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月の姫君とそのナイト?   作者: 向井司
一部 月の姫君とそのナイト?
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 冥記は私を見て不思議そうな顔をする。

 多分、すぐには思い出せなかったんだろう。

 一回会ったきりだもんね。

 私だって忘れる。


 しかし、数秒の後に冷ややかに笑った。


「…次はないって、言ったよね?」


 ああ、確かに言ったね。

 私はわかったとは一言も言ってないけどね。


 そして魔方陣からあやかしが跳びだす。

 何もない空間から突然現れる感じ。

 封印が異界の入り口なんだなあ、と実感する。


 どうやらあやかしは冥記に命じられて出てくる訳ではなさそうだ。

 封印から跳び出しただけなんだろう。冥記に攻撃しないのは、封印の真上にいるから、認識できない?

 今のところ、冥記は安全のようだ。


 頭が二つある豹みたいなあやかしは、私を舐めているのか真正面から飛びかかってきた。

 それを上段から叩き伏せる。


 あやかしは一撃で沈んだ。


 やっぱり、なんかパワーアップしてる。


 階段を上ってる時から、変だなー? とは思ったんだ。


 確実に自分の予想を越える強さだもん。雪影の技を使えなくても、力や反応速度は十分あやかしに匹敵するような気がする。


 木刀で一撃って言うのが、そもそもおかしくない?

 どこかのお土産の木刀だよ?


 本来、あやかしは守護者が対応するものだよ。一般人がどうこうできるなら、守護者はいらないよね。久我っちみたいなその筋の専門家は除くよ。もちろんね。


 まあ、弱くなってるならまだしも、強くなってるならいいかな、とは思わなくもないけど、極端過ぎるんだよね。


 これはもう、エセ神が関わっているのは確実だ。

 ここまで底上げされたら、疑う余地はない。


 やっぱり、ここが正念場ってことだ。ここで決めろってことだ。


 うん、私は間違ってない!

 今夜の私に敵はいない!(当社比)


 でも、事前説明は欲しかったかなー。


「次なんかいらないんだよ!」


 今、ここで終わらせる。

 これ以上、長引かせてたまるか!


 駆け出す私に、今度は四つ目の大蛇が飛びかかる。

 それを真横に凪ぎ払うと、水の塊が大蛇を弾き飛ばし、その先で細切れになって消えた。素晴らしい、連携プレー。どうやら、先刻の豹も和泉先生たちが止めを刺してくれたようだ。


 鎌鼬。やっぱり、あのおじさんは五十嵐先輩の関係者だ。

 フォロー入ると助かる。まじ、助かる。


 その間にも、私は冥記の目の前に辿り着いた。

 冥記は唖然と私を見ている。


 だよねー。


 守護者でもない一般人が、目の前まで迫って来るとは思わないよねー。

 ヒロからも聞いてないだろうし。っていうか、ヒロは知らないし。

 私も、ここまで出来るなんて、つい先刻まで知らなかったし。


 動揺しているなら、チャンスだ。


 私は冥記に向かって怒鳴った。


「自分の居場所がないからって、世界を壊すんじゃないよ。子供かっ!」

「うるさいっ。あんたに僕の何が解る!」


 出ましたー。『僕の何がわかる!』ですよー。

 テンプレありがとー。


 真正面から暴言を吐いたら、冥記はえらくストレートに跳ね返した。

 流せないのは、やっぱりまだ子供ってことだ。

 なら付け入る隙は、多分ある。


「解るかっ。私は超能力者じゃない」


 冥記が今まで辿って来た道なんて解らない。ゲームの設定だけでは、表面をなぞる程度だ。理解しているとは言い難い。

 そんなので『解る』なんて言えるほど、私は傲慢じゃない。


 今、この地で冥記を理解しているのはヒロだけだろう。

 ヒロは今、誰と対峙しているんだろうか。

 久我っちかな。ヒロの戦闘能力は説明した通りだし。

 真正面からやり合うなら、久我っちが妥当だよね。


 ヒロも大概バカだと思うけれど、ずっと近くにいてくれたヒロに気付いていない冥記もバカだ。


 傍に居すぎて、近くに居すぎてそれが当たり前になった。


 空気みたいなものだ。


 だけどね。生き物は空気がないと生きていけないんだよ。なくなってから、気付いても遅いんだよ。


 今、気付かないと、後悔するのは冥記なんだよ。


「居場所がないとか、探したのか! 家になかったら家の外。外になかったら別の町。町になかったら別の県。県になかったら別の国。百分の一でも探したのか!」


 はっきり言ってこれは極論だ。だけど、居場所は家の中だけじゃない。私は身をもってそれを知っている。


 私が私でいられた場所はゲームセンターだった。両親も御幸ちゃんも優しい。大切な家族だ。それは間違いない。

 でも、それでもあの日あの時、私の居場所は家の中にはなかった。

 いろいろあった今なら割り切って考えることもできるけど、前世と解らない状況で、気持ちだけが『向こう』に捕らわれたままだったら、居場所なんてこの世界のどこにもない。


 だから、先刻の言葉に反するのだけど、冥記の気持ちはちょっとだけ解る。


 自分の居場所がどこだか解らないのは苦しい。どうしたらいいのか、解らないのは悲しい。途方に暮れて立ち尽くすしかないのは、辛い。


 その中で見つけた場所は、どれだけ救いになったか。


 最初、声を掛けてくれたのは久我っちだ。けれど、その場所に居続けたのは私の意思。


 そして、居場所を作ったのは私の力。


 それは紛れもない事実だ。


「探しもしないで、ないとか言うな!」


 冥記はまだ中学生くらいだ。

 視野は狭い。

 それに比例して、認識できる世界も狭い。


 だから、自分の周囲しか見られないんだろう。仕方のないことと言える。


 でも、世界なんてものはとんでもなく広いんだよ。


 何せ、近接するとは言え、異世界もあるんだからね。


 単純に考えて、科学的に証明されている世界の倍はあるんだよ。


 居場所がないなんて諦めるには、早すぎる。


 冥記は私が言いたいことのどれだけを理解したのだろう。


 向けられる感情に敵意以外のものが含まれつつあるから、何かしら意識に止まったのだと思う。


「全力で探してから言え!」

「探しても、見つからなかったら、どうするのさ」


 冥記は泣きそうな顔で呟いた。


 探しても、見つからなかったから…恐らく心が耐えられない。

 それが怖いから、一歩を踏み出せない。


 居場所がないと思い知らされるくらいなら、自分から切り捨てた方がまし。


 わかるよ、わかるけどね。そのまま閉じちゃうには早すぎるでしょ。


「その時は、私が一緒に探してやる!」


 一人じゃダメなら二人、二人じゃダメなら三人で探せばいい。その時は私も手伝ってあげるよ。


 きっと、何か見つかる。


 徳川埋蔵金よりも確率高いよ、絶対に。


 だから。


「だから、いつまでもそんなところにいないで、こっちに来い!」


 そんな、訳の解らない魔方陣から、さっさと出てこい。


 全てはそれからだ。

 一歩を踏み出せ!


 差し出した手に、冥記はびくりと震え、恐る恐る手を伸ばす。


 指先が触れたと思った瞬間、光と闇が溢れ爆発した。


「っ!」


 私の体は、心はその爆発にふっ飛んだ。


 当然、そんな衝撃に耐えられるはずもなく気を失った。


 最後に、冥記の手を掴めた。と、思いたい。


 確かめようもないんだけど。




やっと、ここまで来た…

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