことは、私死んでない?


 おー、早とちり。


 もたもたと目を開けると、和泉先生がなんだか泣きそうな顔をして、私を覗き込んでいる。

 んー、前にもこんなことあったような。


 あ、あれか。あやかしの攻撃食らったとき。

 ってことは、ただ今、絶賛トラウマ抵触中?


 ありゃあ、悪いことしたなあ。


「…和泉……先生?」

「良かった」


 名前を呼んだらそのまま和泉先生に抱きしめられた。


 く、苦しい。

 鼻と口塞がれて息ができないんですけど。


 ギブギブギブ。


 苦しいながら、あまり自由にならない手をわたわたさせる。


「そいつ、苦しがってるけど?」


 いつの間にか来た、高遠が助け船をだしたところで、ようやく私は解放された。


 あー、苦しかった。


「大丈夫か?」


 差し出された手を取って立ち上がる。


「大丈夫、みたい?」


 どこも痛くない。

 頭とか内臓も。

 怪我もなさそうだ。


 あの衝撃はなんだったんだろう。


「高遠は大丈夫だった?」

「俺はちょっかいかけたら逃げるの繰り返しだったからな。で、いきなり化け物が消えたから上がってきた。終わった、でいいんだよな?」

「多分…冥記は…?」


 屋上に冥記の姿はない。行方を聞くために和泉先生を見たら、小さく首を横に振られた。


「光と闇の力の爆発の後には、もう姿はありませんでした。


 まさか、物理的にぶっ飛んだ?


 いや、いくら何でもそれはないだろう。そんな感触はなかった、と思いたい。


 一瞬、私の顔が引きつったのを見て、和泉先生は再度首を横に振る。


「彼も大丈夫だと思いますよ。封印に綻びはありません。むしろ、神宮寺さんのお陰でしょう。より強固なものになったような気がします」

「そうですか…」


 冥記に何かあれば、目の前の封印に影響がないはずがない。


 守護者にしか解らない変化だ。


 私には、封印の違いなんてさっぱり解らないから、和泉先生の言葉をそのまま聞いておく。


 屋上の床面にはもう魔方陣は全く見えない。

 良かった、あの微妙なシュールさがなくなったよ。


「…冥記が引いてくれたってことかな」


 私の言葉が少しでも届いてくれたら良いんだけど。


「彼は、貴女の手を取りました。きっと、わかってくれたのだと思いますよ」

「封印が壊されなくて良かった」


 これで世界は壊れないよね。

 ほっと胸を撫で下ろしていたら。


「……明宮さん?」


 なんか怖い声が、静かに響いた。


 あーあーあー…


 ヤバい。魔王が来た。


 振り返るのが怖いんだけど。

 この背後から押し寄せる圧迫感。

 物理的な力があったらきっとぺしゃんこになってる。

 それくらいの圧だ。

 うわあ、鳥肌が立った。すごい、ザッワザワ。


「どうして君がいるのかな?」


 魔王の声が響く。


「ひ、火村先輩……」


 そろりと振り返ると、胸元で腕を組んだ火村先輩が仁王立ちしていた。


 魔王降臨!

 ラスボスは奴だった!

 ヤバい、勝てる気がしない。


「明宮さん?」

「あーえー、やっぱり気になって?」


 誤魔化せるとは思えないので、あっさり白状する。

 いろいろ付属する部分もあるが、基本はこれ。


 気になったから。


 これ以外にはない。


「今日のことは知らせていないはずだけど」

「聞いてませんが、ちょっと考えたら解りますよね?」


 高遠だって完全部外者なのに予測できたんだから、ゲーム知識を持つ私が解らないはずないじゃん。

 それは言わないけど。


「だからって、来るか?」


 五十嵐先輩が怒鳴り付けたいのを我慢するような表情で呻いた。


「ミーシャ?」


 泣きそうな声と共にアヤが私に飛び付く。


「どうして来たの? 危ないことしないでって、言ったのに!」

「アヤ……」


 半泣きで私にはしがみつくアヤの頭を撫でる。

 心配は、するだろうね。完全部外者で、守護者の力を持たないのだから。

 まあ、守護者外の力はあったんだけどね。

 エセ神の底上げ的な何かが。


「放っておけなかったんです」

「…わかってる……わかってるけどぉ…」


 アヤは当分泣き止みそうにないので、落ち着くまでそのままにしておく。


 アヤがくっついてると、火村先輩が怒るに怒れないみたいなのよね。

 ありがたい!


 私は最強の盾を手に入れた!


「お、やっぱ来てたか」


 刀を無造作に肩に負い、久我っちが来た。

 封印の位置の関係か、バラバラに来るんだ。


 屋上って、そんなに重要な場所だったっけ。

 違うか。さっきの爆発に気付いたら、確かめに来るか。


「まあ、お前なら来ると思った」

「思ったなら、どうして教えないんだ」


 五十嵐先輩が久我っちを睨む。

 今、私を怒鳴り付けられないので、その余波が久我っちに向かったようだ。当然、久我っちが堪える筈もない。

 久我っちはしれっとした顔で言った。


「いつ来るかまでは解らない奴に戦力は回せないだろ」


 久我っちは私の足元に転がっている木刀を見て、ニヤニヤ笑った。

 私が何のため来たのかまで読んでたかー。

 まあ、久我っちは何か強化補正の入った私を直に知ってるしね。

 それなりに、戦力と見てくれてたんだ。

 ちょっと嬉しい。


「久我っちは大丈夫だった?」

「おう、何とかな。あのヒロって奴、面白いな」


 やっぱり、久我っちはヒロとぶつかったか。

 いや、もしかしたら自分からぶつかりに行ったのかも知れない。

 よく見たら、結構ぼろぼろな感じ。

 一番、一戦交えました感が強い。


「勝った?」


 あのヒロとやり合えるのは久我っちだけだ。勝負はどうなったのだろう。

 聞くと、久我っちはひらと左手を振った。


「イーブン。とは言い難いな。もうちょい、時間があったらヤバかった」

「久我っちでも?」


 それは驚きだ。

 目を見張る私に、久我っちは肩を竦める。


「スタミナ差、だな。長期戦は俺が負ける」

「そうなんだ」


 戦闘スタイルの差ってやつなんだろう。

 前に見たあやかしの倒し方は、一撃必殺って感じだったもんね。

 体格を考えても、久我っちは長引けば力負けしただろう。


「委員長!」

「明宮、きてたのか!」


 河澄君と土屋君が来た。後ろに唯先輩がいる。

 唯先輩に合わせて来たのかな。唯先輩のことだから、どこかで転んでそうだし。


 河澄君が来たことで、アヤは私から離れて河澄君の方へと行った。半泣きのアヤをそっと河澄君が抱き止めた。おおぅ、なんて自然な…リア充め。


 ああ、防波堤が…


 アヤが離れて、火村先輩が一歩近付く。

 私は一歩を退いた。


 このままだと、ヤバい気がする。

 とりあえず、逃げていいかな?


「…封印も無事だったことですし、私は帰ってもいいですか? 実は黙って家を出て来たんですよね」

「君は!」

「お前はっ!」


 火村先輩と五十嵐先輩が同時に声を荒げた。

 が、その後で額を押さえている。


「帰りなさい」

「送りましょう」


 説教をしたいが時間が時間なので、火村先輩は仕方なく諦めてくれた。

 和泉先生の申し出には首を横に振る。


「自転車なので結構です。では、お先に失礼します」


 火村先輩の気が変わる前に、私はさっさとその場から退却した。


「明日、覚えておいてね」


 背後に火村先輩の声が聞こえたような気がしたけど、気にしなーい。


◇◆◇


 草木も眠る丑三つ時に家に帰り着く。


 そっと玄関の扉を開けると、三和土に御幸ちゃんがいた。


「御幸ちゃん…」


 ヤバい、御幸ちゃんにバレてた!


 怒られる、と思ったが御幸ちゃんは何も言わず、二階を指差した。

 さっさと上がれと言うことだ。


 私は足音を忍ばせたまま、二階に上がり自分の部屋に入る。

 と、御幸ちゃんが着いて来た。


「母さんは?」

「寝てる。誤魔化すの、大変だったんだからな」

「ありがとー」

「それで?」


 お礼を言って終わりと言う訳にはいかなかった。御幸ちゃんは小声だが、怒っているのは解る。


「学校に行った…」

「例の化け物?」

「うん」


 さすが御幸ちゃん。全てお見通しですかー。


「とりあえず、もう大丈夫だよ。化け物は出て来ない」

「それはつまり、もうしぃは危ないことはしないってことだな?」

「もうしない」


 私は大きく頷いた。


 あやかしとか、もう関係ない。

 これからは、平和な学園生活だよ。


 アヤは河澄君のルートで確定だし。


 うん、きっと大丈夫。


「それなら、いいんだ」


 御幸ちゃんは安堵の息をついた。

 御幸ちゃんにも心配かけたんだね。


「ごめん」

「言いたいことはまだまだあるけど、今はやめとく。さっさと寝るように」

「はぁい」


 私は素直に頷いた。


 御幸ちゃんが部屋から出て行って、すぐにパジャマに着替えてベッドに潜り込む。


 思っていた以上に疲れていたようで、横になった途端意識がかなった。


 夢も見ないくらいの爆睡だった。




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